90話 選択肢
その記事に映っていたモノは撮影師と呼ばれる魔術師による第三階梯の魔術【念写】によって映し出された写真に近い画像だ。
「花園…………さん?」
「やっぱ樹もそう思うか」
「ほぼ間違いないかと思う」
記事を見る限りでは意外と適応できている? ようにも見受けられる。ただそれは元の世界に戻れない諦めからの開き直りかもしれない。
「どうする? 迷宮攻略は一旦放置して会いに行ってみるか?」
思案していると健司がそう提案してきた。
「僕の一存では決めかねるな」
「休業になっても俺らは生活に困らないし魔導速騎でも買って急いでいけば二週間もあれば往復できるだろう?」
健司にそう言われて自分が徒歩での移動を前提に考えていたことに思い至った。小型の魔導速騎なら安いモノは金貨一〇枚から購入可能だ。ただ感覚的には小型のスクーターって感じで長距離移動には向かない。迷宮街でも稀にだが見かける。
それはゆっくり考えよう。まずは本来の目的を達成せねば!
「話が脱線してしまったので戻そう。中見せてもらっていいかい?」
そうそう僕は健司が買った、この目の前にそびえる魔導騎士輸送機を見に来たのだよ。
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「…………」
「おかえりなさいませ、ごしゅじんさま」
扉を開けてまず目に入ったのはタレ犬耳に尻尾の黒いワンピースに婦人用仕事着を纏い深々とお辞儀をする亜人族の少女だった。
「健司…………これは何?」
そう問わずにはいられなかった。
それに対して健司が手信号で待てと合図する。
「ピナ。すまないがお客さんだ。お茶を用意して」
そう犬耳少女に指示を出す。よく見れば首輪があり契約奴隷か労働奴隷なのだろうか?
「はい。ごしゅじんさま」
そう言うと軽やかに奥へと引っ込んでいった。
一階部分がLDKの構成になっており、更に貨物室への通路やら納戸、風呂、トイレ、使用人室があるらしい。取りあえず居間のソファーに座り込み出された中原産の紅茶とやらで喉を潤す。
「この魔導騎士輸送機を買ったときにヴァルザスさんに留守番を常駐しておいた方がいいと言われて雇ったのさ」
信用面においては奴隷と言っても契約なら契約外の事は命令する権利もないので相手も契約内容を吟味できる。だが、先ほどの少女は10歳くらいにしか見えなかったが、まさか言葉巧みにだまして契約とかしてないよな?
僕の疑惑の視線に気が付いたのか健司は慌てて弁明を始めた。
「ピナはヴァルザスさん立会いの下で契約したから変な内容は盛り込んでないさ」
ここで言う変な内容とは性的隷属の事だろう。隼人違って健司は胸部装甲が重厚な年上の色っぽい女性にしか興味がない。
家事全般と買出しと留守番だけが彼女の契約内容だ。ここに泊まり込みも解約内容に入る。
「あれ? 通いじゃないんだ?」
契約奴隷、僕らの感覚では社畜とでも言うべきか、基本的には自宅から通うのが基本だ。
「亜人族だから市民権はないし、ピナは元々が私生児で人狩りに捕らえられていたのを買い取ったんだよ」
奴隷商人に売られる前に買い取って契約したとの事。給与を支払い自分の給与で自分を買い取れば自由民になれる。公娼と同じ規約だそうだ。
「亜人族は耳が頭頂部付近にあり脳の容積を圧迫してる関係で頭が大変お悪いと聞いたけど?」
だが返ってきた答えは意外なものだった。
「公用交易語は会話に支障はないだろ。読み書きはひらがなに相当する言語は問題ない。暗算は得意じゃないが四則演算程度は出来る。あの歳でだぞ」
一〇歳と聞いたが、それなら凄いのか?
「ただヴァルザスさんに言わせるとあれが限界らしい。これ以上の進歩はほぼ絶望的だという事だ。だが、魔導機器の扱いもできるし召使枠として置く分にはなんも問題ない」
そう話を締めくくった。
話は拠点をここに移さないかという事、花園さんについて、セシリーについても話した。
僕らがここを離れる場合はセシリーはついてこない確率が高いとの事だ。彼女は育った孤児院に縛られており稼ぎの大半を孤児院の運営資金にと献金しているのだ。教会が運営する孤児院と聞くと信者の布施というか寄進で運営かと思ったが、市民権のない私生児たちに施すとは何事かと大口の信者たちが騒いだ結果、孤児院の運営は独自運営となっており、孤児院を出た者は多かれ少なかれ残っている弟妹たちの為に自分の稼ぎから献金しているのが伝統らしい。
「だけど、セシリーの献金額は結構な金額だろう? 金額からしても、もう十分義理は果たしたのでは?」
「俺の見立てでは彼女は家庭を持つまでは払い続けるだろうな」
こういう時の健司の見立ては結構当たる。僕らの一党から聖職者が抜けるとかいう問題より、彼女がここに残った場合は問題も多い。
若くて美人の聖職者ってだけで引く手あまただろうが、同時に女性冒険者への性的暴行も多いと聞く。最も被害者はの多くの女性冒険者は開き直って楽しむかってなるそうだが…………。
実際一党の増員を行ったときもセシリー目当てで加入希望してきたものも多いだけになぁ…………。
「僕らって冒険者の知り合いほとんどいないんだよね…………」
「序盤で恐れられて、その後は迷宮に籠りっぱなしだからな」
参ったねと二人して嘆く。
拠点を健司の所有する魔導騎士輸送機に移す話は相談してくるという事で今日は暇することにした。




