95話
なんと言うか、呆れ半分怒り半分に支配人の顔と言うかモザイクを見て思う。
と言うか……こいつ馬鹿だろ?
三人が払ったら手数料は発生しないって何故俺の前で言うんだろう?
と言う事で、嫌がらせ込みで対応してみようか。
「エミリー、金貨18枚渡すから自分の手で16枚払ってやったら良い」
「えっと?」
「俺が払うと手数料を取られるが、エミリーが払えば差額はエミリーのお金に出来る。アン、ジュリアも同じ様に支払うと良い」
そう言ってインベントリから支配人の言う金額をエミリー達に渡す。
俺としても、こう言う態度を笑顔で容認する程人間は出来ていないし、迷惑を掛けた上に、上乗せした金額を堂々と請求されるては面白くない。
「いや、これは貯金からでは無いではありませんか!」
「ん? 俺が彼女等に感謝してお駄賃をあげて、そこから支払うのに何の問題が? それとも一切の料金以外の授受は認めないと? 貴様は俺からチップを受け取ったよな?」
「それは……、しかし……」
「良いから、さっさと、受け取れ」
怒りを露わに、一言一言を切って圧迫する。
エミリー達はテーブルに金貨を置いて後ろに下がる。
暫く沈黙していたが諦めた様に金貨を集めて袋に仕舞い無言で踵を返す。
「おいおい、まだ終わってないぞ? 次は貴様の責任で起きたトラブルについてだ」
言い負かされて、返す言葉が見付からなかったとしてその態度はどうかと思う。
そう言う態度ならこちらはもっと厳しく対応するぞ?
根本的に、俺は激怒している事にいい加減気が付け、と言いたい。
「事の発端は大体想像が付く。先客が居ると言っても傭兵達に押し切られたのだろう? 荒っぽいものな? 怖かったか?」
「はい、私にはどうする事も……」
「そうだな、そして貴様でも持て余す奴をエミリーに、女の身に押し付けた訳だな?」
「はい……」
「俺も含めた、彼女等に群がる男共の落とす金で生きている癖に、その女を盾にするとはな?」
「返す言葉もございません……」
「挙句、エミリーは殴られた訳だ。傭兵に殴られてさぞ辛かったろうな、だが貴様はさっき無言で離れようとしたな?
貴様は何か言わなければならないだろう?」
「リュート様、ご迷惑をお掛けしました」
「違うだろう? 俺は迷惑を被ったが、エミリーは危害を被ったのだぞ?」
「……エミリー、済まなかった……」
「おい、エミリーはもうこの店の娼婦では無いぞ? なんだその言い方は」
「くっ、……、エミリーさん、申し訳ありませんでした」
まあ、時系列で考えたら従業員だった時の事だが、ここは畳み掛けておくべきだろう。
「で? 貴様はエミリーに何で贖う?」
「何と言われましても……」
「ふむ、エミリーは傭兵に殴られた訳だし、俺に殴られておくか?」
そう言うとアンが俺の袖を引っ張る。
そちらを向くとアンが口を開く。
「リュート様がLv1の人を殴ったら死んじゃいますよ?」
「あ、そう言えばさっきLv31に成ったんだった」
まあ、実際死にはしないだろうが、顎は普通に砕けるだろうな。
立ったままの支配人が喉を詰まらせた様な、声に成らない声を上げている。
「実際、殴られて俺の名前も満足に言えない位腫れていたしな……」
「ちっ、治療費としてポーション代をお支払します」
「それと、前金の残りの清算も頼む、当然だよな?」
結局、前金の清算と迷惑料を合わせて金貨1枚を受け取って話を終わらせる。
支配人を追い出すと吐息を吐きながら伸びをする。
支配人が慌てて退出し、部屋の中が穏やかな沈黙で満たされた気がする。
「終わったな……」
そう言うと三人が三人共啜り泣いていた。
二、三度頷いて、出来るだけ静かに部屋を出る。
俺は俺で、最後の処理を済ませに階段を降りた。
先程乱入した部屋を覗いて、失神したままの傭兵を処理して部屋を出る。
階段を上がりながら自分の精神状態を自己分析してみるが、どう考えても異常だった。
特に緊張する訳でも怒りに身を任せるでもなく、淡々と絞める事が出来てしまう。
凶戦士のジョブの影響なのだろうか?
例えば戦闘時に冷静で居られる補正が働いている、とかか。
まあ、命のやり取りで取り乱すよりは良いのだが。
強制的に冷静にされているのか、価値観や倫理観が歪められているのかが不明なのが困る。
まあ、俺の事は良い。
三人がもう恐れる必要が無くなった事を喜ぼう。
部屋の前に到着するが中に入るのに躊躇してしまう。
幾ら見えなくても女性が泣いている所に飛び込むのは躊躇われる。
仕方なしにドアの脇に背中を預けて皆が落ち着くまで待つ事にする。
明日からの予定が大幅に変更に成った。
生活拠点をどこにするか、風呂の有る宿屋、全員の武器防具の調達、意外と忙しくなりそうだな。
いや、忙しい方が彼女達には良いのかも知れない。
話を聞く限り、思春期の頃には売られていた様だし、街育ちでも無さそうだし。
街育ちが同じ街で娼婦など出来る筈が無いからだ。
そう考えると田舎か農家の娘と考えた方が整合性は取れる。
世間知らずを身に染みて足踏みする位なら、バタバタと忙しく必要に迫られて世間を知った方が良い。
難点は俺自身が雑貨含めて物の詳細が分からない点だ。
考えてみると料理は出来ない、食料品の買い出しも出来ない、生活雑貨の知識も無い。
むしろ俺が必要な物も三人に見立てて貰わないとどうにも成らない。
戦って稼ぐしか能が無くて、それもこれからは四人で稼ぐ事に成る。
あれ?一番使えないの俺か?俺だな……。
切り売り出来るだけの知識も無いし、どうしたものか……。
明日以降を考えると深い溜息が出る。
小一時間すると部屋の中が静かに成ったのが分かる。
さて、泣き止んだか、泣き疲れて寝就いたか、かな?
もう二、三分したら覗いてみようか。
そんな事を考えているとドアが開く。
「リュート様?」
「ああ、落ち着いたか?」
そう言って顔を出したエミリーに笑い掛ける、笑えているよな?多分。
「でも、ドット絵」
PCが壊れてしまいました。
後三話は投稿予約済みなのですが、
そこからはペースががた落ちすると予想されます。
申し訳ありません。