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アルケオン 第二章 「感情の色を探して」  作者: れんP


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18/60

離さない想い、その深淵

「アルケオン 第二章 感情の色を探して」


彩葉たちの活躍から、十年――。

世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。


日本・大阪府大阪市。

その街に、一人の守護者が存在していた。


イラストから生まれた守護者――ユズ。


絵を描くことを愛する彼女は、

しかしひとつの欠落を抱えていた。


それは――

“色で感情を表現できない”こと。


どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。

色が、ただの色にしか見えないのだ。


そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。


苦しみの上位想霊――

感情体「サファリング」。


感情から生まれる存在である彼女は、

ユズの“欠落”に興味を抱く。


そしてユズもまた、

“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。


タブレット端末を手に、

二人は旅に出る。


喜び、怒り、悲しみ、愛――

さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。


これは、色を知らない守護者が、

“感情の色”を探し出す物語。


そして――

世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。

富士山のふもと。


 


ユズは、オブセッションの手を握った。


 


 


「……ちゃんと見てよね?」


 


 


その一言とともに――


 


 


世界が、沈む。


 


 


 


落ちる感覚はない。


 


 


ただ、じわじわと包み込まれるように。


 


 


 


気づけば、ユズは立っていた。


 


 


暗くもなく、明るくもない空間。


 


 


その中央には――


 


 


台座。


 


 


そして、深い色をした宝玉。


 


 


紫にも、黒にも見える、重たい光。


 


 


 


(触れてみなよ)


 


 


オブセッションの声が、すぐ近くで響く。


 


 


「……はい」


 


 


ユズは、ゆっくりと手を伸ばす。


 


 


 


触れた瞬間――


 


 


 


声が、絡みつく。


 


 


 


「富士山は山梨のものに決まってるだろ!」


 


 


 


「は?何言ってんの?静岡のほうが綺麗に見えるんだけど?」


 


 


 


「歴史的にも山梨側だ!」


 


 


 


「観光的価値なら静岡よ!」


 


 


 


 


声と声がぶつかる。


 


 


 


引かない。


 


 


譲らない。


 


 


 


「こっちの方が正しい!」


 


 


 


「いや、こっちが上だ!」


 


 


 


 


どちらも、自分の“正しさ”を手放さない。


 


 


 


(これが……)


 


 


 


ユズの胸に、重たい感覚が流れ込む。


 


 


 


“手放せない”。


 


 


 


“譲れない”。


 


 


 


“自分のものにしたい”。


 


 


 


 


それは、強い想い。


 


 


 


でも――


 


 


 


絡みつく。


 


 


 


離れない。


 


 


 


 


「絶対に認めない……!」


 


 


 


「そっちこそ間違ってる……!」


 


 


 


 


声は、だんだんと鋭くなっていく。


 


 


 


最初はただの主張だったものが、


 


 


やがて――


 


 


否定へ。


 


 


 


そして、攻撃へ。


 


 


 


 


(苦しい……)


 


 


 


胸が締め付けられる。


 


 


 


どちらも間違っていないのに、


 


 


どちらも止まらない。


 


 


 


 


(どうして……)


 


 


 


ユズは、ぎゅっと拳を握る。


 


 


 


(どうして……離せないの……)


 


 


 


 


そのとき――


 


 


 


(だって、“大事”だからでしょ)


 


 


 


オブセッションの声。


 


 


 


(好きだから)


 


 


(守りたいから)


 


 


(自分のものだって思ってるから)


 


 


 


 


(だから、離したくない)


 


 


 


 


ユズは、はっとする。


 


 


 


“執着”は――


 


 


ただの悪いものじゃない。


 


 


 


強く想うからこそ、生まれるもの。


 


 


 


でも――


 


 


 


(強すぎると……壊れる)


 


 


 


その結論に、辿り着く。


 


 


 


 


「……わかりました」


 


 


 


その言葉とともに、


 


 


空間がひび割れる。


 


 


 


そして――


 


 


 


現実へと戻った。


 


 


 


「……おかえり」


 


 


 


サファリングの声。


 


 


 


ユズは、ゆっくりと息を吐いた。


 


 


 


「……すごく、重かったです……」


 


 


 


オブセッションが、じっと見つめてくる。


 


 


 


「で?どうだった?」


 


 


 


試すような視線。


 


 


 


ユズは、しっかりと答える。


 


 


 


「大事に思う気持ちが……強すぎると、絡まって離れなくなる……そんな感じがしました」


 


 


 


一瞬の沈黙。


 


 


 


そして――


 


 


 


「……ふーん」


 


 


 


オブセッションは、少しだけ口元を上げた。


 


 


 


「ちゃんと見えてんじゃん」


 


 


 


 


ユズはタブレット端末を取り出す。


 


 


 


「……描きます」


 


 


 


指が、ゆっくりと動き出す。


 


 


 


重たい線。


 


 


 


絡み合うような軌跡。


 


 


 


背景には、深い紫と黒。


 


 


 


渦を巻くように、中心へと引き寄せられる色。


 


 


 


その中に――


 


 


一人の少女。


 


 


 


整った姿。


 


 


 


けれど、その周囲には見えない糸のようなもの。


 


 


 


すべてを繋ぎ、縛り、離さない。


 


 


 


それが――


 


 


“オブセッション”。


 


 


 


しばらくして。


 


 


 


「……できました」


 


 


 


オブセッションが覗き込む。


 


 


 


「……へぇ」


 


 


 


じっと見つめる。


 


 


 


長い沈黙。


 


 


 


 


「……いいじゃん」


 


 


 


ぽつりと呟く。


 


 


 


「ちゃんと“しつこい感じ”出てる」


 


 


 


「ありがとうございます」


 


 


 


ユズが微笑む。


 


 


 


そのとき――


 


 


 


オブセッションが、ぐっと顔を近づけた。


 


 


 


「ねぇ」


 


 


 


「……はい?」


 


 


 


「アンタ、ちょっと気に入ったかも」


 


 


 


 


ユズは目を丸くする。


 


 


 


「えっ……」


 


 


 


「ちゃんと見れるし、ちゃんと感じるし……」


 


 


 


「……いいね」


 


 


 


にやっと笑う。


 


 


 


「しばらく追いかけよっかな」


 


 


 


「えぇ!?」


 


 


 


ユズが思わず声を上げる。


 


 


 


サファリングが静かに口を開く。


 


 


 


「……やめて」


 


 


 


「えー、なんで?」


 


 


 


「……めんどくさい」


 


 


 


「ひど」


 


 


 


軽く笑うオブセッション。


 


 


 


「まぁいいや。また気が向いたら行く」


 


 


 


 


三人は山を下り、駅前へと戻ってきた。


 


 


 


人の行き交う場所。


 


 


 


現実のざわめき。


 


 


 


 


「……次、行こう」


 


 


 


サファリングが言う。


 


 


 


「次はどこですか?」


 


 


 


ユズが尋ねる。


 


 


 


サファリングは、短く答えた。


 


 


 


「……神奈川」


 


 


 


 


新たな地。


 


 


新たな感情。


 


 


 


ユズは、小さく頷く。


 


 


 


「はい」


 


 


 


こうして、旅は続く。


 


 


 


絡みつく想いを越えた先へ――。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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