彼女たちの戦い
シディア連邦、首都ハイドラッドの中心部にそびえ立つ塔の最上階、オレは全く想像もしていなかった光景を目の当たりにしていた。驚きの余りに立ち尽くしていたオレの左手をヨーコは黙って握ってきた。
「これが私の正体です。
少しは驚いてくれましたか? 一条風牙。」
背中に金の十字架が施されている白いマント姿の男の背後から聞こえる声に、オレは何かを思い出しそうになっていた。
~カレン・カノンSide~
「これでやっと片付いたか~! 」
コウモリの様な羽を背中から生やした少女は、同じような姿をした双子であろう少女に話かけた。
「そうだね… 、やっと終わったみたい。
それにしても悲惨な光景だね… 」
問いかけに答えたもう一人の少女が言う通り、彼女たちの周りは死体の山となっていた。彼女たち以外に生きている者は誰もいない。双子が両手に持っている短剣からは血が滴り、彼女たち自身も大量の返り血を浴びていた為、その服は赤色に染まっている。平常時なら彼女たちの行動は正気の沙汰ではない。
「仕方ないよ、カノン。
これが戦争なんだから… 」
「うん… 、わかってるよ、お姉ちゃん… 。
風牙様が来て、しばらく平和に過ごしていたから、つい… 。
この感じ… 、三百年振りかな… 」
そう会話をしていた少女たちの背中からはコウモリの様な羽は消えていた。
「でも、これで終わりじゃないんだよ、カノン!
優奈様やユリアナさんたちの応援に行かなきゃ! 」
「そうだね、お姉ちゃん。」
双子の背中からは再びコウモリの様な羽が現れ、彼女たちの仲間が待つであろう場所へ飛んで行った。
~ユリアナ・シャーロットSide~
青い鎧の部隊は方陣を組んでいた。その中心では指揮官であろう負傷した女が部隊に指示を出している。彼女の右足には止血しているであろう布が赤く染まっていた。どうやらその場から動くことができないようである。その方陣の周りを白い鎧の部隊が取り囲み攻撃を仕掛けている。
「前列、後列は防御に徹しろ!
第二列は魔法、弓矢を交互に使いこのまま攻撃を継続! 」
「お言葉ですがユリアナ様… 。
もう我が部隊の残りの矢はほとんど無く、魔術師部隊のマギアウラも限界かと… 」
部隊長であろう男は、指揮官の女にそう告げる。
「くっ… 、ここまでか… 。
……… 、
第二列は最後まで攻撃を!
現状の攻撃手段が無くなり次第、全部隊で突撃を開始する!
全てはミッドガルドの為に! 」
「ユリアナ様… 」
青の部隊は、指揮官の気丈な振る舞いに心を打たれているようであり、彼らの目には決意が満ちていた。
「ユリアナー! 無事かぁ! 」
方陣を組んでいた部隊が陣形を変えようとしていたまさにその時、一人の女が現れ、鬼神のごとき強さで白の部隊を倒していく。
「シャーロット!! 」
指揮官はその女に自分の無事を知らせるかのように叫んだ。
「無事で良かった!
ユリアナたちはその陣形を保ったままでじっとしていろ。
ここは我々に任せてくれ! 」
突然現れた女はそう言うと、巧みな剣さばきと異常な強さで白の部隊を一人で倒していく。しばらくすると、彼女の部隊であろう騎馬隊、さらに遅れて剣士たちが加わった。それらの部隊は全員女性で構成されているにも関わらず、圧倒的な強さで白の部隊を壊滅させた。
「ユリアナ!
その傷! 大丈夫なのか! 」
「ええ、私の傷なんて大した事ないです。
それよりも、フーガ様たちは無事にハイドラッドまで辿り着けたのでしょうか? 」
「きっと大丈夫だ。
私たちの主はミッドガルドの皇帝、『伝説の魔人』なのだから。」
~優奈Side~
『ミッドガルド』と『シディア』の国境とも呼べる大きな河『ゴッドバリア』の上空では白いマントの男と巫女の戦いが繰り広げられていた。マントの男は遠距離から巫女に向かって攻撃を仕掛ける。男の手のひらからは火炎放射器の様な炎や、岩をも真っ二つにしてしまいそうな水圧の水を放つ。巫女はその攻撃を躱したり、持っている薙刀で払ったりしてなんとか接近戦に持ち込もうとしていた。そんな戦いの中で、巫女は何度か男に接近して攻撃を仕掛けたのだが全く効果が無い。男の杖に阻まれることもあったが、体に命中しても男を倒すことができないでいたのだ。
「この勝負、結果は火を見るより明らか。
もう諦めて死んで下さい、お嬢さん。」
「確かにね。
もう結果がわかっちゃった。
でも、死ぬのは嫌。」
「往生際が悪いですね… 。
それにしても、結果がわかってしまって気が抜けたのですか?
喋り方に緊張感が全く感じられませんよ。
可哀想に… 。
邪神を拝めるからそうなるのです。
余りにも憐れなので、私の全力を持って葬って差し上げます、覚悟して下さい。」
「覚悟するのは君の方だよ。
優奈、君の正体わかっちゃったから。」
「私の正体? 」
「そう。
君、私の薙刀での攻撃を受けても全くダメージが無いのに、遠距離からの攻撃は必ず避けてるよね。
で、優奈は思ったんだ。
物理攻撃が全く効かなくて、雷を嫌がるモノって何かな? ってね。」
「……… 、
私の正体などわかるはずがない。
万が一、わかったとしても、お嬢さんの実力じゃどうすることもできませんよ。」
「そう思っちゃうよね?
だって、優奈本気出してないもん。」
「本当に頭がおかしくなってしまったのですか?
シディア七聖者である私とここまで戦えただけで十分過ぎる程強いと思いますが… 。
それが本気ではなかったと?
それなら、どういう理由で本気を出さなかったのか聞いておきたいですね。」
「理由?
だって君に物理攻撃が効かないのは一年以上前にわかってるんだよ。
だから、その正体を探る為に一年近くも情報集めをしたけど、何の手がかりも得られなかったんだよね。
そんな君とせっかく戦えるんだから、正体を探ろうとしてもおかしくないでしょ? 」
「で、私の正体は? 」
「君を倒してから確認してみるよ。」
「だから、それが無理なんですよ、お嬢さん! 」
男はそう言うと攻撃態勢に入った。かなりの力を貯め込んでいる様子だ。
「ねぇ、君。
『雷撃の巫女』って知ってる?
それって優奈の事なんだよね。」
「雷撃… の巫女… だ… と… 。
そんなバカな! 」
男は巫女の言葉を振り払うかのように火と水の攻撃を同時に放つ。今までの戦いでは見せなかった大きさの遠距離攻撃だ。だが、その攻撃は巫女の体を螺旋状に取り巻く雷によって阻まれる。巫女は片手を天に翳すと男に向けてそれを放つ。閃光が走ったかと思うと男は空中から地上に落下して行った。地に落ちていく姿を見届けた巫女はゆっくりとその男の元へ向かって行った。




