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 学園の入学の儀は予定されていた日にちに変更なく行われた。

 例年と違うのは徽章の取扱いについてだけ。

 入学式典の始めに学園長から胸元に徽章の授与がある。それが今回は正門での受け渡し授与となった。在校生はなぜ?と疑問に思った者が多いが理由は言えない。念のための対策であるから。


 アモーレは入学の儀には出席を認められなかった。様々な理由をつけたとか。遅れて入学を迎えるようだ。

 レオナルドは『問題のある令嬢の入学は現段階では認められない。アリシアと会うことは()()()ないかもね。』と言っていた。


 もしや死亡フラグ折れた?


 否。それはない。ゲームの強制力が働いたらどうにもならないのだ。これでもか!と対策をしていても何が起こるかわからないのが乙女ゲームの怖いところ。


 



 ピアニッシモ男爵家に潜入した3人は、ある程度の情報収集は出来たのだが、魔石の使用など決定的な証拠を掴むことができなかった。色々あったらしいが言及できる材料を手に入れた。



 げっそりとした表情(イシード以外)で入学の儀5日前に王都に戻ってくる。アリシアの顔を見てホッとしたように表情を緩めたのを最後に3人には会っていない。

 相当過酷な任務であったに違いない……




 リカルドはアモーレに好意がある振りの演技をしなければならない。朝から晩まで、甘えた声でべたべたと引っ付いてくる行動に耐える日々。

 額に青筋を何本も立たせ、自身の肉という肉をつねり上げながら我慢し続けた。これは鍛練だと自分自身に言い聞かせ諭さなければ心が死んでしまう。


 現在……精神異常が少々。


 剣術の訓練中に対戦相手に不気味な笑みを張り付け完膚なきまでに叩き潰してしまうとか……

 女子をみると怒りの表情を向けてダッシュで走り去るとか……

 異様なまでに身の回りにあるピンク色を排除するとか……

 就寝中のリカルドの部屋の中から““ドスンドスン””と何かを叩きつける音がするとか……


 『やめろーやめてくれ!!来るな!触るな!近付くな!……お前のせいだ、ゆるさーん!!成敗ーー!』


 などの叫び声が夜な夜な聞こえてくる。

 何事かと駆け付けたご両親は見てしまった。

 寝ながらうろうろと歩き回り、穴が空くほど……屋敷が揺れるほどの力で石壁に拳をぶつけ破壊している息子を……

 アモーレのおかげ(?)で拳に魔力を込める攻撃を身に付けた息子の成長に初めは喜んだが、毎日続く破壊行為にげんなりしドン引きした。

 フィリップス公爵家の皆さんは不眠に悩まされている。


 アモーレ被害者カワイソウニ……




 一方。特異性の高い人に興味を示すイシードは、アモーレをえらく気に入った様子だった。それは恋とか愛ではなく、研究対象として……

 アモーレを前にしてニヤニヤ顔が納まらない。全身を舐め回すように見たと思えば恐怖のお誘いを提案する。


 『キミ~おっもしろいね★僕が君の全てを調べて受け止めてあげる!さぁ!我が家の監禁部屋に一緒に籠って研究しにいこうね~♪』


 アモーレの手を無理やり取ると乗ってきた馬車に押し込めて拉致しようとした。


 無類の男好きのアモーレも流石に拒否反応を示した。


 『イヤーこの人激ヤバ!変態!気持ちわるぅぅーー!イケメンでもこの人は無理!無理無理!私に近寄んないで!リカルド様たすけてー』


逃げ回るアモーレをイシードが追っかけ回し、逃げ場を失ったアモーレがリカルドに抱き付き離れない。


 リカルドのぶちギレ寸前の笑顔とアモーレの絶望による青白い顔に引きつった笑み、そして最高の玩具を手にした少年のような蕩ける笑みのイシード。謎の三角関係が出来上がった。


 やはりアモーレの強精神には恐れ入った。

 日が経つにつれてこの昼ドラ(さなが)らの関係に酔い始めたアモーレは、““二人のイケメン男子に熱烈に想われて困っちゃう~♡アモの為に争わないで!アモちゃんって罪な女~♡♡””と悲劇のヒロインごっこを楽しんでいたらしい。




 アクアジークは間に入り諌めようかと悩んだが、男爵家の内情調査及び魔石探しに打ち込むことにして三人をスルーした。

 自分のやるべきことに集中しなければ。

 リカルドとイシードの活躍のお陰で屋敷内を自由に散策できた。


 しかし男爵家の人間はなかなか厄介な者たちだった。

 魅力の力の温床である。使用人たちはアモーレ、男爵夫人の二人のいいなりで褒め称える言葉しかてでこない。狂っている。


 アリシアが推測した通り男性の首の後ろにはハートの形があったが、女性の首の後ろにはバツ印はなかった。その代わりにカトレアの花のような形があった。女性たちは男爵夫人に従順なことから、まだ他にも何らかの力が存在するのかもしれない。


 必要な情報は聞き出せないまま無駄に一日が過ぎてしまった。



 仕方がない。

 不本意だが……不本意ではあるが……やるしかない!

 社交界屈指の年上キラーと呼ばれているアクアジークは、持っているスペルを最大限生かし男爵夫人に接近し情報を得ることにした。

 若いつばめ(愛人)と思われる侍従が常に周りを囲んでいる。男爵黙認なのだとか。あの者たちも力の影響を受けているのだろう。



 案の定……男爵夫人は極上のイケメン公爵子息のことを気に入って側に置き可愛がった。何もかもが完璧なアクアジークの虜となる。

 吐き気がするほどキツイ香水と化粧の匂いに嫌悪感を感じる。腕や体に絡めてくる蛇のような手つきにぞくりと全身が凍りつくようだったが、使命を果たすため任務のためと自分に言い聞かせひたすら我慢をする。

 ようやくリカルドの心情が理解出来た。悪ふざけ半分にこれを機に女性に免疫をつけ男になれ!などと軽い一言や演技指導した自分が恥ずかしい。反省。

 この地獄のような日が終われば旨い酒をたらふくおごって労ってあげようと心に誓った。




 男爵家に滞在して4日目の夜中のこと……



 日中の絡みに疲れきって熟睡していたアクアジークは客室に何者かが入室してきたことに気がつかなかった。

 いつもなら僅な音や気配を感じ取って覚醒し対処するが心身共に疲弊していて反応が遅れてしまった。

 近付いてくるあのキツイ匂いが鼻を刺激したことで目が覚めた。男爵夫人だとわかっていたのだが起きるタイミングを逃し寝た振りをし様子見に徹する。嫌な予感がして潜ませていた短剣に自然と力が入る。



 『寝ている姿もなんて可愛いのかしら。私のアクアさま♡食べちゃいたいわ。でもまだダメよ。男爵の妻である私の不貞を疑われたら、折角築き上げた社交界での地位も贅沢な生活も全てが奪われていまうわ。

 私の言いなりのあの人は許してくれても世間様は許してくれないわ。

 可愛いアモーレも着実にこの国の高位貴族の殿方のハートを掴んでいるのだから、母親の私が邪魔する訳にはいかないわ。

 もし娘が王太子を落とせば次期王妃に……私はその母親よ。

 確実に社交界の華の母として君臨できれるわ。そう。私の憧れた世界。だからアクアさまを私のものにするのはもう少しの辛抱よ。』



 寝た振りのアクアジークの頬や髪を撫でながら、囁くように胸の内を語っている。

 布団の中はぬくぬくと暖かいのに、全身鳥肌が立っていて寒さしか感じない。



 『……本当にきれいなお顔ね。このブルーの髪もエメラルドグリーンの瞳も全てが完璧。

 あの()の子供を作るのは死んでも無理だけど、アクアさまと私のこども……きっと美しい子が産まれるわ。

 私の我慢はいつまで持つかしら。石のおかげてアクアさまの心は私に向かっているわ。

 でも……私とは12も離れているのよ。19のアクアさまはそろそろ婚姻を結ばなければならない年齢だわ……婚約者がいないのは奇跡ね。きっと二十歳になれば政略結婚させられて私のことを想いながら好きでもない高位貴族(どこぞの小娘)と悲しい婚姻を……お可哀想に。

 私と長く深く愛を育てている時間はないのよ。私があなたを助けてあげる。愛する人を妻に出来る喜びを教えてあげるわ。

 アクアさまといち早く婚姻する為にはあの人が邪魔ね。

 悲劇の未亡人になれば男爵家の財産も次期公爵夫人の座もこの素敵な彼も私のものになるの。

 あの人には近い内に天に召されてしまいましょう。前夫人のように……あの薬で……夫人の死んだあの場所で……。

 学園はアモーレに委せれば問題ないわ。だからもっともっと石を量産させるのよ。国全体を私のものに……全ての人が私の心のままに動くように……。ふふ。』



 そう言うと、アクアジークの手を取り妖艶な唇を落とすとブルーの髪を一撫でして部屋を後にした。


 居なくなったのを確認するとベットから体を起こし、握っていた短剣から力を抜いた。掌にはグリップの柄がくっきりとついていた。


 短剣に仕掛けられていた音声保護魔法具には先ほどの発言が残されている。

 王太子の専属護衛の任に就いた時に両親から贈られたものだ。皆が善良な者ではない。悪を裁くためには証拠を得るのが最も有効な手段であると教えられてきた。まさかこんな所で使うことになるとは思っていなかった。


 今回の目的である魔石の現物を得られれば確実証拠は揃うのだが……遂にアクアジークも限界がきた。

 これ以上この屋敷にいたら貞操の危機に成り得るかもしれない……。

 

 ピアニッシモ男爵暗殺未遂と前男爵夫人の殺害で身柄を拘束してしまえば、屋敷の捜索が難なく出来る。

 その際に魅力の力の情報や魔石を回収するのがベストだと判断した。時間は掛かるかもしれないがあの男爵夫人(メギツネ)とは二度と接点を持ちたくない。 

 早くここから逃げ帰りたい。明日の朝早くにこの屋敷を去ろうと決意した。


 その夜はもう寝ることが出来なかった。またあの扉から現れたらと考えるだけで身震いが止まらない。

 扉に何重にも解除不能の施錠魔法をかけて身を守って朝を迎えた。魔力のない男爵夫人が解除出来るわけないとわかっていても不安で仕方がなかった。それほど恐ろし経験だったのだ。

 このことが原因でアクアジークが女性恐怖症を発症したとはまだ誰も知らない。もちろん本人も……。



 リカルドはアクアジークとそそくさと馬車に乗り込んで出発を待ったが、イシードだけは““まだここにいるー!帰らなーい!””と駄々を捏ねた。


 そんなイシードの両脇を二人でがっちり固め無理やり馬車に押し込むと魔の巣窟から早急に逃げ帰った。




 報告を終えたアクアジークとリカルドの生気のなさに、居残り組の四人はゆっくり休めと気遣うしかなかった。


 二人は無心に剣を振り回し鬱憤を晴らそうとしたが、心の傷は癒えることはなく平常心を保つのは無理だった。


 

 イシードだけは晴れやかな顔で挨拶を終えると学園が始まる前日まで自室に篭りアモーレ研究レポート(報告書)を作成していたとか。

 その枚数……なんと300枚余り……

 流石のレオナルドもセルカークもクリストファーもアクアジークもリカルドもエリックも皆がイシードの異常さに友達やめようかな……って思ってしまったのだった。


 その研究レポート(報告書)はエリックの能力で3枚程度に要約されたという……

 よろしくない表現が含まれておりましたので、R15に設定させていただきました。

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