12話 逃げるのも仕事のうち
最後の方で視点が変わります。
2018-09-28 サブタイのみ変更
2018-11-24 魔術の詠唱の階梯を変更
2019-05-28 一部文言修正
「巨人? いや違う。街で見た魔導従士だ」
月明かりに照らされた地面に倒れ伏すずんぐりした人型の鉄巨人は間違いなく街で見た魔導従士と呼ばれるものだ。
その魔導従士が蒸気を噴出した。
「魔力収縮筋が活動限界を迎えて強制冷却に入ったんだ。この村はマズいぞ」
「師匠どういうことですか?」
「この辺りの地域は小都市国家の群雄割拠状態なのは説明したな?」
説明は聞いた。って事はもしかして————。
「もしかして僕らは戦争に巻き込まれました?」
「もしかしなくても巻き込まれたよ。だが今から逃げ出せば————」
途中で言葉を切り北西の地平線を指さした。何かが複数こちらに向かってきてはいるようだ。
「隊列を組んだ魔導従士が一個中隊か…………。暗くて姿が見えないが随伴歩兵が一個中隊いるだろうな」
「先生。村の人がルートの街に逃げるから馬車に乗れって言ってます」
ヴァルザスさんを先生と呼ぶようになったのは和花だ。村長が指揮を執り村人や旅人などを馬車に振り分けているようで、のんきに立ち話をしていた僕らにも避難指示をしにきたようだ。
「俺らは冒険者だから断っても問題ない。それよりこれから山中に逃げ込むぞ」
基本的に監督するだけで指示はしない方針といった師匠だが流石に今回は例外のようだ。
「でもヴァルザスさん。日が沈んだこの時間帯に木々の生い茂る山中をですか? 流石にそりゃ無理でしょ」
健司が異議を申し立てるが却下される。
「冒険者稼業やってるとこういう事態もそれなりにある。疲れてますとか暗いから移動できませんじゃ仕事にならないんだよ」
いずれ夜間の山中行軍は訓練に入っていたので早いか遅いかだけだと締めくくった。
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「ここらが限界だな」
そう言ってヴァルザスさんは肩に担いでいたモノを地面に下ろす。荷物のように担がれていたのは和花だ。
「今日はもうここで野営に入る。ただし火は起こすな。明かりも駄目だ。荷物と武器は手の届く範囲に置いて置け。防具は脱ぐな。兜もダメだ。横になるな。木か荷物にもたれて座って休め」
師匠は矢継ぎ早に指示を出していく。他にも水場が見つけられなかったので水袋の水は残しておくようにとかだ。
僅かに差し込む月明りを頼りに道なき道を只管歩くこと一刻ほど移動し山の中腹あたりまで登ってきた。元々標高のあまり高い山ではないが、この世界は微妙に僕らのいた世界より空気が薄いためか息切れがひどい。
和花が担がれていたのは集中力をなくし滑落したからだ。
「幸い和花の怪我も軽傷の範疇だな」
師匠はそう呟くと徐に右手で宙に何か……記号だろうか?を描き始めつつ何かを呟いた。
「あれ?」
師匠の身体がぼんやりと光ったように見えたけど、幻覚でも見たのかと目を擦って再度見ると見つめると特に何もなかった。
「樹、どうした?」
あれは何だったんだろうと考えこんでいると健司が近寄ってきてそう尋ねてきた。
「いま師匠が一瞬ぼんやり光ったように見えたんだけど健司は見えた?」
「いや、さっぱりだな。樹の見間違いとかじゃないのか?」
納得は出来なかったが「かもしれないね」と返事を返した。
「お前らこれでも食べてろ」
師匠が近づいてきて何か棒状のものを差し出した。それを受け取って月明りに翳すと————。
「携帯口糧?」
「以前そっちの世界に行った際に見せてもらったものを帰り際に大量に手に入れて、こっちの世界で似たような商品を作ったんだよ。それ一本で一食分のエネルギーが摂取出来る。ある程度稼げる冒険者には結構人気商品だ」
確かにこの長さ2.5リグルの細長いクッキーっぽいやつで一食分のエネルギーが得られるなら僕も買っておきたいな。
「これってどれくらい日持ちするんですか?」
「ちょっと特殊な製造過程を経ているが大体2年くらい持つな」
「凄いな。樹も早く食べてみろよ」
そういう健司はもう食べ終わったようだ。不味いものではなさそうだし食べてみる事にした。
「食感は…………少し硬めのクッキー? 味は上品な甘さがあって優しい感じ?」
二口で終わってしまいやや物足りない感じではある。
「特徴がないだろう? 冒険者の仕事中の食糧だからそれでいいのさ」
僕の感想に師匠がそう答える。正直言えばその通りである。
「あれ? でもこの味どこかで…………」
「樹が目を覚ました日に俺が差し出したカップの中身がそれだよ。蘇生後にいきなり固形物は胃が受け付けないからな」
「これで味が何種類かあると良いのですが」
一種類だと流石に飽きそうだ。
食事も終わり僕らは木にもたれ掛かり本来宿泊する予定の村を見ている。篝火のおかげか村の状態が遠目にではあるが見える。
天幕が張られて結構な人数がいるように見える。もしも捕まってしまったらどうなっていたんだろう?
「そういえば師匠。捕まったら情報収集のためとかでやっぱ拷問とかされるんですか?」
「まさか。よほど怪しい態度をとらなければ暫く拘束されて終わりだよ。冒険者組合は商人組合の下部組織だしこの世界で商人組合に喧嘩を売る国はほとんどないさ。だから街に逃げて組合の建屋に籠れば戦争も回避できるかもしれん」
そう回答してくれたけど…………だったらなんで街へと逃げなかったんだろう?
「戦争になれば市壁が閉じられるから入れない可能性も高いし、入れても不可抗力で建屋が倒壊するかもしれない。こっちに逃げれば仕事中って事で余計な干渉は避けられるからだ」
そういうものなのかと思っていたら、突然師匠が立ち上がった。
「俺は防犯魔術の構築と見回りをしてくる。どんな状況下でも身体を休ませられるようになるのも冒険者の仕事のうちだぞ」
寝ろって事らしい。
「しかし初仕事でこんなトラブルとか先が思いやられるな」
その僕の呟きに、
「でも私は結構楽しいかな。身体は悲鳴上げてるけどね」
そう答えたのはずっと大人しくしていた和花だ。
「ここ座るね」
そう言って僕の横に腰を下ろす。
「…………怪我とかは大丈夫なの?」
かける言葉がすぐに見つからず今更ながらそんなことを聞いてしまった。
「先生に【軽癒】をかけてもらったから平気かな。それよりもこれからどうなるんだろうね?」
薬草採取という簡単なはずの仕事のついでに野外活動のイロハを学ぶ予定だったんだよね。師匠が言うには経験のない知識だけでは実際には役にも立たないそうだ。経験で得た知識こそ重要だとこれまで何度か口にしていた。
考え込んでいたら左肩に重みを感じてそちらを見れば和花が寄りかかっていた。呼吸音から寝てしまったようだ。
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「さて、こんなもんか」
防犯魔術である【雷鎖網】と【星の加護】を展開し終えてヴァルザスは一息つく。
その時、ヴァルザスの野性的な勘が下から接近してくる存在を感知する。
「歩兵一個小隊程度か?追跡されるようなヘマはしてないが…………」
ヴァルザスはそう呟きつつ思案する。
「いや、和花が滑落したときか?」
あの時に和花が放った短い悲鳴が野営地になった村まで聞こえたのだろうと判断した。
「皆殺しは楽だが、それをすると残りの部隊による山狩り確定だろうな。ここは大人しくお帰り願うか」
そう呟くとヴァルザスは音もなく明かりのほとんど届かない木々の合間を素早く移動していく。
「怪しいから取りあえず調べてみるかって感じで派遣された感じだが…………練度が低いな」
その動きはまるでネコ科のソレのっ如く音もなくスルスルと手頃な高さの木に登り周囲を窺うヴァルザスだったが、兵隊の練度の低さから方針を変更する。
「綴る。精神の位。第8階梯。心の位。精神。内含。夢幻。対象。拡大。幻想。思考。掌握。暗示。深層。深く。深く。深く。深く。範囲。拡大。拡大。拡大。発動。【夢幻影】」
ヴァルザスが右手で宙に術式を描き、呪句を唱え、左手は呪印を切る。
効果範囲を大幅に拡大された【夢幻影】が登ってくる兵隊相手に発動された。
さて、呪文表記は単なる文字稼ぎと取られるのか?
カ〇リーメイトは正義。
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