70話
アンの最後の嬌声を聞きながら力を抜く。
胡坐の上に座り息を乱すアンを抱きしめながら考える。
なんと言うか、朝から女性の怖さと言う冷や水を顔面に掛けられた気分だ。
柔らかくて幸せな気持ちには成るのだが、気分を損ねると奈落に落ちそうな気持にも成る。
俺もアンも息が整ったのと確認する。
さて、そろそろ打ち合わせをしてしまおう。
ぬるりと身を離す瞬間にアンが小さな声を上げる。
「エミリー、アン、話せるか?」
「はい、でも、先にお着替えしたしませんか?アン窓を開けて」
エミリーは返事をするとアンに指示出しをする。
アンが窓を開けると陽の光が部屋の中に差し込む。
視界が開けて煩わしいドットの風景に変わるが、二人は俺の表情を見たいだろうし仕方がない。
三人揃って浴室に向かい顔を洗い、濡らした手拭いで汗を拭く。
歯を磨いてトイレを済ませる。
浴室を出てソファーに腰掛けながら鎧下に袖を通しブーツを履く。
エミリーもアンもササッと着替えて隣に座る。
「先ず前提としてエミリーとアン、アンの妹を身請けする、これは確定だ。ただ、前金で十日分支払ってるから、数日先には成るが」
「はい、分かりました」
「リュート様、身請けされた後、私達はどうしたら良いのでしょう?」
エミリーの明快な返事とアンからの質問が返ってくる。
「前に甘いワインの話をしたのは覚えているか?」
「はい、覚えています」
「そのワインの作り方が葡萄の房を凍らせて果汁を濃くした物から作るんだ。そこで二人、もしくは三人には氷の魔法を習得してもらう」
「えっと、私達がハンターに成ると言う事でしょうか?」
「ああ、自衛力も身に付くし、極端な話ワイナリーはワインが売れるまで収入が無い部分を穴埋めする術も必要になる」
「リュート様、モンスターと戦わないと駄目ですか?」
「駄目とは言わない、ただ昨日襲われた身としては、な……」
「やってみます……」
アンは不安そうだ、当然だとは思うが他者の悪意がいつ牙を向くか分からないのだ。
多分、アンは自身の不安だけじゃなく妹の身も心配しているのだろう。
妹が何歳なのか分からないが、無理はさせないでおこう。
「カヴァーもフォローもする、誰にも害されない準備と思って頼む」
頭を下げて二人に頼み込む。
「リュート様! リュート様が頭を下げる事では有りませんっ!」
「リュート様、私頑張ります……」
俺を止めるのはエミリーで、頑張る事を受け入れたのはアンか。
実際、俺自身がストレスと感じる戦闘を強要している事に罪悪感が湧いてくる。
「ただ、二人ともあの支配人にも身請けの話はしないで欲しい。下手に理屈を考えられて金額を上げられても不愉快だからね」
対人関係では油断してはいけない、と気を引き締めて二人にも促す。
「「はい、分かりました」」
「それと二人の借金の額を教えて欲しい」
「私は金貨16枚です、少しは減らしたのですが」
「私は18枚です、妹は多分15枚だと思います」
「うん、金額的には即金で大丈夫だな、でも金額がバラバラなのはなんでだ?」
不思議に思い二人に尋ねる。
「それは金貨15枚で売られて、客を取るまでの間に借金が嵩むからです……」
「数年は下働きをさせられて、食費を引かれる訳か……」
下働きの給金が食費を下回る物か?
余程良い物を喰わせて貰っているのか?
確かに、ガリガリで客を取らせる筈は無いが。
細かな搾取は有るのだろう。
不快では有るが、言っても始まらないか。
「今日シルクを集めてくるから、明日皆で服を作りに行こう」
「あの、リュート様…身請けして頂くのに、高価な服まで作っていただく訳には……」
「エミリーの言いたい事も分かるが、防刃性の有るシルクは重宝するさ」
「それって普通のシルクじゃないって事ですよね?」
アンが恐る恐る尋ねてくる。
「ああ、ポイズンモスのシルクとフィルムスパイダーのシルクを使う。防刃性が有る方が良いだろう?」
「リュート様ってもしかして過保護な方ですよね……」
呆れた様な声でエミリーが呟く。
「リュート様、その服は妹にも用意して頂けますか?」
「ああ、ただ、明日一緒に作る訳にはいかないから、後日には成るが」
「分かりました、ありがとうございます」
余程妹が心配なのだろう。
それに、素材の在庫が有るならワイバーンの皮膜で鎧下も作りたいと思っている。
この辺りは鎧を受け取る時に確認しよう。
Lvを上げたらこの街から離れて次の街に行く必要が出てくる。
葡萄畑を作れる場所は隣のスプリッツァーだろう。
畑と葡萄の木を買えれば良いが、駄目なら開拓する必要が有る。
それならスプリッツァーの周囲で活動出来るだけのLvに上げなければならない。
「さて、そろそろ狩りに行ってくる」
「はい、気を付けて行ってらっしゃいませ」
「いってらっしゃいませ」
一つ頷いて、二人に見送られて部屋を出る。
廊下を進んで階段に差し掛かると数人の背の低い女性が視界に入る。
ああ、下働きをしている子達か。
この中にアンの妹も居るのだろうか?
居るとしたらかなり幼いのではないか?
身長的に身体的特徴で考えると10~12歳位か?
一緒に戦闘に連れまわすのは無理かも知れないな。
魔法を習得して貰う為には必要だがどうした物か。
あれこれ考えながら横を通り過ぎる。
小さな擦れる音が聞こえた気がするが、そのまま通り過ぎる事にする。
娼館を出ると太陽の日差しに照らされる。
目が眩む様な明るさに瞼を細めて通りを歩く。
そう言えば、モンスターとの戦闘後に経験値が入るのだろうが、
パーティーと言うかグループと言うのだったか、
経験値の配分はどうなっているのだろう?
ステータスを呼び出して、共闘時の扱いの項目を確認する。
やっぱりゲームの世界なのだろうか?
眉を顰めながら溜息を深々と吐き出す。
「……でも、ドット絵」
この男、絶対に後先考えて無いよな?
キャラクターが勝手に動くのは歓迎すべきなのだろうか?
困りました(苦笑)




