日曜日
乙羽美織は、指名手配された。
成哉は、恭平に付き添われて警察に行き、事情を説明しに行った。
一晩、拘束されて、事情を説明させられたが、それと同時に色々わかったことがあった。
乙羽美織が、被害者の浅野と同じ職場であったこと。
殺された月曜日に、火曜日までで解雇だと告げられていたこと。
成哉は、気がついていなかったが、浅野と成哉の返り血を浴びた100均の雨ガッパと、やはり、二人の血がついた凶器のハンマーが、成哉と美織がその夜歩いた道筋沿いのゴミ箱から発見されていたこと。
更に、浅野のアパートの近隣の住人が、フラフラしながら高架下の方に、一人で歩いていた成哉を目撃していたこと。
高架下には、まだ成哉の流した血の痕跡が残っていたこと。
更に、浅野の部屋に成哉の痕跡は残っていたものの、浅野の血が飛び散ったあとの床には、浅野自身と小柄な小さな靴跡が入り乱れていたこと。
電話やメールの内容、他にも、知らされない小さな事実がいくつか発見され、成哉の行動が裏付けされ、乙羽美織が指名手配されたのだ。
美織が、自宅から、失踪した理由は、警察がきたことを恭平から聞いた成哉が、美織と出会った時のことと、そのあとの怪しい行動について、つっこんで尋ねたせいだと説明した。
それでも、記憶喪失の件と、殺人者と一緒に暮らしていたという異常事態については、十分怪しまれ、一時は、美織との共犯まで疑われたが、勿論、証拠もなく、元ルームメイトだった恭平と家族が、いったん身柄を預かることで、警察から釈放されることになった。
恭平が迎えに行くと、徹夜明けの成哉が、少し眠そうに、けれども、のんびりと警察から出てきた。
「疑いは晴れたか?」
と、恭平が笑いながら聞くと、
「いや。完璧じゃないだろう。」
と、成哉も笑う。
「まだ、記憶はもどらないのか?」
恭平が聞くと
「まったくだな。」
と、のんびり答える。
「どうする?1年前まで、お前が使っていた部屋はあいてるぞ。」
恭平が、問うと
「そうだな。しばらくは、心配してたらしいから、実家にもどらないといけないと思うけど…。」
そう言った視線の先に、タクシーから慌ただしく降りてきた家族がいた。
暖かい3月の陽ざしの中で、その家族の様相は、かなり厚手の服を着こんでいる。
「俺の実家、北海道なんだってな。」
「ああ。家族みんなで迎えに来てる。お前、いい加減な割には愛されてるな。」
その家族が成哉の姿を見つける。
「しばらくは、北海道かもしれないけど、多分、こっち来ることになるんじゃないかな。」
「そうか。部屋はどうする?」
「初対面同様の親と暮らすより、お前と一緒の方がいいかもな。」
「あんまり、待たないぞ。家賃、高いんだ。」
「おう。」
成哉の家族がホッとしたような顔をして、駆け寄ってくる。
成哉も笑顔を返しながら、フと、恭平に思いついたように質問した。
「そうだ、俺って、大学、何、専攻してたの?お前が、生物教師ってことは、理系?」
恭平は、呆れたように答えた。
「何言ってんだ?お前は美大だぞ。」
「美大?」
「生粋の自由人だったな。」
「記憶なくても、そいつは納得できる。」
成哉の家族が、成哉に飛びついた。




