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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第3生徒 かつての自分の影

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第63話 間章:魔塔教授、ムゥ・アスガルド

「ムゥ教授の授業、すごかった……」

「言っていることは難しいけど、実力は本物なんだよなあの人」

「下手したらライオット教授よりすごいんじゃないか?」

「たまにしか講義をしないのがね……もっと講義してくれないかしら」


 最近、生徒たちのそんな言葉を耳に挟む。

 魔塔に来てしばらく経つけど、どうやら私は受け入れられたようだ。

 講義はあまり行わず、自分の魔法の改良に勤しむ毎日だけど、この魔塔では魔法の力が全て。


 そしてエンデーと一緒に開発した魔法たちは、ここでも十分すぎるくらい通用した。

 それこそ、魔法力ではヴァンディお爺ちゃんやスイードのおじちゃ……お兄さんに匹敵するくらいには。


 マルク・マギカの魔法王からも勇者に推薦しようと言われたけど、断った。

 そんなめんどくさそうな称号に興味はなかったから。

 実際に会って彼女にそう言うと、私の言葉遣いや口調、態度で向いていないと思ったらしく、豪快に笑いながら「こいつは無理だ!」と言っていた。


 受ける気はなかったけど、ちょっとむっとした。


「…………」


 自らの教授室の椅子に座り、私はぼーっと天井を見上げる。

 マルク・マギカでの日々は、そこまで苦ではなかった。

 基本的にこの部屋に籠って魔法式の改良に勤しんでいればいいし、たまの講義では初歩的な魔法の改良式を伝えればいいだけ。


 それだけで十分なお金をもらえるし、それをエンデーに送れば喜びの手紙が返ってくる。

 だからここにいるのも悪くはない。でもそれは、悪くないってだけだ。


「……違う」


 悪くない。良くもない。

 けれど、そもそも違う。ここは私のいるべき場所じゃないと、強く思える。

 いや、それも違う。私が居たい場所はここじゃない。


 私の心がずっと求めている場所は、この魔塔でも、この研究室でもない。

 ずっと私の心は、エンデーの教室を求めている。

 あそこにいるのが自然だと心が、身体が、私の全てが訴えかけている。


 それはもう、ずっと思っていたこと。


「帰ろう」


 私のいるべき場所に帰りたい。


 そう思ったところで、廊下を走る大きな足音が聞こえた。

 その足音は段々と大きくなり、勢いよく扉が開かれる。

 中に入ってきたのはヴァンディお爺ちゃんだった。


「お、お前さん!? お前さん、魔塔を辞めるっていうのは本当か!?」

「? なんで?」


 どうして知っているのかと思って首を傾げながら尋ねる。


「なんでも何も、学生が噂しておったわ! ムゥ教授が魔塔を離れるとな!」

「……ああ」


 そういえば、エンデーの教室に帰りたいなと思いすぎて、学生の子にそんな話をした気がする。

 辞めて別の場所に行く、みたいなことを話した気が。

 そこからヴァンディお爺ちゃんのところまで伝わったのだろう。


「な、何があった!? 何か不満でもあったか!?」

「お爺ちゃん……痛い」


 私の肩を掴んでガクガクと揺すってくるヴァンディお爺ちゃんに文句を言いつつ、理由を話す。


「不満、ない。ここ、いる場所、違う」

「……行くべき場所がある……と?」

「そう」

「ど、どこなんじゃそれは?」


 聞かれて、言っていいかどうか迷う。

 あの片田舎の教室の事を教えたら、それこそ多くの学生が押し寄せてしまうかもしれない。

 それはあの教室が教室でなくなってしまう気がして、嫌だった。


「秘密」

「……秘密……か。どうしてもか?」

「どうしても」

「うーむ……」


 ヴァンディお爺ちゃんは困ったように眉を顰めるも、さらなる追求はしなかった。


「ほ、本当に辞めてしまうのか? 儂がお前さんの望みならある程度は便宜を図るぞ? それでもか?」

「うん」

「ほ、本当に本当にか?」

「うん」

「どれだけ頼んでもダメか!?」

「うん」


 がっくしと肩を落とし、ヴァンディお爺ちゃんは嘆きの声を出す。


「お前さん、前からそうじゃが一度決めると絶対に撤回しないからの。もう無理か……分かった。じゃが今すぐは止めてくれ。少しの間だけここに残って欲しい、な?」

「…………」


 考える。


 エンデーの教室に行って、先生になるのは構わない。

 それなら何人かの生徒に声をかけてからの方が良いだろう。

 誰にも口外しないことが絶対条件だが、ひょっとしたら時間が経って、エンデーの教室まで来てくれるかもしれない。


「いいよ」


 返事をして、私は引き出しを開いて紙を探す。


「私、出かける」


 そういうことなら、早速何人かいい感じの生徒に声をかけよう。

 思い立つと同時、引き出しの中の紙を見つけ、ヴァンディお爺ちゃんの横をすり抜け際に彼の胸に押し当てる。


「おうっ!? な、なんじゃあ?」

「これ、あげる」

「お、おう?」


 戸惑うヴァンディお爺ちゃんを無視して、部屋の出口へ向かう。

 私は今、忙しい。あまり他のことに構っている時間はないのだ。


「なっ!? こ、これは……シエラ嬢が残した魔法の改良式じゃと!? も、もう出来たのか……どれどれ……うーん、さっぱり分らん。これがこれで、これがここで……」


 部屋を出たときにヴァンディお爺ちゃんの声が聞こえた気がしたけど、すぐに聞こえなくなったから、気にしなくなった。

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