第459話 戦技の確認と、授業の成立
距離をとって向かい合う俺とリア。
お互いの手には鞘に入った武器が握られていて、その様はギルドの時の再現のよう。
けれど一方で、リアは微妙そうな顔をしていた。
「気持ちが上がらねえか」
「うーん、上がらないというか、アタシとしては短剣について教わるのも必要最低限でいいかなーって」
「まあ、今の所は問題なさそうだし、お前ならそれでいいんだろうが、もうちょっとだけ付き合ってくれや」
なるべく授業に対するやる気を削がないように気をつけて発言するものの、リアの表情に変化はない。
そこで俺は、ちょっと乗せてやることにした。
「俺はよ、こういった職業柄、色んなやつを見てきたんだよ。例えば、Sランクの二刀流の戦技に『雨桜』ってのがあんだが、あれは二本の刀を手に縦横無尽に動きながら敵を切り刻み、最終的に飛び上がって必殺の一撃を上空から魔物に叩き込むんだ。人智を越えた動き、大地を震わせるほどの斬り下ろし……まーじでカッコよかった」
「……そ、そうなんだ」
サナがセイランで使ってくれた戦技の説明を壮大に行いつつ、チラリとリアを確認。
そっけない返事なものの、俺を見る目には興味の色がある。
「『神斬り』っていうSランクの戦技を知ってるか? 俺も一度しか見てないんだが、あの『厄災の巨獣』の牙を剣の一振りで斬り飛ばして、そのまま巨体を深く一閃だ。挙げ句の果てに飛び上がっての怪物の頭部に剣を突き立てて、巨体全部を衝撃波で破壊する。あんなもんを見ちまうと、すげえ以外の感想は出てこねえって」
「そ、そんなにすごいんだ……『厄災の巨獣』を、一撃……」
掴みは上々。リアは天才ではあるが、それでもまだ少女に過ぎない。
そして彼女くらいの少年少女は英雄に憧れるものである。そこを、ちょいと刺激してやる。
「とはいえ、Bランクの戦技だって立派なことに変わりはねえ。お前は髪型や服装を気にしているが、そいつは当事者だからかもしれねえぜ? ひょっとしたら外から見たら、めちゃくちゃカッコいいかもしれねえじゃねえか」
「……そう……なのかな?」
「おう、だから見せてくれや、おしゃれなお前がキラキラ輝いて戦技を使う姿は、きっとさっきの魔法と同じで、すげえだろうからよ」
「……先輩が、そこまで言うなら」
よし、乗ってくれた。内心でほくそ笑み、刀の柄を握る手に力を入れる。
褒めて伸ばすのが良いと思っていたが、見込みは合っていたらしい。
リアもリアで短剣の感触を確かめている。さて、彼女の本気の戦技は、先ほどの魔法と同じように俺の胸の熱を強くしてくれるだろうか。
見る前から心がすでに弾んでいるのを、俺は感じていた。
「……じゃあ『雨牙』を使った後に、先輩に攻撃してもらって、それを『牙城』で防ぐでいい?」
「マジか。『牙城』は使えると思っていたが、『雨牙』もか」
「言っとくけど、そんなに期待しないでよ? 使いこなしているからは全然ほど遠いんだから」
「いやいや、それでも十分なくらいだ。是非見せてくれ」
「うーん、調子狂うなぁ……分かった。やるから、ちゃんとカッコいいか見ててね?」
「おうよ」
「じゃあ、行くから」
リアの言葉に、俺は刀を使って防御の構えを取る。
『雨牙』はBランクの戦技だが、再現の方法を考える際に、深く研究はした。
どういった戦技かはよく知っているが、それでも俺が使えない戦技に変わりはない。受けることはできるだろうが、それでも油断は禁物。
室内訓練室に、沈黙が落ちる。
お互いに相手をしっかりと目で捉えて、離さない。
(防御は考えた、その後に打ち込む戦技も決めている。あとは--)
心の中で呟いている途中で、リアが床を蹴った。
ギルドでの模擬戦のときよりも速く、しかも僅かに体勢を崩すことで正面ではなくやや下方向にすでに動いている。
速い。それを認識すると同時に、間合いに入ったリアが短剣を素早く払う。
『雨牙』の一撃目。鋭い軌道を、刀を使って防いだ後で。
襲いかかるのは、リアが繰り出す数多もの刺突。
『雨牙』は二段階の戦技で、最初の横薙ぎを始まりとして様々な位置からの突きが続く。
その様子が雨のように思えるからこそ、『雨牙』という名前なんだろう。
(マジ……か……)
必死に防ぎつつ、リアの戦技を観察する。
本人が言っていた通り、確かに『雨牙』を使いこなしてはいない。粗い点だってある。
それでもすでに形になっているし、防ぐのだって精一杯だ。
魔法だけでなく戦技の才能もある。そう確信する。
だからこそ、もう一つもじっくりと観察したい。見たい。
俺は目の前で煌めく赤を見ながら『雨牙』を防ぎきり、カウンターとばかりに僅かに跳ぶ。
俺用に再現した戦技『氷柱落』。
Bランクの戦技に対してCランクで返すのは申し訳なくもあるが、それでも全身全霊をかけるから許してくれ、と心で告げて。
「行くぞ」
力の限りに、振り下ろした一閃。
リアは最後まで俺の刀の軌道を見逃さず、それに合わせて短剣を素早く振るう。
剣の『玉剣』や二刀流の『夜桜』と同じ、防御用の短剣の戦技『牙城』。
攻撃をする中で、リアの動きを見る、捉える、観察する、確認する。
動きは完璧、戦技として形は完成している。けれど、用いている腕は一本。
「っ!?」
力を逃すことで受け流そうとしたリアの短剣は、しかし腕一本で支えるには彼女の力が耐えきれなかったようで、弾き飛ばされてしまった。
結果として彼女は武器を失ったものの、それでも『牙城』で俺の『氷柱落』は防げたようで、俺の刀が彼女の体を打つことはなかった。
とはいえ、得物を失ったことで打ち合いの稽古は終了だ。
「あーあ……防ぎきれなかったかぁ……」
「いや、だが『雨牙』も『牙城』も十分じゃねえか。形になってたぞ」
「どう? カッコよかった?」
「あ? そりゃあな。特に『雨牙』のときは、カッコよかったぜ」
「そう、ありがと」
正直に気持ちを伝えたのだが、リアの目は輝いているとまではいかないようだ。
向かい合ったときよりは気持ちが上がっているようだが、魔法のときほどじゃない。
(短剣の方も才能はあるが、魔法よりも遥かにってわけじゃなく、どっちもすげえって感じだ。これなら、魔法の方をメインでいいかもな)
「うーん、あと何回か戦えば、良い勝負ができそうなんだけどなぁ……」
おっと、考え事をしていてリアを放置しちまってた。
気を取り直して、彼女に声をかける。
「魔法と戦技、どっちも確認したが、どちらも優秀だな。これならお前の言う通り、魔法を中心に育成するで進めていくか」
「あ、うん! そうしよそうしよ! いやぁ、先輩とは話が合うみたいで良かったよ。流石!」
目に見えてテンションを上げるリアに、俺は苦笑いしながら続きを話す。
「あと念のために言っておくが、俺は短剣、地魔法、闇魔法はCランクまでしか使えねえ」
「あ、そうなんだ」
「だがBランクの戦技を詳しく知ってるし、魔法に関しては過去にA+ランクまでムゥと一緒になって弄くり回して、あいつを育てたことがある。Cランク以下は何度も教えているから、そこに関しては安心してくれ」
リアが得意な短剣、地魔法、闇魔法に関して、俺は自分の情報を開示する。
普段なら生徒にこんな話はしないが、リアはすでに優秀でBランクに片足を突っ込んでいる状態。
俺の実力はギルドの広場で見せたが、正確に伝えておくべきだろう。
「別にいいよ。特に短剣はやらないんだし」
「んや、短剣は短剣でランクの低いやつの再現くらいは指導するぞ。魔法の方がメインではあるが」
「えー……やるの?」
うへぇ、といった様子のリア。
そんな彼女に、苦笑い。
「まあまあ……そんなに比重は多くしねえし、やった結果、短剣もやる気になるかもしれねえだろ?」
「……ちょっとくらいなら。外から見たら、カッコいいらしいし」
「おう、一緒に頑張ろうな」
いずれにせよ、こいつを逃す手はない。
将来的に金脈になるのは目に見えているし、何より俺がこいつを教えてえ。
なので笑顔で手を差し出し、握手を求める。
するとリアに、苦笑いを浮かべられてしまった。
「……なーんか、適当だと思ってたけど、先輩って意外と熱血なんだね」
「そうか? んなことねえと思うが」
「んー、まあいいや。よろしく、エンディ先輩」
「おう」
俺の手を、リアが掴んで握手は成立する。
こうして俺と、才能はあるもののちょっと変わった少女との授業の契約が、成立したのだった。




