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お久しぶりの投稿です。
『それでアリシアちゃん。私達は何をお手伝いすればよろしいのかしら?』
アリシアの口元に『さぁ、お食べなさいな♪』とお菓子を差し出し、にっこり笑顔の王妃様が話を切り出した。
お菓子をパクりと口に含むと緊張からか噎せてしまった。差し出されたミルク入りのあまーい紅茶を素早く胃に流し込み、気持ちを落ち着かせていく。そして小さな咳をひとつすると話を始めた。
「(コホン……)新学期にお配りする予定の学年章と教員章等の““徽章””を一度お預かり出来ないでしょうか。」
『……徽章ね。何をするつもりなの?』
「はい。その徽章にですね……その……防御の……魔法を掛けて……む……むむ……無……………」
光魔法に繋がる情報を隠しながら話をするのは難しい。しどろもどろになってしまう。どのように話したらいいのかを考えるとなかなか言葉が出てこない。
『あ~そうよね!大丈夫よ。私達はアリシアちゃんが光魔法保持者ということと、グランツ公爵令嬢ではなくてエメラドーナ王女でエリザベスの娘であると知っているわ。だからね気にしないで、言葉を選ばすお話ししてもいいわよ。』
その言葉に顔をあげると向かい側に座っている大公様も笑顔で頷いている。
《……えっ。知って……るの?……あっ!そう言えば……社交界デビュー前……レオとの婚約とデビューについてパパから話があったとき……““エメラドーナ国王陛下とドラゴンレアール国王陛下の二国間協議により決まったこと””って言ってたわ……。》
『あなたが4年前に魔力の暴走で命を落としかけたことは公爵からもエリザベスからも聞いているのよ。
光魔法保持者になったことで、自国、他国からも引く手あまたに婚姻の申し込みが殺到したと聞いているわ。
誘拐されるなど身の危険を感じていたのよね。
自分の身を守れるように成人し力をつけるまでは、我が国で保護することにしたのよ。クリストファーのことも知っているから安心してちょうだい。
いつかは国に帰って王女としての務めを果たす為にエメラドーナ国へ行ってしまうこともわかっているわ。
でもね、選択肢の一つとして、私はレオのお嫁さん……私の義娘になる未来もいれてほしいわ!』
お嫁さんに来なさい!と王妃様が目をパチパチさせて訴えてくる。
《まぁ、私は巷では死んだことになっているらしいからそちらの方の命の危険は全くないんだけど……問題はあなたの息子の近しい人たちとアモーレが私の命を脅かす存在なんですけどねー》とひきつった表情を浮かべていた。
《とにかくお嫁さんも義娘も絶対ない。無理。のんびり暮らすんだからー!
レオの距離の取り方が王妃様譲りで異常なんだよ。
初めての出会いが身分も立場も知らない街中だったし、自分の弱い部分を話し、接したことで気楽に話せる初めてのお友達(親友?)をゲットしたみたいな感覚が生まれたのよ。きっと……。
年齢だって離れているし、恋愛対象としてじゃなくて““可愛い妹が出来た~!何でも相談できる友が出来た~!””ってな感じで面倒をみてくれているだけだから。》
さっきのレオの行動が頭をよぎり、また全身が沸騰しそうになっていたが、恋愛対象ではない!隠れ攻略対象キャラかもしれない危険人物なんだ!これ以上深く関わらないようにしないといけない……と自分に言い聞かせた。
「……。えーっと……王太子殿下は私達のことをご存知なのですか?」
『ふふ。レオは知らないわ。この国でアリシアちゃんたちのことを知っているのは国王と大公と私の3人だけよ。』
お二人は安心させるように柔らかに微笑んで暖かい瞳を向けている。
ほっとして深く一礼をすると話を続けた。
「……お心遣いありがとうございます。
それでは続きをお話しさせていただきますね。徽章自体に無効化をかけてしまえば、魅力の魔石の効力は消えてしまいますので、良い対策になるのではと考えています。」
徽章は学園での身分証である。
学年毎に色が異なり1学年は赤色。2学年青色。3学年は黄色。4学年は緑色。5学年橙色。6学年は藍色。7学年は紫色。教職員は白色。来校者用は黒色。王族は銀色で金の瞳の黒竜の紋が入っている。
因みに、レオナルドとセルカークは学年章と王族の徽章の2つをつけなければならないのだ。
忘れたり失くしたりした場合でも学園内に入ることが出来ない通行証のようなものだ。貴族だろうが王族だろうがどんなに立場が上の人でも例外はない。
その徽章に無効化を掛ければアモーレに触られても力の影響を受けることはないだろう。
ただ、徽章自体に位置情報を報せる特殊な魔法が掛けられている。その魔法を消さずに無効化を掛けなければならないので、とても難しい作業になる。
しかしその方法しかアモーレ対策に有効ではないのだからやるしかないのだ。
『わかったわ。アリシアちゃんに全てを任せるわ。
レンダー、急ぎ学園から徽章を回収してきてくれるかしら?学園長にはこの件について文を書くわ。お願いしますね。』
『はい。了解いたしました。』
さらさら~っと学園長宛に文をしたためた。それを大公様が受けとると王妃様と一言、二言何かを交わし、アリシアに軽く微笑んで退室していった。
王妃様は、執務用の机から立ち上がると再びアリシアの隣に座わった。
『ねぇ、アリシアちゃん。徽章に魔法を掛けるのに何日位かかるの?』
「そうですね……無効化だけならば一瞬で掛け終わるのですが、徽章の位置情報の魔法を消さずに無効化魔法を平行してかけますので……7日から8日程いただくことになるかと思います。」
『そう。とても大変だということはわかったわ。アリシアちゃんが円滑に作業出来るように部屋を準備するから、作業がおわるまでは王宮で過ごしてちょうだいね。』
「……えっ?」
呼び鈴を鳴らすと王妃付きの年齢不詳の美しい女性とこれまたお色気ムンムンのイケオジ男性が『王妃陛下、お呼びでございますか。』と現れた。
二人はアリシアの部屋の準備をするようにと指示を受けていた。その指示を真剣に聞いていた二人は王妃様がボソボソっと呟いた瞬間……目を見開き驚いた様子をみせるとアリシアを見つめ顔を紅潮させて嬉しそう涙ぐんでいた。
二人には何故かお会いしたことがあるような……知っている誰かと重なる部分があるように感じた。
『グランツ公爵令嬢アリシア様、ご挨拶失礼いたします。
私は宮殿の侍従長を務めさせていただいております、スチュワート・スペンダーと申します。こちらは女官長のアンナ・スペンダーでございます。以後お見知りおきを。
アリシアお嬢様に快適に御過ごしいただけるよう、誠心誠意つとめさせていただきます。』
《……スペンダー?あーやっぱり!!あのご老人夫婦の息子夫婦だわ。容姿も醸し出す雰囲気も似てるね。
……っていうか、王宮で過ごす?泊まり?滞在?……はっ?部屋を準備する??ってなんで!?ありえないから。いやいや帰るし……》アリシアは混乱していた。
「あのー王妃さま……王宮でしばらく過ごす?とは……いったい……」
『スチュワート、アンナ早速準備をはじめてちょうだいね。我が王家にとって大切な大切なとても大事な人よ。最高級のおもてなしでお迎えするように勤めてちょうだい!お部屋は……そうね~白薔薇の間のお隣の部屋にしましょう!よろしく頼むわね!』
『……!!!白薔薇の間でございますね!!はい!王妃陛下のお心のままに!』と頭を下げ、アリシアに謎のキラキラしい微笑みを浮かべて二人が下がっていった。
《今の微妙な間とあの笑顔は何よ。怖いし。白薔薇の間?って……いったい……》
「…………。」
『あぁ、ごめんなさいねアリシアちゃん。あのね、徽章は私の名で学園からお借りすることなっているのよ。本来なら徽章を学園の外へ持ち出すことはあってはならないことなのよ。
今回は特別な許可で王妃の監視下のもとで作業をしてもらわなければならないの。だから全ての徽章に魔法が掛けおわるまでは私のそばで生活して欲しいのよ。
アリシアちゃんが困らないように私のお部屋の近くにしましたからね。安心してちょうだい。』
『それにね……寂しいのよ……王妃になってから両親や兄弟、親しい友人とは気楽に会えなくなってしまったし、息子のレオナルドはあの通り無愛想で面白味のない子じゃない?話し相手にもなってくれないのよ!
一番の親友であるあなたのお母様のエリザベスとは手紙のやり取りはあっても、もう何年も会えていないのよ。……エリーと過ごした学生時代が懐かしいわ。エリーの面影がある娘のあなたと少しの間でもいいから一緒にいたいの。それが本音よ……』
王妃様は憂いを帯びた表情で美しく遠慮がちに笑った。
その姿は、エメラドーナにいるお母様の姿と重なって見えた。こちらに転生してから少しの時間しか一緒に過ごせなかったけど、優しく、美しく、凛としている素敵な女性。
時には厳しいお説教もあったけど、子供たちに対しての無償の愛が溢れていた。私の大好きな人、第二の故郷の母。
お別れの時は、笑顔で““ 何事にも全力で楽しみなさい ””と送り出してくれた。息子、娘と離れていた数年の間はもしかしたら、寂しい思いをして過ごしているのかも……子供の成長を近くで見守られないなんて悲しいかも。心配させているのかも。と様々な感情が胸を熱くしていくのだった。
「王妃さま……。短い間ではありますが私がお側におります!王妃様がお寂しくないようにお側に……。是非ご一緒させてくださいませ!」
儚げな王妃様の手を優しく握り、励ますように飛びっきりの笑顔を向けて、王宮に滞在することをあっさり承諾していた。
『ありがとう、アリシアちゃん。私のことは、ロザーラと呼んでちょうだいね。もちろんロズお母様と呼んでくれてもいいのよ♪』
「はい。王妃様……いえ、ロザーラ様!」
アリシアは王妃様の策略 ““アリシア義娘計画”” に徐々にはまっていることも、蟻地獄のようにじわりじわりとドラゴンレアール王家の執着から抜け出せず、弱々しく微笑む王妃様が黒い笑顔を浮かべていたことに気付くことはなかった。
そして、この王宮滞在の件が今後のアリシアのお気楽生活に支障をきたし、何故かドラゴンレアール王家に片足を突っ込んだまま、身動きが取れずに泣きをみることになるとは今はまだ知らない。
ただただ、純粋に王妃様を故郷のお母様と重ねて心を熱くし微笑みを向けていたのだった。




