距離はおいておこう
短っ!?
「虹百合のパーティメンバーは今のところ水以外の属性持ちだけで構成されている、さっき光るゴリラが水使いの女奴隷を買ったから、アレを冒険者として使う予定だな…」
「…私が水使いって明かしてたら、あの子は買われなかった可能性があったって事ね」
「そうかも知れんな…たとえリフが勧誘されたとしてもお前は断りそうだしな」
冒険者ギルド、アルモニカ支部所属のC級冒険者パーティー<虹百合>は、女性だけで構成されたアルモニカでも有名な精鋭チームだ。
現在、水以外の属性持ちが6人在籍している。 リーダーは先程水使いの女奴隷を購入した近接戦が得意なメリコムだ。 他に多彩で残酷な風魔法を扱うというユリネ、 熱エネルギーでドリルを回して戦うという火槍使いのシモンが居る
リフィンが銭湯で聞いた情報なので残りのメンバーの名前は忘れてしまったが、ユリネとシモンの名前だけは聞き覚えがあったので、リフィンが良く知る人物と同一なのかグレンに聞いてみる事にした。
「…シモンとユリネの事ね、他のメンバーの名前は忘れちゃったけど」
「あぁ、お前をよく虐めていた者達だ…そんな所には入りたくないだろうと思ってな、既に名前くらいは聞いているようで感心した」
「…街の人に少しね、恨んでないかと問われたらはっきり言えないけど多分距離を置くと思う」
「そうか」
学生時代、ユリネとシモンはよくリフィンを虐めた人物で、ユリネは上級生で、シモンは同級生だ。
ユリネは学校の休憩中に良くリフィンのところにやってきて色々としでかしてくれて、シモンは授業中に、特に実戦形式の授業でリフィンを面白可笑しく虐めた人物だ。
卒業後、リフィンは出世コースに進んで黙々と仕事をこなしていっていたので、ユリネとシモンの姿や名前を聞く事も無く平和な生活を暮らしていたのだが、まさかアルモニカで冒険者をやっているとは思いもしなかったのであった。
もしバッタリどこかでユリネとシモンに遭遇すると、またあの日と同様に虐められる可能性があるのでさっさと帰るため、手短にグレンに次の依頼の事を聞いてみる事にしたのだが…
「…明日は?」
「何がだ?」
「…依頼」
「言葉が足りないんだよお前は…確かオカマがお前の為にFランク昇格の試験を用意してたな、俺は別の依頼を受けるつもりだ。」
「エルザさんに言われてたの忘れてた…」
「…用事は済んだ、じゃあな」
グレンはそう言ってスタスタと歩いて消えて行く、夕日によって赤く染まり1人寂しく背を向けて歩く姿は、先日見た地下水路から出たときと同じで彼が輝いて見えた…ような気がした。
● ● ● ● ●
リフィンはタキルとポコを連れて宿屋に帰ると、ポコは土魔法で作ったのか、粘土を両手でコネコネと練っていてそれを見たタキルは、ポコが何を作っているのかを予想していた。
『さーて、ウチは何を作っているでしょうか?』
『粘土』
『そうだけど…粘土で、何を作っているでしょう?』
『…団子』
『このつぶつぶのところまで再現してて団子って…』
『おはぎか?』
『シャリだよシャリ!』
『似た様なもんだろ、どうせその上に寿司ネタ乗っけるんだろ?』
『そうそう、マグロかサーモンか…うーん、茶色い粘土だから作ってもよく分からないかも』
『たまごなら形が見分けられるだろ』
『いいね』
ポコは握り寿司というものを粘土で作っていた。 既に粘土で作った皿まで用意しており残りはネタの部分だけだったのだが、握り寿司を知らないリフィンは理解出来ずにいた。
シャリって何?マグロって何?なリフィンはポコが作っている物は一体なんなのかと聞いてみる。
『…ポコ、何作ってるの?』
『お寿司といってね、ウチ達が居た世界の食べ物だよ! これは粘土だから食べられないけどね』
『どういう料理なの?』
『お米の上に魚介を乗っけた料理だよ、この世界にもあるのかな?』
『…お米は、かなりの高級食材、私はあんまり魚は食べないから』
『あ、お米あるんだ…魚は食べないのねー美味しいのに』
『…私だけじゃなくて、ほとんどの人は魚を食べないと思う』
『なんでだ?』
『…臭みがあって、身が少ないから、高級食材と貧民の食材を合わせるとか考えた事もなかった。』
『ほう、今度海に行ってみたいものだな…』
『魚って貧民の食材なんだ…』
『じゃあなんで米は高級なんだろうか?』
『さぁ? 実は水魔法使い達が稲に水やりしてたりして!』
『いや流石に効率悪過ぎるだろそれは、まさかな…』
この世界での価値観はやはり地球とは違うのだなと感じるタキルとポコは、次々と2匹だけで議論をしていく。
リフィンは明日の仕事の為に早めに休む事にした。




