平和な朝
今までいったいなにやってたんだ!
「ふぁ…おはよう」
『おはよう』
『…』
「うじゅるうじゅる…」
朝、あけぼの亭で借りている部屋のベッドで目を覚ましたリフィンはタキル達に挨拶をした。
ベッドから上半身だけ起こしてカーテンを開けると眩しいほどの陽の光がリフィンを照らし、一日の始まりを実感する。
『ん~っ…ふぅー』
陽の光を浴びたポコがようやく起きて目元をこする仕草が可愛かったが、あえてリフィンは口にしないでいるとタキルが今日の予定を確認してきた。
『今日は冒険者ギルドで昇格試験受けるんだったよな?』
『うん、なにするのかは知らないけどね』
『そか、とりあえず気合い入れて挑むしか無さそうだな』
『そうね…』
『むにょむにょむにょ…』
『ポコはこのまま寝かせてあげようか』
『おぅ…まずは身支度だな!』
ポコは半分夢の中だが、タキルの言葉に賛成したリフィンは着替えて支度をするのであった。
準備を整えて食堂に行こうとすると、あけぼの亭の女将であるカイラさんが受付にいた。
「おはようございますカイラさん」
「おはようリフちゃん、今日はギルドに向かうようね!」
「はい、しばらく引き篭ってしまってすみません」
「いいのよ、迷いがあるうちはいくら頑張ったって仕事にならないんだから、特に危険が多い冒険者なら無理しない方がいいからね!」
「ありがとうございます、もう大丈夫ですので心配は要りません」
「いやいや、女の子1人で冒険者やってるだけでもかなり心配してるのだけれど?」
「う、よく言われます・・・」
初対面の時のカイラは礼儀正しい宿屋の女将というイメージだったが、しばらくして仲良くなると中々フレンドリィに接してくれる人のようだった。 リフィンは自分を心配してくれる人が居てつい嬉しくなる。
カイラさんと話していると”あけぼの亭”の看板娘が「おはようございまーす!」と元気に挨拶をしてきてリフィン達の方に近づいて来た。
「おはようカレンちゃん」
「リフちゃ…こほん、リフさんおはようございます。 今日は冒険に出るんですねー、お母さんがずっと心配してたんですよ?」
「それは私が居ないところで話しなさい…」
「えー、本当の事じゃん」
「あはは、これは大変心配をおかけ致しました」
自分の気持ちの整理が出来なかった数日間、この親子はただの他人であるリフィンを気にかけて心配してくれていたようで、もう心配させるような事はしないと心に決めた。
そしてこの”あけぼの亭”を紹介してくれたエルザに今一度感謝するのであった。
朝から談笑していると、仕事を思い出したのか宿屋の女将のカイラが洗濯カゴを持って立ち上がると、娘のカレンがそれを静止させた。
「お母さん、今は無理しないでいいって言ってるのにあんまり動いちゃ駄目なんだから!」
「まだ身体に支障はないから大丈夫って何度も言ってるじゃないの…」
「私がやるから大人しくしてて!」
「困ったわねぇ…」
リフィンが見る限りカイラは至って健康そうに見える、どこか調子が悪いのかと訊ねると「お母さん妊娠中だから動いちゃ駄目なの!リフィンさんも注意してあげて!」とカレンはリフィンにも同意を迫った。
「そうですね! ウォーレンさんも心配されると思うので今はカレンちゃんに甘えても良いと思いますよ?」
「うふふ、ありがとリフさん」
「ちなみに今どれくらいなのですか?」
「今7ヶ月よ、外は暑いけどこれくらいじゃ体に問題は無いわ」
「もうすぐ出産じゃないですか! カレンちゃんが張り切るのも分かる気がします」
「分かったお母さん? 動いちゃ駄目だからね?」
「はいはい…大人しくしておきます」
カイラはわざとらしくしょんぼりした仕草をして受付の椅子に腰掛けた。
それを見たカレンはカイラから洗濯カゴを奪うようにして手に取り、仕事に向かっていった。
「リフちゃんはこれから朝ご飯かしら?」
「はい、ウォーレンさんのご飯は種類が豊富で美味しいですし毎朝のエネルギー源として最適です」
「それなら良かったわ、だけど美食に拘る癖があるから少し食材費が高いのよね…金額を上げたらお客さんが減ってしまうし…」
「そうだったのですか…」
「あらごめんなさい、リフちゃんに話してもどうにもならない事をついうっかり言ってしまったわ…」
「いえ、もし物価が上昇したりしたら私も困りますので…ウォーレンさんと相談してみては?」
「そうね、もう一度相談してみるわ…」
ウォーレンさんとは、この宿屋の調理担当をしているカイラさんの旦那さんだ。
食堂で出される料理は、一度食べるとその味が忘れられなくなる程で有名で、開店時間は常に客で賑わっているので商売繁盛しているのかと思いきや、食材費で少し頭を悩ませているようだった。
リフィンは世間話もほどほどに女将のカイラと別れ食堂に向かった。 食堂にはウォーレンさんが居ていつでも調理に取りかかれるように準備していた。
「おはようございますウォーレンさん、いつもの朝食セットお願いできますか?」
「あぁ、カウンターで待っててくれ…おはよう」
一見寡黙に見えるウォーレンさんだが話かければ普通に返事を返してくれるし、食べる人を思って料理を少しアレンジしてきたりもする気さくな人だ。 ここ数日の間にリフィンが思った事だが、そんな彼に惹かれて食べにくる人も実は多く感じる。 今の時間は宿に宿泊している人限定の営業の為リフィンしか客が居ないが、もう1時間程すれば一般の人にも解放されるので一気に全部の席が埋まるであろう。
リフィンはカウンターに座ると、朝食を作ってくれているウォーレンさんに女将カイラから聞いた事を聞いてみる事にした。
「もうすっかりこの食堂で朝食を食べないと調子が出ません」
「そうか、それはどうも」
「ウォーレンさんが作るご飯は美味しいのですけど、カイラさんが食材費の事で少し頭を悩ましてましたよ?」
「あいつ、余計な事を」
「すみません…私が聞いていい問題じゃなかったですよね」
「いや、いい…問題は俺にあるしそれは前々から分かっていた、実はこれでも無い頭捻って色々試行錯誤しているところだ、内緒だぞ?」
「それ聞いて安心しました、内緒にします!」
お金を落としてくれるお客様は大事だが、家族の方がもっと大事だとこの宿の主人は分かっているようで、良い旦那さんだなと、リフィンは思うのであった。
朝食やその他準備を終えてリフィン達は冒険者ギルドに到着すると、多くの冒険者が受付のカウンターにぞろぞろと並んでいた。 1つの窓口を除いて…
その窓口にいるのは当然の事ながら筋骨隆々ガチムチオカマなのだが、1人も冒険者が寄って来ないという事に憂いを帯びた顔で1人佇んでいた。
「おはようございますエルザさん」
「おはようリフちゃん、少し見なかったけど調子は戻ったのかしら?」
「はい、ご心配をおかけしました…今はエルザさんの方が元気無さそうなのですが」
「流石に避けられているのには慣れてるんだけど、ギルマスに営業成績をどうにかしろって言われちゃったのよぉ…もっとアタシに美しくなれって事なんだろうけど、良いアイデアが浮かばないのよねぇん」
そういう問題ではなく普通に受付したらいいのでは? とは流石に言えず困ったリフィンだが、なんとかしてフォロー出来る様な言葉を探してみる。
「えっと…私がエルザさんの受け付けに来てたくさん依頼をこなしますので」
「うふふ、じゃあリフちゃんに期待しようかしら」
「頑張ります! まずは冒険者ランクあげてからですけど…」
「そうだったわ! 今日はそれにしようかしらねぇん…あっ、丁度彼女も来たところだしお願いしようかしら!」
エルザの言う彼女とは一体誰の事だか分からなかったが、リフィンの後ろの方から誰かが近づいてくる足音が聞こえて来る。
「おはようアンマリード、リフちゃんの昇格試験おねがいしてもいいかしら?」
「おはようエルザ、この子がリフちゃんね! 了解したわ!」
●カレン
宿屋の看板娘12歳
元気溢れる茶髪のポニテ
●カイラ
宿屋の女将
出産間際、まだ20代
●ウォーレン
宿屋の主人
かなりの料理上手
今後ちょくちょく出てきます。




