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勇者のあとしまつ  作者: 鮫餌 愚


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2/2

僕が僕であるために

「オリン、ついて来れるか?これから先は一歩間違えば誰かの命に関わる。逃げたければ逃げて良い。誰も君を責めない。」


「義父さん大丈夫。」


しばらく進んだ先で、


「オリン見るな!」


義父は叫んだが、手遅れだった。同い年くらいの男の子の亡骸があった。ほとんど上半身が残っていない。


「こ…この子に何が…」


「ドラゴンの尾に当たったんだ。」


義父が指を差した壁には赤いシミが付いていた。


そこから進もうとしたが足が思うように動かない。


「どうした?」


「足が…」


「分かった。離れ−」


卵が腐ったような匂いが強くなった。


「どうやらこっちに気づかれたらしい。完全にこっちを狙ってる。」


「戦うしかないの?」


そうは言ったがまだ恐怖で体が震えている。


「そうだな。これを被ってろ。」


そう言うと義父はヘルメットを私に被せた少し汗の匂いが残っている。


「これは…お義父さんが大切にしてたものじゃ。」


「そうだけど、あげる。あとこれにはこれまでの騎士団長全員の力が込められているんだ。だから勇気が湧いてきただろ?」


そういえば少し恐怖が和らいだ気がする。


「お義父さんありがとう。」


「それはそうと、行けるな?」


「うん。」


仮眠が終わったが、まだ視界が暗い。


どうやら、またヘルメットを被って寝てしまったらしい。


勤務中ほとんど被りっぱなしとはいえ、外した時に顔にヘルメット跡が残っているのは恥ずかしい。


仮眠室から出ると、数ヶ月前にブラム騎士団に入った新人に声を掛けられた。


「オリン団長、トリノ中央病院で逃げられたスーツ姿の2人の男なんですが…」


「なんだ?」


「ここから数キロ北のターミナル駅前の路上で死体として見つかりました。」


「死因は?」


「片方は完全に首が折れて即死。もう片方は全身に大火傷。」


「私と一緒にいた魔族の男は?そいつらの死に関与できそうか?」


「無理そうですね。これまで習得や訓練履歴も無さそうです。因みにそいつの名前はなんて言ってましたか?」


「ルメルだっけ?ロメルか?」



 しばらくして、引き継ぎが終わり更衣室で着替えながら出会い系を見ていると、あの馬鹿そうな魔族のプロフィールを見つけた。


 もしかしたらコイツもあの母子について何か知っているのかもしれない。


 少し考えたのち、いいねを押した。




 そして翌朝、ちょうど母親の方と同時に退院するタイミングでデートと称して拾う事にした。娘の方を連れて。



 「これってデートじゃ無さそうですね。」


 無視した。


 「意外とオリン団長って素顔カワイイ系のお顔なんですね。ところで、私達も一緒に行かなきゃダメなんですか?」


 母親の方も質問してきたが、これから行く先で説明すれば良い。


 そう思いながら喫茶店に車を走らせた。




「で、口を開かないつもりですか?うちの作者の初デートじゃないんだし、しっかり話ましょうよ。」


 スマホをいじってメッセージを送った。


 『この母子が狙われる理由は?』


 「知らない。初対面だし。」


 『奥さん、恨みを買う様なことは?』


 メッセージを受け取ったあの馬鹿そうな魔族は犬のウンコが家の前に落ちてた時の様な表情だった。


 魔族の男はそのウンコを処理する時の様な表情で隣の母親に見せた。


 「…知らないです。」母親の方はそう言ったが何かよそよそしかった。




 魔族の男が飲んでいたアイスコーヒーの色が麦茶になるほどの時間が経ち。溶けたソフトクリームにデニッシュ生地を浸し、口に運ぼうとしていると、座席の窓が暗くなった。


ガシャーン!


 私は隣に座っていた女児を机の下に押し込んだ。


 砂埃が収まって周りを見渡すと、ここに来るまで乗っていた車が窓に突っ込んでいた。



 「飲酒運転かぁ〜?」


 あの馬鹿そうな魔族の男が言った。どうやら全員無事らしい。


 外で何が起きたか見ようと会計して出ようとしたが、あの馬鹿そうな魔族の男に止められた。


 「飲酒運転どころの騒ぎじゃ無いですね。ほら。」


 指した先にはヨモツ•ルプスのマークがついた車があった。


 くそっ、なんでこんな時に。


 ヨモツ•ルプスは魔族の権利向上を目的とした組織だ。いや、そうだった。


 魔族の権利向上という大義名分こそあれど、今現在やっていることと言えば、議会周辺の道路への座り込みだの、デモの行進中に近くの家族連れに暴行などの正義を振り翳した犯罪だった。


 そういえば、つい最近に幹部を性犯罪でふん捕まえた覚えがある。その復讐か?


 「オリン団長、この間は我々の幹部がお世話になりましたねぇ。」


 気取った感じの魔族の男が言った。歳は3,40といったところか?


 「続けさせてもらいますねぇ。我々はその復讐に来たわけじゃありません。」


 じゃあなんだ?やっぱり飲酒運転か?


 「我々の同志を返していただきたい。」


 まさかこのアホそうな奴が?


 「20歳くらいの女性と6歳の女の子を保護していることは知っています。」


 違った。


 「もちろん抵抗したら、分かりますよねぇ。」


 銃をポンポンと叩きながら言った。店内はパニックだった。だが、それ以上に頭の中が騒がしい。


 「オリン団長、昨日みたいにパッパとやっつけちゃってくださいよ。全員店内に居ますし、人質を取られる心配はなさそうですよ!」


 ああ…オリン”団長”なら。スマホをいじってなんとかメッセージを送った。


 とりあえずメッセージを送ることができたが、全身の力が入らない。


 大丈夫だ…発作時の薬も装備と一緒に持ってきてもらう様に頼めた。あとは心を落ち着かせるだけだ。


 だが、それも上手くいかなかった。


 店内の隅に体育座りをしたが入り口近くが騒がしい。


 「我々は、事を荒げるつもりはありません。もちろん我々の同志を傷つける様な真似や、あの母娘を素直に返していただけない場合は、分かりますよねぇ?」


 「分かりました!じゃ怪我人を病院に連れて行きますね!」


 ぁあんのぉ馬鹿魔族!これ以上相手を刺激するな!こちとら発作がやばいのに。また頭の中が騒がしくなる。


 「角折れは黙っていろ!魔族の恥め!」


 数秒後、あの馬鹿魔族が店内に戻ってきたと思ったら、近くにいた店員を抱き抱え裏口に向かって走って行った。


 あの馬鹿魔族はそれを数回繰り返し、私の近くにヘナヘナと座り込んだ。


 「はぁっはあっ。あとっ…何回っ…これを…繰り返せば..いい?」


 知らないよ。というか少なくとも相手を刺激させないでくれ。とはいえこれで少し人質は減った。


 「何か手伝えますか?」


 見知らぬ人間の男性があの馬鹿魔族に声をかけた。


 「大丈夫です。」


 私は震える手でメッセージを打ち込んだ。


 『とりあえず怪我人や長時間立てこもる事に、耐えられそうじゃない人を集めてくれ。優先的に避難させたい。』

 

 馬鹿魔族はそのメッセージの内容を読み上げた。


 「分かりました。ブラム騎士団への通報はしましたか?」


  『一応やっておいたが、到着した隙に店内に入り込まれるリスクがある。だからそれまでに店内に残っている人を少なくしたい。』


  メッセージを読み上げながら馬鹿魔族はこちらにメッセージを打ち込んだ。


 『なんで、一切喋らないの?』


 『あのさ、私がどれだけブラム騎士団のオリン団長って立場の重圧に押し潰れそうか分かってる?』


 『…』


 『あなたがどんなイメージ持ってるか分かんないけど、実際はこれ。全身鎧で隠さないと恐怖で何も動けない。』


 『うん』


 『そんなのが表に出ると、どうなると思う?』


 『さあ?』


 『さあ?って何?アイツらが店内に入ってこないのも、オリン団長が恐れられてるからだし。理由を教えて。』


 『んなもん無くったって、自分は自分だろ?』


 『いや、自分なんかじゃない。私はただの弱虫のグズだ。人とまともにコミュニケーション取れないのも、誰かを守る為なんて大それた理由じゃない。単に私の立場を守りたいだけだ。』



 『えらい長文だな。読むのめんどくさいし、また人質解放作戦再開するわ。』



 『昨日もそうだったけど、怖くないの?』



 『どうせ、魔族に生まれた時点でゴミみたいな人生だ。なら、少しでもマシに死にたい。ってだけだ。』


 『そんなに強く、優しくできたらいいのに。』


 『いや、オリンさん。貴女は十分強くて優しいと思う。車が突っ込んできた時、貴女は自分の身を顧みず、女の子を机の下に避難させた。それだけで十分だ。』


 『そうか−』


 打とうとしたがもうすでに居なかった。あのクソ馬鹿魔族め。


 店の周りが少し騒がしくなってきた。聞き覚えのあるサイレンが響く。


 「ブラム騎士団が到着したみたいです!みなさんもう少しの辛抱です!」


 店長の声が響く。店内に取り残された人の顔に希望が溢れた。とはいえ、あの馬鹿のおかげで三分の一以下の人数になったが。


 「あなたがオリン団長ですか?大柄だと聞いていましたが、以外と小さいんですねぇ。人質を見捨て店内から出てきた上に身長すら詐称するとは、こんなのが警察組織のトップでいいんでしょうか?皆さん!」


 窓からこっそりと見てみると、明らかにブカブカの鎧を身に纏った奴がいた。あの馬鹿!


 裏口側から誰かが動く音が聞こえた。しまった!奴らか?


 店長がその人影に向かってグラスを叩きつけた。


 ガッシャーン!


 倒れた人影の顔を覗き込んだ店長は、ヒェッ!と叫んで電話をかけようとした。


 その人影は、受話器を取ろうとした店長の腕を掴みながら、ムクリと起き上がった。


 その顔は血と突き刺さったガラスでよく見えなかったが、馬鹿そうな顔をしていた。



 店長はすいませんすいませんと言いながら、突き刺さったガラスを引き抜いていた。


 「まあ、Lv.100のダーマペンやったと思っとく。店内に残っている人はこれだけ?」


 もう店内には店長、私、馬鹿魔族の3人しかいない。あとの人達は全員ブラム騎士団に保護されている。


 ヨモツ•ルプスは完全に包囲されているとはいえ、危険な魔法を使う可能性があり、迂闊に手を出さないでいた。


 「店長、そろそろ避難しても良いですよ。」


 「分かりました。とりあえず、おかげで怪我人もゼロで、金庫にお金もしまえました。ありがとうございます。また日を改めてお礼をさせて下さい。」


 そう言うと店長は裏口から出て行った。


 「さて、これからどうする?逃げるか?それとも戦うか。」


 「武器も魔法もないのにどうやって戦えばいいの?貴方は良いよね。便利な魔法使えて。」


 「しゃべったあああぁ!」


 昔のハッピー○ットのCMかよ。コイツに対してのツッコミも、私がこれからどうすればいいかわからない。


 「貴方にとって私はどう見える?」


 「確かに勇気はないかもしれないけど、ガッツはあるな。」


 「ガッツ?どこが?」


 「最初に車から女の子守ったとこ、怯えながらでもブラム騎士団は連絡したとこ、その上で必要なものを伝えたとこ、そして最後まで残ってたとこ。」


 「でもガッツがあったとして、どうなる?」


 「チャンスが突っ込んでくる。」


 そう言うと入り口の方からガラスが割れる音が聞こえた。どうやら偽オリン団長が突っ込んできたらしい。


 ロメルがその偽オリン団長の鎧を脱がせ始めた。


 「きゃー変態ー。けだものー。あとこれで貸し1だからな!」


 偽オリン団長が棒読みで叫んだ。


 「イアン!テメェ!この間の飲みで会計時にトイレ篭ってただろ!チャラだ!CHA-LA HEAD-CHA-LAだ!」


 ロメルがこっちに鎧と薬を放り投げる。


 薬を飲み、鎧を服の上につけると、発作がマシになった。手足にしっかり力が入る。


 立ち上がって偽オリン団長の顔をみるとあの新人だった。




 「くそっ!こうなりゃ、店内で1人くらい人質をとってやる!」


 「名案だな。」


 そう言うとガントレットを握りしめて金属の摩擦音を響かせた。


 ヨモツ•ルプスの魔族は少し後退りしながら、発火魔法(トーチャード)を纏った剣を振り上げた。


 右の裏拳で弾き飛ばして、そのまま左ストレートをぶち込んだ。相手はそのまま地面に倒れ込んでいた。


 「全員武器を捨てろ!さもなければ全員こうなるぞ!」


 そう言って二の腕の上に足を置いて少し踏み込んだ。


 バキッ!


 「こうなれば、我々の理想の為の犠牲となってやる!」


 どうやら逆効果だったらしい。あのねっとりした喋り方の魔族の胸のところから青白い光を放ち始めた。


 「オリン団長!最後の1人の情報が分かりました!」


 「なんだ!」


 「相手はダラブ•アスモフコフ!元魔王軍中尉!使用可能魔法は…くそッ!」


 「クソ魔法か!?」


 「爆破魔法(エクストラム)です!」


 「ほんとにクソ魔法だな!目的を言え!」


 本当に爆破魔法(エクストラム)だとしても、ここで逃げるわけにもいかない。それに自爆まで10秒ほど余裕があったはずだ。


 「私がなんとかするから全員逃げろ!」


 全速力で走り出したがが、車止めに足を引っ掛けた。


 なんとか体制を取り直してあと5秒くらいのところで、あの気取った面を押し倒した。


 「止めろ!」


 気取った面を見せながらこちらに向かって唾を吐いた。


 早く止めなければ、死傷者が出る。


 もう時間がない。気取った面はいやらしい笑い顔に変わっていた。


 しばらくいやらしい笑い顔を見ていたが何かがおかしい。とっくに爆発しているはずだ。


 いやらしい笑い顔がなくなる。私は思いっきりその顔に拳を振った。


 「なんて顔してるんだ?いやほんとに。」


 目の前にはロメルがいた。


 「何をした?」


 「イアンの足折れてたから救急車呼んだ。」


 「いや、そうじゃなくて。なんで爆破魔法(エクストラム)が発動してないんだ?」


 「え?そんな事あったの?それよりコレ。」


 どうやら本当に知らないらしい。彼はヘルメットをこっちに渡した。


 外れたのは車止めでバランスを崩した時か?情報が多すぎる。


 「それより、ヘルメットくらい無しでも良さそうだね。」


 そう言うとロメルは踵を返して帰って行った。


 

 

 オリンすまない。お義父さんはもうダメかもしれない。


 視界が霞む。あの魔物は倒したが、全身の骨が折れている。肋も。



 「お義父さん!しっかりして!」


 「全員の避難は?」


 「終わってる。あと私たち2人だけ。」


 「そうか。ならいい。ちょっと眠くなってきた。」


 瞼に力が入らない。


 「そんな事言わないで!誰も死ななかった!ブラム騎士団の、お義父さんの完全勝利!にしよう!ねぇ!」


 良い娘だ。顔も、性格も。ただ残念な事は、ヘルメットのせいでずっと表情が見えない事だ。


 「ずっと、お前にこれから行く先を見せてやりたかったが、それも今日までだ。」


 「どうして!」


 「どうしてもだ。かつ−」


 落ちてきた天井のせいで最後まで言えなかった。最後の力を振り絞ってオリンを押し飛ばした。


 瓦礫の隙間からオリンの姿が見えた。しばらくオリンは呆然としていたが、建物全体が崩れ出したことで正気に戻り、出口を目指して走って行った。


 「父さん!私誰も死なせないくらい強くなる!」

 

 どうやらオリンはグズりながら走りながら叫んでいた。


 「全く。いい娘を持ったもんだ。」

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