金曜日 3
美織は、待ち遠しい気持ちを自覚しながら、マンションに戻った。
はたして、食卓には、美織が、昨日、大量に購入した、もも肉のから揚げが、大量に鎮座していた。
違うのは、
「おかえりなさい。」
成哉が、起きていたことだった。
この、数日、毎日、寝るだけの生活をしていた成哉は、すっかり元気になっていた。
「怪我の様子は?」
「まだ、痛いけど、だいぶ楽になってきたよ。」
「記憶は?」
「全然。」
成哉は、相変わらず呑気だった。
「病院、行ってみる?」
成哉を病院に行かせていないことは、気にはなっていた。
自費だったら、どれくらいかかるのかわからない恐れと、赤の他人に、それだけのことをしてやらなければならないのかという、常識的な葛藤があって、無理矢理行かせようとはしていない。
成哉も、無理して行こうという気配はなかったが、それは、単に、今までは、頭の怪我がきつくて、動くのが億劫だっただけかもしれない。
本来ならば、CTとったり、精神科に行ったりしないといけないのかもしれない。
身内だったら、絶対、そうする。
そうしなかったのは、成哉の得体が知れなかったからにつきる。
お金のことは、おいといて、倫理的に、病院に行かせるべきなんじゃあないだろうか?
けれども…。
それで、記憶を取り戻した時、成哉が、どう変貌するのか、それも怖い。
そう思っていると、
「ああ、別にいいよ。」
と、あっさり、成哉が言う。
美織が100考えている間に、成哉は1しか考えない。
今しか見ない成哉の判断は、直感のようなものでしかない。
行かないという判断も、次の瞬間には、あっさり行くことにもなる。
今の判断は、今のもの。
次の判断は、次の今のものなのだ。
「美味しい?」
美織が、用意していたから揚げにぱくつくのを、楽しそうに見ながら、嫁のような言い方をする。
塩と胡椒のほかに、しょうゆの味もする。
他にも調味料が入っているのかもしれないが、料理の苦手な美織には、あまりよくわからない。
けれども、人の作ってくれるご飯は、やはり美味しかった。
「成哉くんは、食べたの?」
「俺、1キロ以上食ったよ。」
身体が、本調子になり、昼ごはんも兼用だから、当然だろう。
「明日は、何がいい?俺、中華も作れるよ。」
「中華も?」
「今日、たまたまテレビつけたら、料理番組やってて、麻婆豆腐作ってたんだけど、
俺の作り方と違うなって思ったから、多分、大丈夫。」
「中華作れるんだ。」
美織は、素直に感心した。
「えびチリとかも作れる?」
成哉は、首を軽く傾げて、大丈夫だと、自信満々で言った。
「ただ、今日、酒と片栗粉、使い切っちゃったから。それと、ネギとしょうがとにんにくと、豆板醤と…。」
と、当たり前のように、材料を告げ始める。
「素は?」
「何の?」
愚問だった。
エビチリの素というか、レトルトのものや、瓶に入ったものを、材料に混ぜるんだと思っていたのだけど、成哉の頭には、その手のものは、ないらしい。
あわせ調味料も、全部、自分で作る気なのだ。
自分の食生活が、いかに貧困であったのか、今更ながら、気が付いた。
「材料、俺が、買いに行こうか?」
成哉が、美織の顔を覗き込む。
もちろん、それは助かるが…。
「…。」
美織が、黙っていると、成哉が笑って言った。
「明日、一緒に買い出しに行こうよ。」
「そうね。」
美織は、うなづいた。




