巷で噂の…
怠け癖つくとやばいね・・・
「おはようエルザ、この子がリフちゃんね! 了解したわ!」
アンマリードと言われた女性が後ろからリフィンの肩をポンと叩いて、カウンターにいるエルザと挨拶を交わした。
リフィンはその女性のほうに振り向くと野生じみたオーラが漂う綺麗な人だった。
少しボサついたブラウンの長髪でオオカミの毛並みを思わせる様な特徴をしており、装備は革系の鎧に多数のベルトががっしりとナイフ等を収納しているが、結構ずさんなところがあるのか服のボタンがずれていたり靴の紐が解けていたりしていた。 一見すると腕の立つ?ような冒険者に見えるが、彼女は今回リフィンのギルドFランク昇格試験の試験官だということに気づいたリフィンは、挨拶を忘れないようにしておく。
「リフィン・グラシエルです、今日はよろしくお願いします。」
「わたしはアンマリードだ、この冒険者ギルドの雑用係をやってる…巷で噂の可愛い冒険者の昇格試験を担当するなんて光栄だねぇ! くくく」
『なぁリフ、巷で噂とか言われてんぞ』
『うわ…不気味な顔してる』
何をどう噂されているのか知らないが、目立ったような活動はしていないつもりだ。
大声を上げて馬鹿笑いするヒゲもじゃ荒くれおじさんことロディとか、宴に参加して武勇伝を語るシックさんのような経験も実力も無い、グレンのように人様に迷惑をかけるような事もしていなければ、盗賊のように犯罪に手を染めるなどという事もしていない。
しかしリフィンは、巷で噂されている内容をアンマリードから聞いて驚愕することになる。
「なんだ聞いた事無かったのか? 新人の女魔物使いが火災児の毒牙にかかったとか、危険な依頼を受けさせて帰ってきたら虚ろな表情をしていたとか、ここの冒険者達は口を揃えて言ってるのだが…」
「ご、誤解ですよ! 誰かの勘違いじゃないですか!?」
「あー…あと、受付のエルザに恐れも無く向かって行く度胸と、エルザの家に泊まって無事生還したという噂も流れているな」
「___っ!?」
それは事実である。
エルザとの初対面は緊張したものの、今では普通に話しかけられる程の仲だ。 少し努力の方向性はズレているが面倒見が良くて頼りになる普通に良い人だとリフィンは思っている。
エルザの家に泊まったのも成り行きではあったものの、無事生還したという事に関して言えば否定出来ないリフィンは、その場で言葉を濁すしかなかった。
「それは、確かに…その」
「あらやだ失礼しちゃうわぁん、その言い方だとまるでこのアタシがケダモノみたいじゃない?」
「なにを今更、自分の事を客観的に見れない人って本当に残念よねぇ?」
「可憐に舞う蝶のようなアタシの美しさを認められないの? その腐った観察眼してるから彼氏が出来ないんじゃないアンマリード?」
「わたしが先に彼氏作ってあんたに見せびらかしてやるんだから!」
「無理無理、ガサツで家事もろくに出来ない胸えぐれてるズボラ女に引っかかる男なんて居ないわ!」
「あ、あの___」
「あんだとぉ!? あんたそもそも生物学上としては男だろうがぁ!!」
「今アタシになんて暴言吐いたぁぁぁあ!?」
エルザとアンマリードはカウンターテーブルを挟んで取っ組み合っていた。
エルザが机に手をつけばメキメキとテーブルの材質である木が悲鳴をあげ、アンマリードが近くにあった椅子を蹴り上げれば隣の受付に並んでいた男性冒険者に直撃し泡を吹いていた。
「エリックぅう!!?」と、彼の冒険者パーティであろう仲間達は必死に彼の名前を呼んで叫んでいると朦朧と意識はあったのか、「今日は厄日だ、休養日にしよう!」と冒険者ギルドを後にし、後日賠償金をアンマリードから支払われるのはまた別の話
近くにいたリフィンは仲裁に入ろうとしたのだが、近寄ろうとしただけで何かしらの被害を被りそうなくらいの威圧感が漂っていたので断念、彼女ら2人を止める様な力をリフィンは持っておらず、他の冒険者達でさえも自分からは近寄ろうとはしなかった。
『すげぇ威圧感だな…』
『なんかもう…闘気が見えてきそうなくらいだね』
『これどうすればいいのか誰か教えてくれないかな…』
タキルやポコでも流石に近寄り難いのか、リフィンの傍から離れようとはしなかった。
いつまで2人のいがみ合いが続くのかと思ったリフィンだが、徐々に周りの空気が穏やかになっていくのを感じた。
「…っふぅ、アタシとした事がつい取り乱してしまったわぁん」
「そうね、あたしも少し熱くなってたわ…後でエリックに謝罪しなきゃ」
放っておけば自然に解決するのから他の冒険者達は見て見ぬフリをしていたのかと思ったリフィンだが、他の冒険者達は僅かに震え上がっていて動けなかったという事はリフィンは知る由もなかった。




