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犬になりたい

試作2本当に喋るだけです。

 花園マツリが帰ってくるなり叫んだ。


「あーもうやだやだやだやだ」

「あーもう廊下にジャケット脱がないで、スカートも」


 廊下に散らばる衣類を集めてユタカがぼやく。


「だってもうさあ、部長がさあ」

「わかった、わかったから。スーツ、ハンガーかけとくね」

「ん―……」

「で、どうしたの?」


 ソファに寝転ぶマツリが脚をばたつかせる。


「あたし、間違ってない」

「なんのことか、わかんない……」

「間違ってないから! ユタカに言ってもわかんないけどさ! クライアントにね、ちゃんと言ったんだよあたし! でも部長が頭下げろって」

「……わかった。多分、間違ってない」


 ユタカが転がったトートバッグを拾った。


「ほんとにそう思う?」


 ソファから、上目遣いにマツリがユタカを見る。


「ほんとだってほんと……あ、きなこもちチャンネルに新しい動画、アップされてるよ」

「あーホントだ……良いな良いな犬」

「コーギーかわいいね」

「……なりたい」


 スマホの画面を見つめていたマツリが言った。


「何に?」

「犬! もう人間でいるの嫌!」


 ソファのクッションをマツリは叩く。


「……やめて、ホコリたつから」

「犬だったらさあ! ずっとずっとカワイ~♥って言って撫でてもらえてさあ! ご飯買いに行かなくて、モフモフされてるだけでいいんだよ!?」

「それだけじゃないと思うけど」

「絶対それだけ! 犬! 犬になりたいよお!」

「……じゃあ、シミュレートしてみる」

「……シュミレート?」

「シミュレート。とりあえず四つん這いね」


 ユタカは床を指さした。


「う、うん」

「よーしよしよしよし」


 四つん這いのマツリの背中をユタカは撫でる。


「えへへ……」

「いや、ちがうでしょ」

「え?」

「そこはへっへっへっ、だよ」

「……へっへっへっ」

「よーしいい子だマツリ~。じゃあこれボール取れるかな―?」

「ぶふっ」

「真面目にやってるんだよ? こっち」

 ユタカがため息をついた。


 マツリが口のよだれを拭く。

「ごめん……わんわん!」

「じゃあ、そーっれ!」

「わんわん!」

「あー上手に取ってこれたねえ、いい子いい子。よしよしよし」

「くぅ~んくんくん……ちょっと待って」

「なに?」

 マツリは体育座りする。

「膝いったい」

「はやくない? 老化?」

「グルルルル」

「犬に戻らないで」

「人に戻したかったらナデナデしてください」

「もう人間じゃん」

「グルルルル」

 ユタカがマツリの頭に手を伸ばした。

「……はい」

「へへ」

「我が家のセントバーナードだね」

「もっと可愛いのにしてよ」

「身体大きいし……」

 マツリが首を振る。

「大きいのだったらもっとあるじゃん! 可愛いヤツ」

「ボルゾイ?」

「あんなに顔長くない!」

 マツリが床に転がった。ユタカはそのままお腹を撫でる。

「じゃあバーニーズ・マウンテン・ドッグだ」

「なにそれ? よくわかんない」

 ユタカがスマホを取り出す。

「ほらこういうの」

「あかわいい」

 仰向けで、マツリが目を閉じる。

「膝いったいけど、やっぱりこうやってお腹撫でられるのはいいかも」

「そう?」

「やっぱり犬になりたい」

「でも犬だったらご飯ドッグフードだよ」

「」

「黒ラベル飲めないし」

「……人でいいか、今のとこ」


(オワリ)

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