セリア・ケイの明晰夢の中
彼女は再び歩き続けていた。しかしながら、今回は見知らない道をひとりであった。どこまでも続く道は、西の方角に向かっていた。西に行けば、自分のことを理解してくれる人がいるからである。彼女にはそんな気がしていた。目的地にたどり着いたとき、その人に会うことで、ある勇気が持てるような気がしていた。
その勇気とは、これからのドラゴン殲滅戦に赴くための恐怖に打ち勝つ勇気、というわけではなかった。悔恨の情に疲れ果てた自分から逃れるため、誰も助けることができない非力な自分から逃れるため、命を清算する勇気、そんな死ぬための勇気を持ちたいと望んでいたのである。
気がつくと、彼女の目の前をトカゲが横断していた。どうやらトカゲは目の前のコオロギを狙っているようであった。トカゲがコオロギに向かって駆け出した。トカゲに咥えられたコオロギは、助かるために必死にもがいているのが見えた。
そして、セリア・ケイは目が覚めた。意識がはっきりすると、夢のことが妙に気になった。夢の中で、なぜ西の方角に向かっているのか考えてみた。夢の中の出来事は、すぐに忘れ去ってしまう。自分の深層をのぞくには、夢の記憶が消える前に分析が必要である。
西の方角にあるものといえば、それは太陽が沈む方向。西の方角に向かっていくということは、すなわち闇に向かっていくことの象徴である。ケイ少佐は闇に向かおうとしている心が存在することに、自分自身で困惑した。闇とは全てを犠牲にしてでも、妹を助けたいという思いに他ならなかった。
周囲だけでなく自分の気持ちにすら嘘を言い続けていた結果として、闇に向かって突き進むことになったのかもしれない。自分の気持ちがそれを望んでさえいることに、自分の理性が咎めているのかもしれない。だから、自分の葛藤する理性を殺すことを望んでいるのかもしれない。たとえ、その結果として、今まで自分が築いてきたものが闇の中で壊れてしまうことになっても、そんなことはどうでもいいと心の底では思っているのかもしれなかった。
闇の中であれば彼女の嘘は隠される。闇の中であれば彼女の嘘をつく表情は隠される。闇の中であれば、彼女の過ちは誰にも見えない。闇の中であれば、彼女は何をしても、自分の理性さえからも隠れることができるように思えた。
そんな漠然とした思いが、夢として現れたのかもしれなかった。この夢を見続ければ、その闇の正体がわかったかもしれなかった。しかしケイが知らない重要なことがあった。夢の中で命の清算とは、生まれ変わることを象徴していることもあるのである。
彼女はサラの写真を取り出した。写真であるため、いつも同じ表情のサラが、今日に限ってサラが不機嫌になっているように見えた。サラが生きているときに一度も見せたことがないほどの不機嫌な表情に、まっすぐに写真を見ることができなくなった。
「サラなら、分かってくれると思ったのに…」
彼女なりの抗議であった。命の清算でサラの処に逝けるたら、天国でまた会えるから、そうすれば昔のように二人で暮らせる。きっと喜んでくれるに違いないと自分を言い聞かせていた。しかしながら、彼女の本心はサラが家族の死を望むわけがないことを承知していた。




