叫ばせてくれないか?
頬を撫でる心地好い風、植物が揺れるサヤサヤとした響き。
一面緑色が広がる平原と言えば良いのだろうか?
太陽の光に包まれて、心地好さに溜め息を漏らしてしまう。
自然豊かな雰囲気に囲まれている。
取り敢えず頭の中を整理した方が良い、か……。
名前は守宮龍人、25歳、サラリーマン。
俺は今、謎な世界に居る。
何故謎なのかと言うと目の前に城が有る。
それも西洋式の城だ。
それだけなら海外旅行に行けば、まあ見れなくもないが。
旅行に出た記憶も無いし、街灯などが無く何と言うか――中世風な感じだからだ。
BGMも聞こえて来る。
何処からだ?頭の中から鳴ってる気がする。
聞き慣れないBGMが煩わしい。
そして突っ込みたい所が沢山有るが、声を大にして言いたい事が有る。
「でもドット絵!」
そう一昔前のRPGの様な風景なんだ。
ここ何処だよ、本当に。
行き交う人の顔を見る。
目は青い正方形のドット、口は赤いドットの長方形。
鼻は判らない。
髪は短いか長いかは判る。
体型の凹凸は判らない。
服はTシャツにしか見えない。
誰が誰だか判る気がしない!
何と表現したら良いかな?
7頭身、8頭身なのにド○クエ初期みたいな感じ。
つまり、人相性別不明。
いや、ドレス着てるのは確実に女性か。
なんでこう成ったか皆目見当も付かない。
確かにゲームは好きだ、MMOは大好物だ。
でもヴァーチャルリアリティーゲームはまだ開発されていないし、もし知らないだけで開発されててもドット絵にワザワザしないだろう。
まあ、要するに「謎過ぎて笑うしかない」訳なんだが。
兎に角、現状把握するしかない。
もしゲームの夢を見てるなら何かステータス画面的な物位出るだろう。
出なければゲーム風な夢だろう。
たぶん、きっと、だと良いな……。
「ステータス、ステータス画面、ステータスウィンドウ!」
取り合えず声に出してみる。
あ、出た、出るのかよ……。いや必要なんだけどさ……。
うん、正しくゲームだね。
ステータスの内容を見てみる。
守宮龍人
人族
LV1
HP100/100
MP80/80
筋力10
体力10
俊敏10
知力10
幸運10
うん、確証は無いが平凡な気がする。
下にはインベントリやら設定やらの文字も有る。
ゲームの中の夢パターンか……。
うん、取り合えず起きたら解決だろう。
なら夢は夢らしく楽しもう!
まあ、こんな事を考えられる時点で普通の夢じゃ無いんだがな。
楽しもうと考えたら辺りを観察する余裕が出てきた。
何か香ばしい匂いがする。
城門の中に屋台が見える、軽く空腹だ。
所持金や所持品を確認しよう、無一文ならモンスターを倒せばお金も手に入るはずだ。
はい、所持金無し、所持品はベルトに挟まれたダガーが一本だけ。
うん、狩りの時間だ。
一度城門をくぐって街を見て回り、それから外に出る。
うん、広いね、ってかこの城塞都市?かなりの規模だな。
結局広場から城門を出るのに20分掛かった。
何万人都市なんだか。
城門から外には街道が有って、その脇に畑が有ってしばらく行くと林が見える。
取り合えず林に行けばモンスター位出るだろう。
街道を進むと畑と林の真ん中辺りか、目の前に威嚇音を立てた鼠? が現れた。
BGMが突然緊迫感の有る物に変わる。
「よし、先ずはお前がアクティブモンスターな訳だな?」
ダガーを鞘から抜いて構えると体長10cmの鼠? が襲い掛かってくる。
飛び掛かって来る鼠? を交わして右手のダガーを一閃する。
キュピーと断末魔の悲鳴を上げて鼠は数枚の貨幣らしき物を残して消えた。
指で触ると円盤だと分かる。
赤茶けた貨幣、銅貨か?
「通貨単位が分からんから買い物は難儀だな」
分からない事は棚上げ、先ずは出来るだけ稼ぐとしようか。
アクティブモンスター、しかも初期なら問題に成らないのは分かった。
取り合えずガリガリと狩ろうか、狩り尽くす勢いで。
林に向かって歩くと鼠がわらわらと涌いてくる。
やはり夢らしく、モンスターをダガー一閃で退治とはご都合主義過ぎるな、そんな事を考えつつ気が付けば結構な数を駆除した。
多分銅貨?は一度手に触れるとインベントリに入るらしく、手の中から直ぐに消えてしまう。
インベントリから貨幣を取り出す事は可能、そして取り出した貨幣は自動では消えないらしい。
モンスターを倒してお金を稼ぐ、なかなかにファンタジーだ。
しかし、手の中の貨幣を見て思う。
四角い赤茶けた何かにしか見えん。
ハッキリ言おう。
「でも、ドット絵!」