第七話(3)
それが逃げたのはレイが生活拠点を置いている居住区の方向だ。それが狙ってかわからないが、レイの表情は少しだけ曇った。
あそこは王都の中でも治安が良い。そのため兵士が見回りに割く時間も少ない。ただの兵士があれを倒せるとは思えないが、住民たちの被害は抑えられる。
「ヴェルクト、僕の影に」
「ああ」
ヴェルクトはレイの影にそっと触れる。その瞬間二人はレイの影に飲み込まれた。まどろみのような暗闇の中、再び光が見えた時にはレイの住んでいる廃墟の中、ヴェルクトがレイにここはどこだと尋ねようと思った瞬間だった。
「きゃあああああ!」
耳をつんざくような叫び声が聞こえた。それも距離が近い。
戸のついていない大窓から二人が飛び出すと、そこには
「アリシア! それと……」
トリアがいた。トリアは両ひざをつき崩れ落ちている。表情は苦痛、悲壮、それが入り混じったものだ。恐らく先ほどの声の主だろう。外傷は無いようでレイは一安心した。
トリアはレイの姿を見ても、声を発することが出来ない。
「ここの住民を逃がさないといけない!」
アリシアは開口一番、レイとヴェルクトに呼びかける。
その瞬間だった。
「てめぇら!! ここから早く逃げやがれ!!」
ヴェルクトの怒号のような大きな声。ただならぬ魔力のこもった声は耐性のないものを怯えさせ、その場から走って逃げださせるには十分なものだった。
ヴェルクトの声が消えた後も、ビリビリと空気が震えているのがわかる。
「あれ……相当ヤバいよ」
アリシアの言葉で空気がさらに張り詰めた。




