69話
一時間前に閑話休題をあげています。
もしお見逃しなら、そちらもどうぞ。
落ち着いてきたのか、二人の嗚咽も弱くなる。
そのまま静かに、二人の気が済むまで泣かせておく。
この二人はどれだけ傷付き、どれだけ泣いてきたのだろう。
アンの涙が胸元を伝い、シーツを濡らす。
無言で二人の頭を撫で続けているとアンが身を離す。
「失礼しました……もう大丈夫です」
アンの声には力が有った。
腹を括ったと言うのだろうか、何かを決めたのだと分かる声だった。
「お見苦しい所をお見せしました……」
エミリーも居住まいを正して口を開く。
「なんだか揃って色々有って頭が疲れてしまったな……。休もうか? これからの事は朝、陽の光の中で
話そう」
他者の悪意に晒された俺と、俺に揺さぶられたエミリーとアン。
頭を使い過ぎて疲れてしまった。
二人もそうだろうから睡眠を提案する。
もう、朝追い立てられる事も無いのだし、ゆっくり話せば良い。
「そうですね、今夜はもう休みましょうか……」
そう言うとエミリーが燭台の灯りを消しに立ち上がる。
左右を確認して、二人の横に成るスペースを確認してから横に成る。
「うひゃっ!」
情事の後一時間近く経過した、汗で濡れたシーツが背中に触れて変な声を上げてしまう。
「リュート様? どうかしましたか?」
アンが俺の変な声に尋ねてくる。
「濡れたシーツが冷たくて……」
体を起こしてアンに説明する。
アンは答えずに俯いている。
エミリーも灯りを消さずに俯いている。
「リュート様の今の声……」
二人してクスクスと笑っている。
「リュート様でもそんな可愛い声上げる事があるんですね」
可愛いとか全力で辞めて欲しい。
二人が笑えるのは良い事だが、我ながら締まらない。
オチが着いて良かったのかも知れないが、恰好の着かない話だ。
「シーツを交換致しますね」
エミリーが部屋付きのクローゼットから白い物を取り出す。
枕を持ってベッドから降りるとアンがシーツを剥がして、エミリーがシーツを広げる。
抱えた枕を置いて改めて横に成る。
「エミリー、灯りを……」
「はい、リュート様」
フッと息を吹きかけてテーブルの燭台の火が消える。
部屋が暗くなり、安堵の闇に包まれた。
二人もベッドに入ってきて肌が触れる。
エミリーとアンがモゾモゾと動いて手を取られる。
「どうした?」
不審に思い声を掛けると無言で腕を引っ張られ枕にされる。
意図が判明し納得するも、これはまた朝には腕が痺れてる案件だ。
諦めて、されるがままにしておく。
二人の体温に眠気が襲ってくる。
睡魔に引き込まれそうになりながら脳裏に浮かぶのは自分の軽率さだ。
身請けするつもりが有った訳じゃないのに、その場の雰囲気で余計な事を口走った自覚は有る。
借りとも恩とも言える物は有るが、間違っても愛情等は無い。
愛着に近い物は有るが、身請けは行き過ぎだ。
やはりストレスと甘えなのだろう。
ウトウトとしながら唇から言葉が零れ落ちる。
「また、甘えてしまった」
何か口を動かした気がするがもう起きていられない。
髪が擦れる様な感触を最後に眠りにつく。
「……暑い……女性の体温って男より高いのかな……?」
「おはようございます、リュート様」
「おはよう、起こしてしまったか?」
寝ていると思ったエミリーが声を上げる。
寝起きの独り言で起こしてしまったか気に成って尋ねる。
「いいえ、先に起きていましたから」
「そうか、なら良かった」
そう言って力を抜くとエミリーの手が伸びてくる、下腹部に。
「おいおい、どうした?」
「今朝は私を可愛がってくださいね?」
ああ、昨日のアンとのあれ、根に持ってたのか……。
いや、女性なら当然だと思うのだが、同じ事をし返すのもどうなんだろうな?
逃げ場も無い、身動きも取れない。
こう言う女性のプライドが掛かった場面で発言権を求めると火傷するのが見えている。
大人しく、されるがまま期待に応える事にする。
「やはり、自分以外の女と満足されるのは、ね?」
荒い息を整えながら、満足げな声でエミリーが笑う。
胸元の汗を拭って遊ぶエミリーに呆れて声を上げる。
「昨日それでへそを曲げて、アンのへそを曲げさせ様とするのもどうかと思うぞ? と言うか、凄く不満
に思う起こされ方だと思うぞ? なあ、アン」
「そうですね、昨日私がした事なので強くは言えませんが、大変不満ですね」
うん、アンの声が怖い。
「リュート様? 勿論、私も可愛がってくれますよね?」
「……そうだな、今度はアンが欲しいな」
不用意な事を言えば大火傷を負いそうだ。
この二人が競う時には逆らうまい、そう心の中で決意する。
何故だろう、暗闇で何も見えない、元々ドット絵でしか見えていないのに、
二人の般若の様な笑顔が幻視出来てしまう。
でも、ドット絵。




