朝食
――― …どれ程の人たちが、オレの事を知っているのだろう… ―――
エカチェリーナとの話を終え、地下の寝室から一階に上がってくると、テーブルの前にはリサがすでに座っていた。
「おはよう、リサ。」
「おはようございます、風牙様。」
「昨日は疲れたんじゃないか? 」
「ええ…、さすがに… 。
でも何とか『今後どうしていくか? 』という方針は決まりましたよ。」
「そっか、お疲れ様。」
そんな会話をリサとしているのだが、何やら後ろの方が騒がしい… 。ふとキッチンを見ると、ミウと一緒にオレの知らない女の子達が『あーでもないこーでもない』と言いながら朝食を作っていた。
「そう言えば、フーガ様は初めてでしたわね。
あの子たちがミウの眷属、『カノン』と『カレン』ですよ。」
初めてみる少女たちの顔に戸惑っていたオレにエカチェリーナは教えてくれた。「カノン」? 「カレン」? なるほど… 、さっきエカチェリーナが話してくれた双子の姉妹のことか… 。
「おっはよー! 風牙くん! よく眠れた? 」
ミウはリサとは違って朝から元気いっぱいだった。
「おはよう、ミウ。昨日はゆっくりさせてもらったよ、ありがとう。
で、その子たちは? 」
エカチェリーナがさっきオレに教えてくれた所だが、一応、聞いてみた。
「あの…申し遅れました… 。
はじめまして。私はカノンと申します。よろしくお願い致します。」
凄く大人しそうで、真面目っぽい女の子は小さな声で自己紹介をしてくれた。
「カノン! 声ちっちゃいよ~! もっと元気に行こ~!!
あ! はじめまして~! 私はカレン!
カノンの双子の姉で~っす!
あなたがミウのお父さんだねっ! よろしく! 」
妹とは真逆で凄く元気が良く「じゃじゃ馬」っぽい感じがする女の子だった。
「ああ、よろしく。オレの名前は風牙だ。」
双子と言ってもあまりにも対照的だな、おい! 足して二で割ると丁度いいんじゃないか? とオレは思った。
「風牙くん! あと少しで朝食できるから、もうちょっと待っててね! 」
「申し訳ございません… あと少しでできると思いますので… もう暫くお待ちください… 」
「ほんと! あとちょっとできるから! ごめんね! 」
カレンが私に任せとけと言わんばかり先頭に立って料理を作るものの、ミウが作り方が間違っていると指摘している。冗談っぽく軽い口喧嘩になっている二人の間でカノンが、オロオロしながら仲裁をする。そんな繰り返しが続いた。
しばらくすると、ようやくテーブルに朝食が並べられた。調味料が違うとか、分量が違うとかいろいろ聞こえていたが、見た目は美味そうだ。てか… 、それにしても凄い量だな、おい… 。十人前位ありそうなんですけど… 、こんなに食べれるのか?? 朝食の量に驚いているオレの様子を見てミウが言った。
「カレンはたくさん食べるからねー! 」
いやいやミウさん… 、たくさん食べるって言ってもこの量はないんじゃないかな… 。
「そりゃそうだよ! 腹が減っては戦はできぬ! って聞いたことあるしな! 」
これ全部食べる気満々だな… 。
「その… 何か… 、作り過ぎてごめんなさい… 」
カノンがオレたちに謝った。
「大丈夫だよ、気にしなくていいと思うよ。」
オレはカノンにそう言った。それにしても、カレンは放っておいても生きていけそうなそうな性格だが、カノンは本当に大丈夫か?? 気が弱過ぎるようにオレは思えた。
「ヨーコ、みんなが揃うのは久しぶりなんですし、一緒に朝食にしませんか? 」
エカチェリーナはミウに向かって言った。すると、ミウの帽子が独りでに宙に浮きオレの前まで来た。何が起こっているんだ?? と思っているとその帽子が突然人の姿になって現れた。何となく気品のある可愛らしい女性だった。
「フーガ、久しぶりじゃのぅ! 」
そう言うと彼女はいきなりオレに口づけをしてきた。
マジかぁああ!! この世界に来てから、ほとんど間もないのに超モテモテじゃねーかぁああ! と、オレが気楽に喜んでいると…
「っ !!! ヨーコ! どういうつもりですか! 」
エカチェリーナがキレていた… 。やっぱりそうなりますよね… 、デジャヴか???
「まぁ、そう怒るでない… 、妾を朝食に誘ったのはお主じゃぞ。」
「朝食には誘ったが、フーガ様に口づけをして良いとは一言も言っておらぬ! 」
「相変わらず短期な主じゃのう… 。
お主の命で三百年近くも帽子の姿でいたのじゃぞ。
さすがの妾でもマギアウラの補給は必要じゃからのぅ。
そこで一番手っ取り早くマギアウラを補給できる手段を採ったまでじゃ。
妾にとっては朝食も同然、そう目くじらを立てるでない。」
「あ! ヨーコさんだ! 久しぶりー! 」
ミウが嬉しそうに彼女に近寄ってきた。カノンとカレンも彼女に対して会釈をしているところを見ると、どうやら彼女の存在を知っていたようだ。
「ミウよ、久しぶりと言われても、妾はいつもお主の頭の上にいたのじゃがなぁ… 。
じゃが、この姿を見せたのは確かに久しぶりかもしれぬのぅ。」
ヨーコが現れたことに喜んでいるミウの姿を見て、どうやらエカチェリーナは怒りを鎮めたようだ。
「あ、あの~… 、ヨーコさんでしたっけ… 。
久しぶりと言っていましたけど、やっぱりオレの事知ってるんですか? 」
「もちろんじゃとも。
お主が記憶を無くしていることもちゃんとわかっておるぞ。
なかなか大変な事に巻き込まれておるようじゃな。
お主も可哀想じゃのぉ… 」
オレはこの世界に来て初めて良き理解者ができたような気がした… 。
「それはそうと… 、ヨーコ。
あなたにもこれからの計画に参加して頂きます。」
エカチェリーナは少し不機嫌そうにヨーコに言った。
「何年経っても人使いの荒い主じゃな、まったく。
まぁお主に言われなくとも妾はミウとフーガの力になるつもりじゃ。」
「あの… 、ヨーコさんってエカチェリーナの事を主と言っていますが…
どういう関係なんですか? 」
オレの素朴な疑問にヨーコではなく、エカチェリーナが答えた。
「ヨーコは私の部下ですわ。
ただ、本人は未だにそうは思っていないみたいですけれど。」
「当たり前じゃ… 。
誰が好き好んでお主の部下などにならねばならん。
じゃが、契約を交わしてしまった以上、主の命には逆らえんから仕方なしに従っているだけじゃ。」
「ひょっとして、エカチェリーナがミウに同行させていた部下ってヨーコさんの事ですか? 」
「ええ、彼女は私の命令には絶対逆らうことができませんし、力も私と同等… 。
もしかすると私以上かも知れません… 。
それに、ヨーコはミウのことを我が子のように可愛がってくれていますから安心できます。」
「ま、そういうわけじゃ。
主よりもミウの為に働いていると言ってもよいかもしれぬ。
何せ、ミウはフーガの血を引いているからのぉ。
それよりも… 、どうじゃ、フーガ、妾と子を作らぬか? 」
「ヨーコ!!
冗談もいい加減にしないと本気で怒りますわよ!! 」
エカチェリーナは再びブチギレモードだ… やばい… 。
「妾は至って本気じゃ。
なんなら契約を破棄して、再びお主と一戦交えても良いのじゃぞ。」
そう言ったヨーコの目は非常に鋭く恐怖さえ感じてしまうほどだった。
「あらまぁ、醜い争いはお止めになって頂けないかしら。
本当に年寄りって嫌ですわねぇ。」
「年寄り… だと(じゃと)? 」
エカチェリーナとヨーコは同時にそう言ってリサ、いや… ミネルヴァだな… を睨みつけた。
「本当の事を申し上げたまでですわ。
それにフーガ様は私のリサと結ばれるのです。
色気づいた年増女や女狐など敵ではありませんわ。」
「ミネルヴァ… 貴様今なんと言った? 」
「ほう… 妾を女狐呼ばわりするか… 」
ちょっと待ってくれー!! もてもてハーレム状態は嬉しいんだけど、絶対何かが違~っう!! この異常なまでの殺気……おかしいよね! とても朝食のワンシーンじゃないですよね!!
「まぁまぁ、みんな落ち着こうよ、ね、ね!
ミウたちも怯えちゃってるしさ… 」
ミウ、カノン、カレンの三人は椅子に座ったまま目を合わせないように下を向いて小さくなっていた。エカチェリーナとヨーコは、ミウたちの姿を見てしぶしぶ落ち着きを取り戻したようだ。火に油を注いだミネルヴァは元々相手にしていなかったようで平然としている。てか、おそらくリサは疲れ過ぎて眠りに入ったんだろうな… 。
「と、とにかく… 、せっかくみんな集まったんだし… みんなで朝食にしようよ、ね! 」
なんでオレがまとめなきゃならないんだ?? そう思いつつも何とかこの場を鎮めることに成功した。その日の朝食は味がしなかった。精神的なものなのか? それともカレンが作り方を間違ったのか? 原因は定かではない。
とりあえず、オレには強力な仲間たちがいることがわかった。