エルトト村の依頼
アルモニカは本日も快晴、というよりここ数日は突き刺してくるような日光、高い湿度と気温に朝一とはいえリフィンとポコはダラダラと歩いていた。
『やばいね…最近のこの暑さ』
『ウチも同感だよ…水分補給はこまめにしとこ?』
『そうですね…あそこにしましょう』
人気のない場所で水分補給をするリフィンとポコ、帽子に隠れてたライにも水を与え一息つく。 宿屋の女将カイラさんからも予備の貯水を求められるくらいここ最近の日照りは凶悪だ。
「おはようございまーす」
リフィンは朝一から冒険者ギルドにやってきて入り口の扉を開くと同時にカランカランと乾いたベルの音を鳴らした。 ギルド内は少し涼しく帽子に隠れていたライはリフィンの肩に移動し、ポコも少し安心したようだ。
3日間続いたアンマリード教官による訓練をなんとかこなし未だ筋肉痛がバキバキと身体中に響いているが、毎度おなじみの受付嬢のエルザに無事生還したと報告を告げるのであった。
「おはようリフちゃん、なんとか無事にアンマリードの訓練を終えたようね、褒めてあげるわ」
「ありがとうございますエルザさん、正直逃げ出したい程キツかったですけど…」
「彼女、教官になると性格が変わったようにスパルタになるのよ、それのせいなのか殆どの冒険者から恐れられているのよねぇ…だからまだ未婚のまま男が全然寄ってこないのよ」
それをあなたが言うのか、と心の中でツッコミを入れたのだが悟られないように別の話に持って行きつつも、受けれる依頼があるのならそれを受けようかなとエルザに依頼書を出してもらう。
「そ、そうですか…ところで私が受けられそうな依頼ってあるでしょうか?」
「えぇ、それがたんまりと薬草採取の依頼ばかりよ」
「わー…薬草採取の依頼がこんなに、何かあったのですか?」
「実はね、ここのところ雨が降ってないでしょ? 日照りが続いてここら一帯は干ばつが起きているし、ひ弱な水魔法使い達が悲鳴をあげてて結構魔力切れでダウンする人が多くなっているのよね…栽培している薬草も干からびて少し足りないみたいなの、彼らに元気になって貰う為に薬草採取の依頼がたくさん出て来てるのよ」
「それはっ!?」
エルザからとんでもない事件が起きている事を知らされて驚いた。 今まさに水魔法使い達が悲鳴をあげているというのに、自分はこんなところで薬草採取をしている場合ではないと警鐘をならす。
しかし自分1人で何が出来るというのだと考え込む、この都市アルモニカに住む人口はおよそ50万人、それらを全て見れる訳が無いと1人尻込んでしまう。
『想像以上にやばいねリフちゃん…』
『うん、まずどうするべきだろう』
『うーん、こういうときにタキルが居てくれたら何か案を出してくれると思うんだけどねぇ…』
『…多分今頃、姉の所に着いてると思う』
『代わりにウチが行けば良かったかな?』
『ポコが行ったらそれはそれで食べられそうで危険』
『まじすかー』
そんな事よりも干ばつの話である。
リフィン1人では流石に限度があるし、他の水魔法使いに混じって水を出していたとしても焼き石に水だろう、それより水魔法使いだとバレたらあっちやこっちで利用され酷使されると思うと中々行動に移れないリフィンであった。
「そういえばリフちゃん、今日はタキルが見えないけど…」
「えーっと、今は姉の所に行ってるので居ません」
「あらそうなの、姉妹2人で飼ってるなんて仲が良いわね」
「はい、姉は優しいですし、仲も___」
「緊急の依頼じゃあ!」
タキルの不在に気が付いたエルザにリフィンはタキルが姉の所に居ると説明するリフィン、遠い隣国まで行ってるとはいえ、嘘ではないので普通に話していると、後ろの入り口からバァンと扉が開かれ、慌てて走ってくるおじいさんが受付のエルザのところにやって来た。
「冒険者ギルドにようこそ、どうかされたのかしらぁん?」
「なっ…オ、オカ…マ!?」
「どうかなさいましたか? アタシの顔に何か付いていまして?」
「い、いや何でもないわい…儂ぁ隣のエルトト村に住んどる者なんじゃが、そこに居る水魔法使い3人が皆干ばつの影響なのかもしれんが倒れてしもうて飲み水も無いし畑も枯れてきておるしなんとかしてくれんかね!?」
「あら? エルトト村って言えば近くに泉があったと思うんだけどそれでは駄目なのかしら?」
「それなんじゃが村の者が泉に向かった所、見た事の無い魔物が住み着いておったらしく近寄れんのじゃあ! そもそも泉の水なんて何入っているかも分からんから飲めたもんじゃないわい!」
「…」
おじいさんの発言に、エルトト村の水は全て水魔法使い達が賄っていると気付く。
「その見た事の無い魔物の詳細が分からないと冒険者を出せないのはおじいさんご存知ですわよね?」
「儂ぁ直接見ておらんから分からんのじゃ…守り人に水を汲みに行かせたんじゃが襲われてしまい、幸い怪我も無く無事ではあったんじゃが寝込んでしまってのぉ…そういやそこの嬢ちゃんは冒険者なのじゃろ? 助けてはくれへんかのぉ」
「私は…その…」
いきなりその場に居たリフィンにおじいさんが話しかけて来た。
助けてあげたい気持ちもあるのだが、リフィン1人で「はい分かりました」と言えるような実力は持ってはいない。 言葉に悩むリフィンであったが、エルザが助け舟を出してくれた。
「待って頂戴、その前に金額を提示してくれないかしら? 魔物の詳細が分からないなら高ランクの冒険者に依頼しないといけないから金額は高めになると思うけど」
「そっ、そんなに持って来ておる訳がないじゃろうが! 貧しい村の維持だけでも苦労しとると言うのに!」
「とりあえず掲示してくれるかしら? それを見てこちらで判断させて頂くわ」
おじいさんはそう言われると懐からお金が入った袋を取り出してジャラララと中身をテーブルの上に出す、お金を出す時の音は威勢が良かったものの、リフィンが横から見てもその貨幣は銭貨や銅貨ばかりで、あまり高ランクの冒険者が雇える様な金額ではなかった。
「お客様…これでは高くてもEランク程度の冒険者1人くらいしか出せませんがそれでもよろしくて?」
「何でも良いわい! とりあえず泉に住み着いた魔物を退治してくれれば文句は言わんわい! あと水魔法使いを数人寄越してくれたら助かるんじゃが」
「それは冒険者ギルドではなく、役所に言ってもらえると助かるわね…」
さらっと要求が増やすおじいさんであったが、それ程までに切羽詰まっているのだろうと予測するリフィン
「水魔法使いの冒険者は居らんのか!?」
「そういう貴重な人材なんだけどね、最近入った子なんだけどウチではその子1人しか登録してないの…おまけに今は遠征に行っててしばらくは帰って来ないかもしれないわね」
「なんじゃとぉ!?」
その子とは多分ルコさんの事だろう、遠征に行ってたのは知らなかったが水魔法使いと登録しているのだろう。 リフィンは無能力者として登録してるからカウントされていないだけであるが、ここで声をあげたところでリフィンだけだと魔物の退治に困るのでどうするべきか悩んでいると、数日振りに見た人物が入り口の方からやって来たのであった。
「…何を騒いでいる?」
「…おはよ」
「…おう」
「あらグレンじゃない、こんな時間に珍しいわね」
「たまたまだ…何か緊急の依頼か?」
「えぇ」
グレンがやってきたのでエルザが依頼の内容を説明していく、おじいさんも横からグレンに必死に説明していて依頼を受けるように懇願していた。
『そういえば少しの間どこか行くって言ってたけど…帰ってきてたんだねー』
『うん…でもあの金額じゃグレンなら受けないような気がする』
『確かに…』
『リフちゃん的には受けたいんだよね?』
『助けてあげたいんだけど、魔物の詳細が分からないから危険な感じがする』
『あー…ウチやリフちゃんの魔法で倒せないとなると確かに危険かも』
そうこう話をしている間に時間が経っていたのか他の冒険者達が集まって来ており、グレン以外の冒険者達にも声をかけていくおじいさんの姿が見てとれてしまった。 流石に危険度と報酬が釣り合わないのか、次々と冒険者達に断られていくおじいさんを見ているとリフィンは心が苦しくなる。
人を助けるのが冒険者なのではないのか、ただ魔物を狩るだけが冒険者なのか…まず冒険者である前に人として困っている人を見たら助けるのが人間ではないのかとリフィンは葛藤した結果、おじいさんに声をかけようと前に踏み出した時、横からグレンに肩を掴まれたリフィンであった。
「待て」
「…放して」
「お前はお人好し過ぎる、断られていく爺さんの姿を見て同情したのか?」
「…私が行って村の………賄えばなんとかなる筈」
「駄目だ、それでは村の者がお前に目をつけ何をされるか分かったものじゃない」
「そんな事っ…!?」
「…俺も一緒に行く、それで良いなら向こうで好きな様に動け」
「…良いの? でも報酬が少ないから」
「そこは気にするな、泉に住み着いたという魔物に少し興味があるからな…どんな魔物か見てみたいだけだ」
「…ありがと」
そうしてリフィンとグレンはおじいさんの所に行って、依頼を受けると告げた。 流石にもう誰も受けてくれる冒険者が居ないと諦めていたのか、リフィンとグレンに深々と頭をペコペコと下げ、ブンブンと握手をしてくれた。
「本当に受けてくれるんじゃよな!?」
「はい」
「本当の本当に受けてくれるんじゃな!?」
「…あぁ」
「感謝するぞいお前さん達! とりあえず泉に住み着いた魔物を退治するだけでもしてくれたら文句は言わんけぇ! よろしく頼んますわぁ!」
年を感じさせない程大喜びをするおじいさんであったが、まだ魔物の特徴を知らないので安心は出来ないリフィン達であった。
あまりにも喜ぶおじいさんの姿が目立ったのか、他の冒険者からも注目されひそひそと声が聞こえてくる。
「あの依頼を受けるとはやっぱりエルザ組だな」
「流石に魔物の情報がわからねぇからな…俺らは絶対パスだわ」
「村に着いても水が無いんじゃあなぁ…」
「最近登録したあの子、そんなに強いのだろうか?」
「エルザに臆する事も無く接しているからな、平常か蛮勇かで言えば平常の方だろ」
「あの子可愛いんだけどなぁ…畜生グレン、そこオレと変われ!」
「痛い目見たくなければやめとけ、あの連れているタヌキ、土魔法を使うって聞いたぞ」
「おいマジかよ、どこ情報だよそれ!?」
「あの危険なスライムだって使役してるんだ、そうとう実力があるに違いない」
うん、どこからそんな噂が流れているのか知らないけど、実力はゴブリン程度なんですよね…と、1人思うリフィンである。 そんな会話がグレンにも聞こえていたのか、笑い出しそうな顔を押さえているグレンがクスクスと震えていた。
「…もしかして」
「…お前そんな強いのかよ、くはは」
もしかして噂を流しているのはグレンなのではないかと疑ったのだが、そんな事をするメリットがどこにあるのかと証拠や裏付けがはっきりと導きだせないので流しておく事にした。
「あ、俺たちも一緒にその依頼を受けても良いっすか?」
「頼もう」
正式にエルザに依頼書を作成して貰いあとはサインをするだけだったのだが、2人の男性から一緒に依頼をと声をかけられたリフィン達はそちらに振り向く。
「お前等…」
「…えっと、確か黒剣の集いの」
「あ、覚えててくれてたっすか! でも自己紹介はまだでしたね、俺は黒剣の集いのロルタプっす!」
「俺はロディだ、久しぶりだな嬢ちゃん…問題児もな」
リフィンは何故Bランク冒険者の方達がこの依頼を受けたがるのか、謎に思えて仕方が無かったのであった。
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