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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
4章 蒼きツバサ
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怒りからの決意

あのシーンです

 光の女神ヒカルが持っている薄いパネルにはアルモニカの住民達に水を配っている映像が映し出されていた。 その近くにはグレンが住民達を並ばせるように列を作っていて、リフィンは樽に水を出しているようであった。

 その光景を目にしたタキルは水を出すリフィンの表情を読み取ったのか、自らアルモニカの住民に水を提供しているのだと感じた。


「今この街では干ばつが発生して水不足に陥っているようじゃの」

『なるほど、ということはリフは自ら率先して水を提供しているのか』

「正解なのじゃ! 流石ペットと言ったところかの」

『まぁな』

「…こんな大勢の人が並んでいるけど、全部リフが水を供給するというの!?」

『っていう話なんだろうな、グレンも手伝っているしそういう事だろう…馬みたいなのも水を出しているな、こいつは見たことないけど』

「その馬はケルピーじゃな! モエルから聞いた話じゃがこれも彼女がテイムしたと言っておったのじゃ」

『マジか』


 タキルと別れて数日しか経っていないというのに、リフィンは新たな仲間を加えていたとは思いも寄らなかったのだが、自分が居なくても元気にやっているリフィンの姿を見ていると少し寂しくなってくる。

 アストレアは無言のままリフィンが映る映像をじっと見つめるだけで、それを見たタキルは元気づけようと声をかけた。


『なぁレア、お前の妹は小さくても一生懸命頑張って皆の為に動いてるんだ…その皆の中にレアも含まれてると思うぜ?』

「…そうね、リフは優しい子だから」

『レアの事を優しいお姉ちゃんって言ってた』

「私が優しくするのはリフだけよ、他は無いわ」

『オレを送り出す時に「お姉ちゃんを頼むね」ってリフに言われちまってな…あれはレアに会いたがっていたんだとオレは思う』

「そんなの、私だって…っ」


 映像には汗を流して水を出し続けるリフィンの姿が映ったままであった。 水を配るペースを落とさないように魔法を行使するリフィン、厳しい作業であるだろうがそんなリフィンは他の人に悟られないよう笑顔を絶やさずにいるのが映像越しでもよく分かる。

 するといきなり光の女神ヒカルが「おっとそうじゃ忘れておったのじゃ!」と話を切り替えてくるのであった。


「実は少し前にシズルから彼女の身を守る為の装備を作ってくれと言われておってな、普段なら人間なんかの為に装備品なんて作らんのじゃがミスティエルデの世界を救う人間の為ならば話は別、という事での…武器を用意しておいたのじゃ!」


 ヒカルはリフィンの映像が流れているパネルをアストレアに渡して、またどこからか深い青色をしたきらびやかな細身の剣を取り出したのであった。

 片手でも振れそうな1メートル程の片刃の剣で刀身は深い青色をしており鈍く光を(かがや)かせていた。


「これをリフィンとやらに渡しておいてくれ、少し重いが水魔法使いの魔力で刀身がより鋭くなったり少し長くなったりする代物じゃ!」

「シズル様がリフに?」

『神ってなんでもアリなんな…』

「そうじゃ! 身を守る為の装備といえばこれで決まりなのじゃ! 製作期間がちょいと短かったものの、なかなかにイカした武器じゃろ? 水属性と相性が良いアクアマリンをふんだんに使うという大胆な発想が生み出した匠の心意気が光るヒカルの芸術品なのじゃー!」


 製造過程はよく分からないが光の女神ヒカルが、世界を救う為に行動しているリフィンの為に作った剣だというのだ。 アストレアはヒカルから剣を受け取って試しに持ってみると少し重いもののアストレアが振るには丁度良い代物であった。


「…とりあえず受け取っておくわね」

「ちゃんとリフィンとやらに渡すのじゃぞ!」

「…え! ちょっ…消えたんだけどっ!」


 とりあえずどこに置いておこうかなと考えたアストレア、すると細身の剣は青白い光を放ち次第に丸くなっていくとアストレアの手の中に消えてしまった。


「貴重な物じゃからの、奪われないように収納機能付きじゃ! 出て来いと念じてみぃ!」

「………まじで出てきた」

『羨ま機能じゃねーか!』


 どうやらアストレアの意思一つで出し入れが可能となっており、リフィンとアストレア専用装備として登録されているとのこと。


「ちなみに収納されている状態で死ぬと魔力の粒子が分解されもう一人の所有者の体内に引き寄せられ再結集するのじゃ、ミスティエルデに戻って死んだとしてもリフィンとやらの手元に行くので安心せい!」

「言ってくれるじゃないの…そうならないよう気を付けるわ」

『逆に言えば、持ってない方は生存確認が出来るって訳だ、滅茶苦茶便利だな』

「なるほど…感謝するわ」

「ふふん! もっと敬うがよい! あとはこの部屋の改造を任されておったのじゃ…ちょっと五月蝿(うるさ)くするけど気にせずそれを見ているといいのじゃ!」

『改造?』

「そうじゃ! お主らは食事や睡眠、排泄といったことをするじゃろ? その為この部屋を改造するようシズルに言われておるのじゃ!」


 言われてから気が付いた、そういえば起きてからご飯もトイレもしてないと思ったタキル達は急にお腹が減り、少し下腹部がむずむずした。


「安心せぇ、すぐトイレから作ってやるからの」

『「お願いします』」


 ヒカルは物を作るのが得意なのか、どこからか工具や木材を取り出して安全第一と書かれた黄色いヘルメットを被ってシズルの部屋を改造していくのであった。




● ● ● ● ●




「ふぃ〜っ…完成したのじゃ!」


 神は排泄などしない筈なのだが額の汗を拭うような仕草をし、改造し終えたシズルの部屋を見回した。

 個室の洋式トイレが部屋の隅に設置され、なんということをしてくれたのでしょう、部屋の壁を突き破って出来た空間には脱衣所とお風呂が出来上がっていた。 寝室と客間もなんということをしてくれたのでしょう、壁をぶち破って出来た空間に出来ており、元々あった部屋はリビングとダイニングキッチンへと進化していた。

 天井もなんということをしてくれたのでしょう、くり抜かれて少し高くなっており、照明が何個か吊るされていたので全体的に生活感が漂う暖かい空間へと変貌していたのだった。


『うわぁぁぁあああっ!?』

「いやぁぁぁあああっ!?」


 ヒカルの後ろから悲鳴のような声があがった。

 そんなに驚くような事でもなかろうて、ヒカルの腕ならばこれくらい余裕なのじゃよ! と意気込んで後ろを振り向くと、タキルとアストレアはヒカルが手がけた芸術並のリフォームに驚いた、のではなくリフィンを映しているパネルを見て悲鳴をあげていたのである。


『逃げろリフ! 今ならまだ間にあっ…うぎゃぁぁぁあああ!!!?』

「ぁぁぁあああ!! ぶっ殺す! あいつ絶対ぶっ殺してやる!!」

「なっ、なんじゃお主らは…ヒカルが頑張ってトイレとか風呂とか用意してやったのに何を見て…」


 いったい何を見て騒いでおるのじゃ、とヒカルはタキル達が見ているパネルを見ると(ようや)く理解した。

 パネルの映像にはリフィンと赤髪の少年が口づけをしている最中で、見るからに強引にキスされたのだという事が判ってしまったのであった。 その後リフィンが気を失い赤髪の少年がリフィンを抱きかかえて誰も居ない部屋に連れて行く映像を見たところで、アストレアが持っているパネルがパリィンと音を立てて割れるのであった。


「やばいのじゃ!? これはやばすぎるのじゃ!? あっという間に妊娠出産育児で小さなハッピーエンドを迎えてしまうのじゃ!? これでは世界を救う以前の問題なのじゃー!?」

「ねぇタキル、さっきの男グレンって言ってたけど誰なの? 私のリフに手を出すとか良い度胸してるじゃない」

『グレンは火の魔法が使えるソロ冒険者だ、リフの学生時代の同級生らしいって事しか知らねぇけど…オレも殺意湧いたわ』

「どうしたらいいのじゃ!? と、とりあえず他の神達に連絡してみるのじゃ!」


 ヒカルはそういって神だけに繋がる回線を開いて通話を行うのであった。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「緊急事態じゃ! 緊急事態なのじゃ!」

「あたしも今リフちゃんねる見てるけど! 超やべー!」

“騒々しい”

「…どうかしたの?」

“デュフフコポォ”

「リフィンとやらが男にキスされて部屋に連れて込まれたのじゃ!」

“何だと!?”

「しかもリフちゃんの意識無いの!」

「…それは不味いの」

“オウフドプフォ!”

「どうにかして手を打つべきなのじゃが、どうするべきなのじゃ!?」

“今から干渉しろと言われても何も出来ないが?”

「…今ゲート閉鎖やってるとこなの」

「あ、男がヘタれてリフちゃんから離れて行ったわ!」

「…セーフ」

「そうか良かったのじゃ、こちらのパネルは姉が壊してしまったから見えなくてのぉ」

“とりあえず一件落着か?”

「そうね、ひとまずは大丈夫なようだし解散!」

“フォカヌポゥ…”




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「ひとまずは大丈夫のようじゃ、男の方がヘタれたらしいの」


 ヒカルは現状をタキル達に伝えたが、怒りで震え上がったアストレアとタキルはメラメラと熱くなっており決意の意志を同時に誓い合うのであった。


『「リフの貞操を守る為に絶対に強くなってやる!!』」

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