3話
ファンファーレを聴きながら考える。
どうやら普通の夢では無いらしい。
しかし気が付いて最初に考えた、ヴァーチャルリアリティーゲームの可能性は先ず無いし、当然、今ハマってるMMOでも無い。
最近流行りのラノベの異世界転生もまさか無いだろう。
では今体感し、感じるこの環境は何か?と考えると答えは出ない。
仕方がない、細かく検証して行こう。
触覚は有る、ダガーで肉を切り裂いた手応えは確かに有る。
嗅覚も有る、血の錆びた鉄の香りも感じる。
聴覚も有る、風に揺れて届く林の樹木の葉鳴りも聞こえる。
味覚も有る、舌に触れる空気に混じった微かな緑の味を感じる。
視覚も有る、目に映るのは色彩豊かな情景。
「でも、ドット絵!」
困った事に五感全てが働いているのに、目に映るのはゲームの世界なのだ。
「訳分からん!」
貨幣は既に手の中には無い。
インベントリに移ったらしい。
「ん? インベントリ? って事はやっぱゲーム?」
でも五感の内4つは正常なゲームってなんだ?
いや、1つでも正常じゃ無いなら現実じゃ無いだろう。
後、検証出来るのは飲み食いと第三者との接触か。
「やっぱり、お金が必要か」
検証に必要な条件を揃える所から続けよう。
「そう言えば、レベル上がった様な……」
改めてステータスを確認してみる。
守宮龍人
人族
LV2
HP95/110
MP80/90
筋力14
体力14
俊敏12
知力10
幸運10
「……何か上がってる……うん、知力幸運が上がらない所が残念、嫌味か」
地味にステータスも上がり、お金も増えて居る。
「どう考えたってゲームだろ、これ」
益々謎と混乱が深まっただけだった。
開き直って狩りに専念する事にした。
溜め息をついてるとまたBGMが変わる。
林から恐らく犬科のモンスターが唸り声を上げて襲い掛かってくる。
大型犬サイズのモンスターに初期ダガーはかなり心許ない。
が、向こうも一匹、どうにか成るはずと交わして間合いを取る。
ダガーを逆手に持ち直して油断無く構える。
このサイズなら爪より牙の対処に集中した方が無難と判断して、交わして、擦れ違い様にモンスターの頭を斬り付ける。
手応えとしてこの犬?は今の俺よりレベルが高い。
恐らく3か4だろう、簡単にはやられてくれなさそうだ。
交わして斬る、交わして斬るを繰り返す内に段々と体勢に無理が掛かって来る。
早く終らせないと追加が来たらアウトだ。
焦りと体捌きが俺の脚をもつれさせる。
その瞬間に飛び掛かって来た犬?に押し倒されてかなり不味い状態に陥った。
必死に下から手で支えて喉を食い破られない様に力を込める。
耐えるだけでは助からない、喉を噛み切られたらそのまま終わりだ。
ゲームか夢か知らないが、身の内に焦燥感が沸き起こる。
不味い、不味い、不味い。
腕に力が入る内に一瞬で決める。
駄目だったら最後と覚悟を決めて左手で犬?の喉を掴んで、右手のダガーを全力で首筋に突き入れる。
首筋から垂れる血が顔に止めどなく落ちてくる。
やがて犬?の体から力が抜けると俺の上から犬?は消え、貨幣に変わった。
ここでまたファンファーレが響く。
全身の力が抜ける。
今のは本当に際どかった。
ダメージはほぼ無いが疲労感とやはり精神的に消耗している。
一度林から離れて回復を謀ろう。
重たい身体を引きずる様に街道に戻った。
犬?の血で汚れた顔を袖で拭って地面に転がる。
喉がカラカラだ。
ここではモンスターが出る、そして命のやり取りが確かに存在する。
左手には命の力強さと、右手には命を奪った感触がハッキリと在る。
自分の手を見ながら感じた存在感を噛み締めながら俺は叫んだ。
「でも、ドット絵!」