72話
遅くなってしまいました。
申し訳有りません。
狩りを終えて街に戻る。
帰りの道すがら糸玉の数とステータスを確認する。
蜘蛛の糸玉が七十七個、Lvアップは残念ながら無かった。
一撃で倒せるモンスターのLv帯を選んでる為、Lvの上がりは良くないのは仕方がない。
「明日は休みにするから、明後日からは熊に移行した方が良いか……」
ハウリング・ベアの皮を集めて持ち込むのも良いだろう。
経験値を稼げて、貨幣も稼げて、装備費を抑えられる。
「シルクが足りるなら」と言う条件は付くが、妥当なプランだろう。
「そう言えばこっちでの染料ってどんな物が有るんだろう?」
布を染める染料の知識は無い。
遠い記憶の中に紫陽花で何かした様な気もするが、詳細には覚えていない。
ましてや、中世欧州の染料やこの世界の染料など知る由もない。
少し楽しみに思う自分が居る。
可能なら聞いてみよう、知らぬ事を知るのは快楽なのだから。
どうせ作業を見ても、何も見えていないのと同じ事に成るのだが……。
視界に石壁の筈の城壁と城門を捉えて嘆息する。
「本来、こう言う城壁の石の積み重ねも壮観なのだろうがなぁ……」
残念とも無念ともつかない深い溜息を吐き出して呟く。
道から外れて城壁に近寄り指で触れてみる。
陽に照らされた石は微かに冷ややかでザラザラとした感触をしていた。
少しだけ満足感を感じて城門を潜る。
城門からまっすぐ被服店に向かう。
十数分歩いて目当ての店のドアを開ける。
「いらっしゃいませ、買い取りですか?」
店員の声に迎えられ、店員の居るカウンターに進む。
武装した男が一人で来たのだから、ドロップの買い取りだと思うのは当然だ。
「いや、明日女性を二人伴ってオーダーに来るつもりなのだが、このフィルムスパイダーの糸玉で作って貰えるか、の確認をしたい」
カウンターの上にインベントリから大量の糸玉を出す。
「凄い量ですね…はい、一度煮て、紡いで、染めて、織って、裁断して、縫って……、七日程掛かりますが宜しいでしょうか?それとも既に生地にしたシルクもご用意が有りますが……」
「一着に付き七日掛かるのだろうか?」
「いえ、今日はもう工房を閉じてしまったので、明日からですが、二着三着でしたら八日後にはお渡し出来ます」
「既に出来た生地の在庫次第か、代金としてはどうなるだろう?」
「そうですね、こちらの糸玉を使いますので、原材料分を差し引いて……。ワンピース一着銀貨2枚でどうでしょうか?在庫を使う場合は糸玉の買い取り差額分等と成ります」
「染め色は女性陣の好みだから、明日じゃないと決めれない、か」
カウンターに並べた糸玉をインベントリに回収して、礼を言って被服店を後にする。
糸の持ち込みより既に有る布を使う方が早いのは朗報か。
実際、持ち込みとどちらが高く付くか不明だ。
こう言う既製品の無い分野だと「ほらこっちが早いでしょ?だから高いんですよ」とも、「意向に沿ったからこの値段なんですよ」とどちらでも言えてしまう。
恐らくどっちでも多少は吹っかけて来るとは思う。
財布を男が握っての、婦人服の買い物でボられるのは不可避な気がする。
そんな気がするのは俺の根性が捻くれてるからだろうか?
空を仰ぐと濃い紫色と微かに赤みを帯びた紫色のグラデーションが見える。
早過ぎず遅過ぎない、丁度良い時間かも知れない。
歩きながらシルクの使い道を考える。
自分の服も考えなければ成らないが、どんな服を仕立てるべきだろう?
二人にも相談しなければだが、シルクでシャツでも作ろうか。
シャツと言っても、Yシャツの類ではなくチュニックみたいなフワッとした物だが。
明日は休日に充てるつもりで居るが、良く考えるとラフな格好と言うのか、力を抜いた休日にどんな服を着れば良いのかが分からない。
周りの服装も良く分からないから判断材料が足りな過ぎる。
これも二人に相談しよう。
なんだか、明日は服関係で大量に買い物をする事に成りそうだ。
いやいや、まさか終日連れまわされて荷物持ちをさせられたりは……無いよな?
あの「女性の買い物地獄」に付き合う羽目に成るのか?恋人でも無いのに?
無いだろう、あんなのはお洒落に命を掛けれる平和で豊かな時代特有だろう、多分。
若干不安に成るが、考えても仕方がない。
妙に歩くペースが落ちてるのは気のせいだろう、多分、きっと。
娼館に到着する頃には、頭上は濃紺と紫を混ぜた様な深い色に成っている。
街灯も無い街の道愛は一気に人通りも減り、物寂しくなる。
各店や宿の零れる灯りだけが光源となる道は硬質な靴音を響かせる。
通い慣れた店と言うか宿が視界に入ってくる。
ドアを押し開いて宿に入ると、目に優しい感じのランプか蝋燭の灯りが揺れている。
「いらっしゃいませ、リュート様」
俺の姿を確認したらしい声が聞こえる。
店内を見回すとエミリーとアンの名前を確認する。
二人が居る階段付近に進むと、通り過ぎたテーブルから囁き声が聞こえた。
「おい、あれが……」
あれとはどれだ?察するに今声を上げたテーブルの二人はハンターで、俺の不本意な二つ名を耳にした連中らしい。
一つ溜息を漏らすと、バックラーと剣帯から下げた剣をインベントリに仕舞う。
「エミリー、アン、ただいま」
気恥ずかしい感じも有るが、定宿として払った日数の間はこちら側もロールプレイをしても構わないだろう。
そうロールプレイだ、ただの。
「「おかえりなさいませ、リュート様」」
二人からの歓迎だが、妙にエミリーの声が弾んでいた気がする。
ご機嫌なのは良い事だと考えていると、両側から二人に腕を取られる。
いつもの部屋に案内されて、ソファーを勧められる。
二人が手を放すと、ブレストプレートの金具を外してインベントリに収める。
体に掛かっていた鎧や剣の重みから解放されて一息吐く。
勧められたソファーに腰掛けると二人も両側に座って撓垂れ掛ってくる。
「どうした?今日は二人ともくっ付きたがるな?」
不思議と言うより、輪を掛けて距離が近い二人に質問をする。
「昨日の、今朝の流れでその質問をしてくるリュート様の方が変です」
拗ねた様な、呆れた様な声でアンが答える。
まあ、身請け話からの将来の話をした夜に不審そうにされたら怒るか。
感覚としては肩代わりしてワイナリーの利益から返して貰う、位の感覚なのだが。
言うとまた般若に囲まれそうだから、言わないでおこう。
見えても、見えなくても怖い物は怖い。
むしろ、見えないのに般若の面がリアルに幻視出来る方がヤバい……。
「でも、ドット絵」




