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(水)魔法使いなんですけど  作者: ふーさん
2章 進化する水魔法
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水から氷へ

次回、バニーマン登場するかもと言ったな・・・あれは嘘だ(説明文だけだ)


うわー・・・


思ったより進まなかったでござる

『そういえばリフちゃん、このスライムには名前つけないの?』

『…まだ考え中なんだよね』


 宿屋<あけぼの亭>に戻ったリフィン達は、食堂で購入した晩ご飯のシチューを食べていた。


 アルモニカ地下水路の沈砂池で拾ったスライムにまだ名前を付けていなかったので、付けないのかとポコに言われる。 リフィンはスライムに付ける名前を考えていたのだが、コレといった名前が浮かんで来ないままであったのだが、タキルがスライムに付ける名前を閃いたのかリフィンに申告する。


『…じゃあオレが決めていいか?』

『どうしたのタキル、スライムとヌルヌルプレイして親近感湧いたの?』

『そんなんじゃねーよ…ライって名前はどうだ? スライムのライ』

『おーいいね、言いやすいし良いかも』

『ライ…ん、分かった』


「うじゅるうじゅる!」


 どうやらライも名前をつけて嬉しそうにふるふると震えている、ように見えるのはリフィン達の気のせいだろうか、スライムのライは言葉では返してくれないので表情が分かり辛いのだが、なんとなくそう感じるリフィン達であった。


『ライは念話でも言葉話せないのかー』

『らしいな、オレやポコは転生者で、ライはただのスライムだからか?』

『…流石に分からない』

『まぁまぁ、言葉が交わせなくても仲良くなれたらそれが一番だとウチは思うし良いんじゃないかな?』

『うん』

『だな…ごちそーさん』


 タキルは小食だからか、または胃が小さいだからだろうか、すぐに食事を終えた。

 リフィンとポコはまだ食事中で、それをじっと見つめている様に見えるライに、タキルはライの食事の事を聞いてみた。


『リフ、ライの食事ってどうするんだ?』

『…まず、食べるのかどうかが気になる』

『じゃあウチの分ちょっと分けてあげるねー』


 ポコは自分の分のシチューが入った平らな器をライに差し出す、しかしライはそれから逃げるようにノロノロと動いた。

ライが逃げた事で、『そういえば綺麗好きだった』とリフィンが呟く。


『このシチュー汚い物扱いなのか?』

『美味しいのに嫌な言い方やめてよね!』

『私の水魔法は吸収してたよね?』

『試してみよう』


 結局、ライはリフィンの出した水が好物だったようで、少しずつ吸収するように水を飲み込んでいった。 体積は変わらないものの僅かに色がクリアに変わっていくような、プルルンと潤いを感じる表面になったので満足してくれたのだろう。




● ● ● ● ●




「おはようございますエルザさん」

「おはようリフちゃん、今日も元気かしらぁん?」

「はい、私は元気なのですが、エルザさんの勤務時間の方が心配です…」

「うふふ、ありがとリフちゃん…ちゃんと休憩や休日は貰ってるからアタシは大丈夫よぉん! 心配してくれるなんて何年振りかしら? そういえば昨夜のワンピース姿すっごくキュートだったけど、彼へのアピールのつもりだったのかしらぁん?」

「ち、違います!」


 翌日、リフィン達はグレンに言われた通り朝から冒険者ギルドに顔を出した。 タキルはリフィンの肩に乗り、ライはポコの背中に乗っかっていた。

 ポコ曰くライはひんやりしていて気持ちいいとのこと。 尚、マントはスライムの上に覆い被さっており、他の人には見えないようにしている。

 いつもの如く受付嬢のエルザが居たので、ちゃんと休めているのか気になって聞いてみたのだがきちんと貰っているそうなので少し安心したリフィン、昨日のワンピース姿の件については予備の服がそれくらいしか無かったので否定だけしておいた。

 ギルド内を見回すと、受付とは少し離れたところにあるテーブルの椅子にグレンが腰掛けていて、リフィンはグレンを見つけると対面の椅子に腰掛ける。


「…来たか」

「…おはよう、言われたから来たけど」

「あぁ、実は一緒に受けてもらいたい依頼がある…これだ」


 グレンが差し出した依頼書の紙は、推奨ランクCの依頼で、完璧な状態のバニーマンの毛皮10枚以上の納品と書かれていた。


”バニーマン”

 人型の獣系に属する魔物で、全身白い毛で覆われており可愛い外見をしているが性格は狡猾そして凶暴。

長い耳を生やしウサギに似た外見をしている為、兎男バニーマンと呼ばれるようになった。

 雑食で年中発情しており、ゴブリンやオーク同様に異種交配が可能、1つの個体としては弱くFランクに指定されている魔物だが集団で襲われると危険度が2つ上がりDランクとなる、女性1人だけでバニーマンと遭遇したら大変危険。 即時撤退をおすすめする。

 耳が良くて危機察知能力が高く、男性が近づくと一目散に逃げて姿を隠し、女性が近づくと襲いかかってくるというなんとも下衆い事で有名な魔物だ。


「…なんでバニーマン?」

「ふん、報酬金を見てみろ…」


 守銭奴(グレン)にそう言われ報酬金の提示額をみると、昨日の地下水路の報酬金にケタを2つ付けたような多額のお金(モニー)だった。


「…高っ!?」

「俺は金で動く冒険者だからな、チャンスと成功率があればどんな依頼だってうけるさ」

「…ケタ間違えてるんじゃないの?」

「それはない…最初俺もそう思ってギルドに掛け合ってみたんだがどうやら間違いではないらしく、どうやら依頼主はこの街のワガママ令嬢だ」

「…貴族御用達(ごようたし)の素材なのは知ってるけど、いくらなんでも高すぎる気がする」

「バニーマンの毛皮は白銀に輝き手触りが良く耐水性もあり丈夫、その素材の性質はリフも知っての通り超高級品だ。 ただ貴族達が衣服を仕立てるのにここまでの金額を提示するのは、何か意図があるとは思わないか?」


 何か意図がある、グレンにそう言われ思考を回転させるリフィンだが、すぐには思い付かないのでもう一度依頼書を読んでみる。 ”完璧な状態のバニーマンの毛皮10枚以上の納品” と依頼内容はそのように書かれていてここでハッと気が付いた。


「…完璧な状態のバニーマンの毛皮」

「それをどういう意味かは、もう理解出来るな? …ワガママな令嬢が俺達冒険者に挑戦を仕掛けてきたという事だ」

「…バニーマンを傷つけずに討伐」

「半分正解だ、そこが一番の重要ポイントである………貴族がバニーマンの毛皮を使った衣類を着ているが、どんな色をしているか知っているか?」

「…白銀と、薄いピンク色」


 貴族の衣類に使われているバニーマンの毛皮は全部が白銀ではなく所々薄いピンク色をしているのだ。

 これはバニーマンを傷つけた時に傷口から流れた血が一気に身体中に広がり赤く染まってしまう為である。 バニーマンの血液は顔料以上の水や油に溶けない性質を持つため、それを何度洗い流しても白銀の色は取り戻せず、薄いピンク色に染まって落ちなくなってしまうのだ。

 では白銀の毛皮のところだけ使えばいいのではという答えが出てくるのであるが、完璧を好む貴族達は1匹丸ごとバニーマンの毛皮を使った衣類を着用したいのだそうだ。


「そう…完璧を好む貴族連中は、完璧な状態の毛皮を手に入れる為に、完璧な仕事を冒険者に求めている。 今のところ受ける冒険者が居なくてな、リフの力でなんとか達成出来そうだと思った俺は、リフに声をかけた訳だが…どうだ、出来そうか?」


 リフィンは考える。 バニーマンを傷つけずに仕留める方法を…

 火魔法では毛皮が燃え、風魔法では毛皮が引き裂かれ、土魔法では毛皮が痛み汚れ、闇魔法では毛皮を消滅させてしまう。

 水魔法ならば…バニーマンの毛皮は耐水性に優れているので問題はなく、どうにかして窒息死させる事が出来れば可能なのではと思えてしまう。

 恐らくグレンはそれに気が付きリフィンに声をかけたのかも知れない、しかし上手く仕留める保証がないのだ。

 依頼を受けたとしてそれで失敗しようものなら多額の違約金を支払わなければならない…と考えていると、タキルとポコから念話が聞こえてきた。


『リフ、傷つけずに仕留めるなら、凍らせば良いんじゃねぇか?』

『ウチも凍らせるのが一番だと思うよ!』

『…凍らすのも手だよね、でもそれはやった事無いし』

『あのな、依頼の失敗を恐れてたらこの先何も出来なくなるぞ?』

『そうそう! インプの時も思いっきり暴れ回ったんだから、今回も思いっきりやってみようよ! 出来なかったらグレンに違約金払ってもらおう!』

『…分かった、ありがとタキル、ポコ』


「…受けるよ、その依頼」

「難しい顔して悩んだかと思えば強気な目をする…それでこそ俺が認めた冒険者だ」

「…素直に私に感謝すれば良いものを」

「依頼が成功したら感謝してやる、そもそもリフだけではこの依頼は受けれないしな」

「…受ける訳が無い、普通だったら願い下げだけど、自分の実力を知るのにはいい機会」

「ふん、お前も案外素直ではないな」


 グレンとリフィンは席を立ち依頼書を持ってエルザの所に持って行くと、リフィンの身を案じてかなり心配されたが、Eランク指定のインプとも交戦出来る実力を持っているのと、推奨ランクはグレンのDよりも高いCだが失敗した場合の違約金を確実に払うという誓約書を書くとすんなり受理されてしまった。

 その後、冒険者ギルドでレンタル出来る二輪の大きな木製の荷車を借り、リフィン達はギルドを出た。


「リフ、恐らく数日間戻って来れないかもしれないから物資を多めに買い足しておく、宿に帰って着替えを持ってくるなら待つが?」

「…着替えは2着あるから大丈夫だと思う、今回は私に策があるし」

「ほぅ…そうか、期待しておこう…とりあえずそこの店で食料買ってくるからここに居てくれ」

「うん」




● ● ● ● ●




 携帯食料に縄、その他必要品を買い終えたグレンは荷物を荷車に乗せる。

「どっちが荷車を引くの?」とリフィンが聞くと、行きはリフィンが、帰りはグレンがという事になった。

 今回のターゲットであるバニーマンは縄張りをあまり広げず、基本的に冒険者の前には姿を現さないので討伐数も低い魔物だ。

 アルモニカから西に進んだところに渓流があり、そこでバニーマンが発見されるとの事なのでリフィン達はまずアルモニカの西門を出てバニーマンが出現するという渓流に足を運んだ。


『…今回はタキルとポコにバニーマンを誘き寄せて貰いたいのだけど、いいかな?』

『オレは構わないぜ…警戒心強いらしいけど、流石にオレには警戒しないだろ』

『ポコも良いよー、囮役なら出来そう!』


 アルモニカを出て数時間、まだ渓流らしい景色も見えぬまま、地平線までひたすら続く草原を眺めながらリフィン達は念話で暇を潰す。


『…全然渓流なんか見えないんだけど』

『東側にあるエルルの森が近過ぎたのかも知れんな』

『遠いねー』

『…疲れた』


 数時間も荷車を押しているのだ。 足は既に棒の様に動かなくなっており、荷車が少し大き過ぎたせいかリフィンの小さい身体では少し重過ぎたのである。

 少し息が上がっていたリフィンに「休憩だ、無理はするな」と言ってグレンがリフィンを気遣ってくれた。


「…グレン、あとどれくらいで着くの?」

「やっと半分って所だ、荷車交代するか?」

「いいの!?」

「帰りに重くなった荷車を引きたいなら…だが?」

「…やめとく」


 草原に足を伸ばして座り休憩するリフィン達、空を見上げると燦々と照りつける陽が頭上に位置していてとても眩しく、雲1つない綺麗な群青色の晴天がどこまでも続いていた。


「暑いな、流石に」

「…水いる?」

「貰おうか、こういう時に水魔法は便利で良いよな」

「…お肉焼く時、火も便利」

「火力強過ぎて生焼けになるがな…」

「調整くらいは出来るようにしないと…水生成(ウォーター)!」


 リフィンはコップを取り出して冷たい水を生成する。

そのままグレンに渡そうかと思ってコップを差し出したが1つ試したい事があったので、グレンには渡さずにコップの中の水を少し凍らせてみる事にした。


「…冷却(フリーズ)!」


 過去にどれだけやっても失敗した冷却魔法をリフィンは唱えた。

コップの中の水は見事、徐々に凍っていき、少しどころか完全な氷へと変化したのだ。


「…はい」

「いや、飲めないだろ…」


 水を氷に変化させる事が出来たリフィンは、今度は氷を水に変化させようとコップに魔力を込める。 しかしいつまで経っても氷が水に変化するイメージが掴めず、新しい魔法は閃かなかった。

 グレンに「水いる?」と聞いておいて出さないのは失礼なので、リフィンは氷を砕き別のコップに小さい氷を3〜4個入れてその上から水を注ぐ。

 ひんやりとした水がコップの外側の表面の温度を下げ、コップの回りの空気が冷えた事によって発生した水蒸気が、小さな水滴を作り出しコップの表面についていた。


「…はい」

「始めからそうしろ…」


 リフィンの手からコップを受け取ったグレンは水を少し口に含むと、静かに驚いてそのままゆっくりと水を飲み干していった。


「水なのに美味いな」

「…胃がびっくりするけどね」


 こっそり宿屋でも氷魔法を少し試していたリフィンだが、水の状態から氷に変化させる事は今回が初めてだったので少し安堵した。 今回のクエストで重要なことだったからである。

 タキル達にも水を与えリフィン自身も水を補給する。 休憩を充分に取ってから、また立ち上がり荷車を引きまだ見えぬ渓流を目指して進んだ。

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