第六話(2)
アリシアは改めてレイを見やった。
「レイがあたしたちに言って回ってるってことは、万が一のことがあったらあたしたちにも手伝ってほしいってことなんだよね?」
「…………」
「みなまでいうのは無粋だったかな」
「……本当は、君たちを頼りたくなかったんだ。あの旅で僕たちは袂を分かって、もう会うことはないと思った。それなのにこうやってのこのこ現れて僕は……情けない」
「情けなくないよ」
アリシアのレイを見つめるブラウンのアーモンドアイは優しく、レイはその言葉と瞳に吸い込まれそうになる。
「あたしはレイが、もう一度あたしたちを頼ってくれてうれしい。きっと、エレナやヴェルクトたちもそう思ってるはず。あれから一年くらいしか経ってないけど、忘れたことなんてなかった。会いたかったよ、レイ」
アリシアの言葉に一片の嘘も無いことはレイも重々理解していた。
ここで大将が料理を持ってくる。生の魚を美しく切り揃えたもので、宝石のように輝いていた。
「塩や醤油で召し上がりください」
レイは醤油というものがよくわからなかったが、ありがとうございますと軽く会釈した。
「レイは刺身……じゃなくて、生の魚って食べられたっけ?」
「あんまり得意じゃない……というか食べたことないけど、アリシアがおすすめしてくれるんならちょっと頑張ってみようかな。これはアリシアの故郷の料理だっけ?」
「そう! 王都の料理もおいしいんだけど、やっぱり故郷の味が一番! 王都ではここしか食べられないから、ついつい通っちゃうんだよねー」
待っていました。と言わんばかりのアリシアの表情は運ばれてきた料理よりも輝いており、レイのアリシアやエレナ、そしてヴェルクトに対して感じていた後ろめたさみたいなものが少しだけ和らいだ気がした。
「いっただっきまーす!」
アリシアは二本の細い棒を右手で器用に操り次々と口の中に放り込んでいく。端から見ていると味わって食べているようには見えないが、満面の笑みでおいしいと言っている彼女の表情は、とても満足しているようだ。
「いただきます」
レイもアリシアにならって二本の棒で魚を一切れつかむ。レイのぎこちない棒の扱い方をみてアリシアはにししと笑った。
「無理に箸を使わなくたっていいのに。フォークとかも出してもらえるよ?」
「いや、君の、故郷にならって、僕も、これで、食べる」
おぼつかない手つきでなんとか口の中に放り込むことができた。口の中に魚の甘みが広がる。生臭さはない。肉とは違った口の中で噛み応えのない柔らかい感触は、噛めば噛むほど濃厚な旨味に変わった。
「どう? おいしい?」
「……生の魚がこんなにおいしいなんて知らなった」
レイは初めて味わう刺身に感動したようだ。
「ちっちっち。生の魚だからじゃなくて大将の腕がいいんだよ! ね、大将?」
大将はカウンターの向こうから軽く会釈をする。
「今度さ、ここじゃなくてもいいからみんなでご飯食べに行こうよ。魔種のことが終わったらさ。あたしたち三人だけだったらやっぱり物足りないんだよ。レイがいないとね」
「……うん、そうだね。みんなで行こう」
アリシアはにっしっしと笑った。そしてレイも、クスクスと笑った。




