表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男装の荷物持ちが実が聖女でした~戻って来いと言われても帝国騎士団長のお膝元にいるのが忙しくて無理です~  作者: 早乙女姫織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/16

荷物持ち、見捨てられる

薄曇りの朝、森の奥にある古びた遺跡は、冷たい気配をまとって静かに沈んでいた。

その入口で、ひとりの“荷物持ち”が黙々と縄を結び直している。

痩せた指先は慣れた動きで、余計な音ひとつ立てない。

彼女──いや、周囲の誰もが“彼”だと思い込んでいるその人物は、フードを深くかぶり、表情を隠していた。


パーティーの戦士が舌打ちしながら言う。


「おい、荷物持ち。もっと手早くしろよ。男のくせに非力なんだよ、お前は」


返事はない。

主人公はただ、静かに頷いたように見えるだけだった。

魔法使いが鼻で笑う。


「ほんと、なんで連れてきてるんだっけ? 戦闘じゃ役に立たないし、荷物も重そうに持つし。足手まといじゃない」


「まあまあ。せめて荷物くらいは持ってもらわないとね」


僧侶が軽く笑いながら言うが、その目に温かさはない。

私は何も言わない。


言葉を返す必要も、価値も感じていなかった。

ただ、彼らの背にそっと視線を落とす。

その瞬間、空気がわずかに揺れた。


気づく者はいない。

周囲に、淡い光が生まれては消え、パーティー全員へと染み込むように広がっていく。

筋力が増し、反応速度が上がり、魔力の巡りが滑らかになる。

幸運すら、彼らの肩にそっと降り積もる。

それは、無意識に発動させている**強力な加護バフ**だった。

だが、誰も知らない。


彼女自身すら、その力の正体を理解していない。


「よし、行くぞ! 今日こそこの遺跡の主を倒してやる!」


戦士が胸を張って進み出る。

その背中は、主人公の加護によって軽く押されていることに気づきもしない。

私は静かに荷物を背負い直し、誰よりも遅れて歩き出した。

その足取りは弱々しく見えるが、彼女の存在こそが、このパーティーの“強さ”の源だった。

そして、この日を境に──

彼らは初めて、主人公のいない戦いを経験することになる。

その意味を、まだ誰も知らなかった。


遺跡の奥へ進むにつれ、空気は重く湿り、魔物の気配が濃くなっていった。

パーティーは緊張しながらも、いつも通りの調子で敵を倒していく。主人公の加護が、彼らの動きを自然に整えていた。

だが、深部に差しかかったとき、突然、床が沈むような音が響いた。


「……っ、罠か!」


石畳が崩れ、主人公の足元だけが大きく落ち込んだ。

荷物の重さに引かれ、彼女の身体はそのまま暗い穴へと滑り落ちる。


「……!」


声にならない息が漏れたが、助けを求める叫びは上がらない。

私はいつも通り、静かに手を伸ばしただけだった。

だが──


「うわ、危なっ……! おい、荷物持ちが落ちたぞ」

戦士が覗き込むが、その顔に焦りはない。

魔法使いが肩をすくめる。


「どうする? 引き上げる? でもロープもったいなくない?」


僧侶がため息をついた。


「戻って助ける時間が惜しいよ。ボスまであと少しなんだから」


戦士はしばらく考えるふりをしたが、すぐに面倒くさそうに言った。


「……まあ、いいだろ。荷物は重いだけだし、戦力にもならねぇしな」


魔法使いが笑う。


「むしろ軽くなって助かるよね。あいつ、男のくせに非力だし」


僧侶も同意するように頷いた。


「帰り道で余裕があったら拾えばいいんじゃない?」


三人はそれだけ言うと、まるで何事もなかったかのように背を向けた。

私の手は、まだ穴の縁に向かって伸びていた。

だが、その手を取る者はいない。

足音が遠ざかる。

加護の光が、彼らからゆっくりと剥がれ落ちていく。

暗闇の底で、主人公は静かに目を閉じた。

痛みよりも、胸の奥に広がる冷たい空白の方が、ずっと深かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ