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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
3章 アルモニカの冒険者
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残念な教官と体力作り

教官は元女騎士です。用法、用量を守って(ry

「走れっ! バテるにはまだ早過ぎるぞ! 冒険者なら根性見せてみろ!」

「はい”っ!」


 タキルを姉宛に贈った翌日、リフィンはエルルの森でアンマリード教官に戦闘訓練を指導してもらっていた。

 タキルが居なくなった事で今まで任せていた周辺警戒や偵察、地形把握が出来なくなってしまいこのまま魔物退治に行くのは危険だと判断、正直不安でしかなかった為、ギルドの受付エルザに相談しに行ったらアンマリードを寄越してくれたのだ。


 アンマリードならリフィンの水魔法の事を知っているし、人目に付かないエルルの森で訓練に付き合って欲しいと聞いたところOKの返事を頂いたのだが、性格が変わったようなアンマリードの指導がスパルタだったので少し後悔するリフィンであった。


「ぜぇ…はぁ…っくぅ!」

「きゃぁっ! すぐそこまでオークの群れが近づいて来ているわぁ!」

「ひぃ…ひぃ…」


 実際にはオークなんて居らず、リフィンは基礎体力作りが最優先だとアンマリードに言われ、木と木の間を何往復も走り込んでいたのだ。 ものの数分で呼吸が乱れてしまい脇腹が痛くなったのか手を少し当てながら走るリフィンであったが、その走りの遅さに情けなさを感じたアンマリードはもっとキビキビと走るようにとリフィンに鞭を打ち続けるのであった。


「オークが手を伸ばせば捕まるくらいまで近づいてるぅぅ! 捕まったらくっころ案件になっちゃうわ! 一生オークのお嫁さんになっちゃうぅぅ!?」

「ぜぇ…いや、ちょ…っと、待っへ…下さい」

「待ってと言って待ってくれるオークなんて居る訳無いわ! いやぁぁぁ!? ゴブリンもいっぱいやって来ちゃったのぉ! …捕まって惨めに慰み者になるつもりかおらぁ!? なんて羨まっ…けしからん奴だ!」


 アンマリードが一瞬口を滑らせたように聞こえたリフィンであるが、そんな事はもはやどうでも良かった。

 流石に変な言葉をかけられ続けて走るのは嫌気がさすので正直辞めて欲しかったのだが相手は教官、リフィンには走り続ける以外の選択肢は無かったのだが、もうすでに疲労の限界に達していたのであった。


「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぅっ…」

「あーもぅ捕まる捕まる捕まる捕まるやばいよやばいよやばいよやばいよぉぉぉおおおお!」

「もう…無理れす…」


 倒れそうな勢いでリフィンは木に寄りかかり、今すぐにでも倒れてしまいたかったのだが倒れると心臓に負担がかかるので倒れまいと必死に木にもたれかかった。


「アッーーーーーーー!! 捕まっちゃったよぉお!! 後ろからオークに組み伏せられて寝バッ…リフちゃんバッドエンドォォオオ!!!」


『…もうあの教官嫌だ』

『あー…うん、あれは酷い』

『…でも実際にオークに捕まったらそうなりそうで反論出来ない』

『リフちゃん細いからねぇ…』


 己の基礎体力の低さに嘆くリフィン、タキルの偵察に頼れない今、危険なモンスターと遭遇した時に逃げきる体力が無いとあっと言う間にやられてしまうだろう事は自分でもわかる。 そこを改善しなければこの先冒険者なんてやっていけないであろう事も…


 木に身体を預けたまま息を整えているとアンマリード教官から声がかかった。


「よく走ったと褒めてやろう、とりあえず休憩10分挟んだら次はわたしが対人戦の基本を教える、その後はわたしと模擬戦、昼食後にこれを2セットね!」

「ぁ…はぃ…」


 まだコレが続くのかと思い、空を見上げるとまだ陽は傾いておらず気が遠くなるのを感じたリフィンであった。




● ● ● ● ●




「よくこの3日間耐えきったな…最初は糞みたいな体力だったけど今は糞に毛が生えたくらいまでに成長したから自身を持て! 今後とも努力を怠らないように…努力を怠って団子ばっかり食ってたらわたしみたいになるから気をつけるように!」

「…はい」(そういえばアンマリードさん太った?)


 昇格試験の頃よりなんか太ってらっしゃるような気もしなくもない、とリフィンは思った。


「あと、男に痴漢されたりとか、背後から襲われたりしたら、すぐわたしを紹介してくれ! 凄く良い物件ありますよって言えば男はその気になってわたしの所に寄ってくる筈だから! 襲われなくてもどこかにイケメンが歩いてたら私に紹介して、必ず落とす!」

「……はい」(それ今関係ないですよね?)


 ちなみにアンマリードの服のボタン掛け間違えや靴紐解けているのは健在である。


「まぁわたしのようなむちむちしてるボンキュッボンな食べ頃超優良物件を見逃す男は居ないだろうけど、キープは多い程良いって言うしな…ん? そんなにわたしの事が羨ましいって顔してるじゃないの」

「………はい」(キュッボンボンに見えます)


 まさか3日間かけて指導を受けるとは思わなかったリフィン、アンマリードと会話をする度に元気が吸い取られて行くような錯覚に陥ってしまい、既にリフィンの目は虚ろに曇っていた。

 体力的には少しは強化されたような気もするが、疲労と筋肉痛によって以前より身体が重たいのは気のせいだと思いたい。

 実は基礎体力よりむしろ水魔法の練習をしたかったリフィンは寝る間も惜しんで新しい魔法術式を考えて居たのであったが、常に身体を動かしていたせいかすっぽりと術式の事なんて忘れ去っていて、今はとりあえずアンマリードから1秒でも早く距離を取りたかったのであった。


「では、今後の健闘を祈る!」

「ありがとうございました」


 そうしてリフィンの基礎体力訓練は幕を閉じたのであった。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 リフィンがアンマリードによる訓練を終えた頃、

 リフィンの姉のところに贈られているタキルは目の前に見えて来た大きな都市に目を釘付けにするのであった。


『ほえー、でっけぇ宮殿だなありゃあ…あれがリフィンの故郷なのか、馬車で3日揺られて吐きそうだったけど耐えきれて良かったぜ…あとは上手くリフィンの姉ちゃん、アストレアって人に会って伝える事が出来ればいいんだがな』


 タキルは鳥籠の中、不安や緊張で高鳴る心臓を押さえようとブルブルと震えていた。

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