ベーコンエビ
試作です。
ほぼ会話文だけで成り立たせようとした同棲モノ。
「ベーコンエビってさあ」
そう言いながら花園マツリが二本目の缶ビールを開けた。
すかさずユタカが言う。
「ピ」
「ピ?」
「ピ」
マツリが黒ラベルを飲みながら、目を上空に彷徨わせる。
「…カチュー?」
「違うって、ベーコンエ、ピ!」
鍋から茹で上がった鶏肉を取り、ユタカがマツリのとんすいに放り込む。
「違うよ、ベーコンエビだよ!」
鶏肉を口に放り込み、マツリがダイニングテーブルにビールを置きながら、反論した。
空の缶ビールが響き合う音。
「でもさ」
とユタカが鍋から灰汁をすくいながら言う。
「ベーコンエビ、だったらベーコンかエビかわかんないじゃん」
「でもいってたもん! ベーコンエビって」
子供みたいに頭を振るマツリ。
ユタカが持っていた菜箸を止めた。
「誰がよ」
「……タモさん?」
考え考えマツリが舌を口からはみ出させる。
何時もはしない顔。酔ってる時の癖だ。
「タモリ倶楽部で言わないと思う、てかさネットで調べようよ」
「やーや」
「やーやじゃない。赤ちゃんじゃないんだから」
「赤ちゃん! 赤ちゃんなの!」
マツリが口をとがらせて、続けた。
「じゃあそんなに言うなら、ユタカ調べてよ」
そのまま黒ラベルの底を天井に向ける。
マツリの白い喉が上下に揺れた。
ぷはっと息を吐いて、目を閉じたままマツリがしなしなの白菜をつまむ。
「今はビール飲んでるからスマホ見たくないー」
「いや調べなくてもわかってるし」
「それに、ユタカのお鍋食べてるときに、頭使いたくないの! 美味しいから!」
「それ、どうこたえていいかわかんない……とりあえずありがと」
へへへ。とマツリが笑う。頬が赤い。
直ぐにマツリの表情が変わった。
「スマホで思い出した! スマホはもう見飽きたの! スマホのことばっか仕事で話してんだから!」
ユタカは肩を落とした。
「わかったって……最後のおじやにする? ラーメン?」
「……ラーメン」
「じゃあ鍋の底さらっといてよ」
ユタカは椅子から立ち上がった。
大人しくマツリが箸で鍋をかき回す。
「ういー。どこどこ? あたしの白菜ちゃん」
ユタカは聞き流しながら、日清ラ王を取り出した。軽く、日本酒でもみ、ほぐす。
ボウルに入れて、ダイニングに戻ると、マツリに聞いた。
「…‥で、さっきのベーコンエピ何言おうとしたの?」
ラーメンを鍋の残り汁に放り込み、カセットコンロのノブを回した。
「ベーコンエビ」
マツリが唇を尖らす。いつの間にかエビスが握られてる。
「じゃあ、ベーコンエビでいいよ……」
「んーろね……なんらっけ?」
「なんだったの……」
ユタカが肩を落とした。
結局なんだったんだろう、ベーコンエビの話。
……いや、ベーコンエピ。
えへへ。何時もは見せない緩んだ顔で、マツリがラーメンをよそう。
「ああ、ほら汁、汁」
台ふきんでマツリが飛ばしたラーメンの汁を拭いた。
「ラーメンおいしー!」
マツリの、ラーメンの啜る音が響いた。
*
「ユタカ」
翌朝、マツリがトーストを食べながら言った。
ユタカが聞く。フライパンから直接、目玉焼きをマツリの皿に移す。
「なに?」
「思い出したよ、ベーコンエビ」
「ピ」
「ピ?」
ユタカは肩を落とす。
自分の皿に目玉焼きを移しながら聞いた。
「いや……いいや、それでベーコンエビがなに?」
「そうそう、ベーコンエビってさ。尖ったところ、口の中に刺さらない?」
「……うん」
「……それだけ」
ユタカはフライパンをコンロに置く。
ため息をつこうとしたが、出来なかった。
後ろから柔らかい感触が体全体を包む。
いつの間にか、マツリがユタカの胴に、腕を回していた。
「……ごまかしてる?」
「そう、ごまかしてる」
上から降ってくる声に、ユタカは見上げた。
「行ってくるね」
「……行ってらっしゃい」
マツリが身体をかがませた。
ユタカはつま先を伸ばした。
「「へへ」」
(了)




