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ヒロインは警戒される


「休憩ですか、ガロイジュ男爵令嬢」


ほんの少しだけ木陰で座っていただけなのに声をかけてきた邪魔者。

これがイオとか、もうすこし顔のいい騎士とか、それなら許したのに。

ここにいるのは女性の騎士と女子生徒だけ。

ありえないわ。

なんで、どうして、こんな面倒な事をしなくちゃいけないのよ。


「あ、暑くて疲れちゃって……。

 で、でも、あの、薬草摘みなんて、その」

「騎士たちは常に戦場や治安維持の為に身を置きます。

 故に薬などの物資は大切に使っていても尽きる、

 なんて事があり得ない事ではありません。

 代替品でも大きな助けになります。

 特に野営などを行う際の応急処置としても身を助けるでしょう。

 それは騎士だけでなく、民全てを等しく救う知識。

 覚えていて損などない、そうは思いませんか」


はあ。

面白くない。

面白くないわぁ。

皆にちやほやしてもらって、その上でイオに近づくはずが。

全然そんな暇がない。

色々な事がズルできるようになってるから、その分勉強ばっかり。

つまらないわ。

本当なら全部押し付けてやって、手柄だけ貰うはずが。

全然そんな暇ないわあ…。

服が破れた時の直しかたとか、刺繍の練習とか、料理の実習とか。

そんなのばっかり。

この間のシチューだって、『ルー』さえあればあんな微妙な反応されなかったのに。

なんで洗剤とか、装置は作れて、そういうモノを作らないのよ。

おかしいじゃない。

面白くない事ばかり言われなきゃならないし。

それになにより『ステラ』は特別な存在のはずなのに。

なんで、こんな。

尊敬とか、崇めるとか、そんな風にするべきでしょう!?


「で、でも…私には、魔法がありますし…正直必要ないかなあって。

 私がいればどんな怪我も病気も治せちゃうし。

 その、私がいればそんな知識……」

「何を言われますか。貴方が倒れたり、怪我をした際は誰がそれを担当するのですか?」

「そ、それは」


なに言ってるのよ。

『ステラ』にそんな事が無い様にするのが名も無き存在の役目でしょ。

盾にでも、なんでもなって守りなさいよ。


「物資も無限にあるものではない、そう言ったでしょう。

 それに、いくら精霊に愛され魔法の才があるからと言ってその様に振る舞うのは傲慢と言うものではありませんか。いずれ騎士と共に王国に仕えるならば改めた方がよろしいかと」


ハァ?

なによ、なんでこんな事言われなきゃならないのよ。

何様なのよこいつは。

『ステラ』は特別な存在なのよ。有難い存在なのよ。

誰より特別で大切にされないといけない存在に、なんて失礼なのよっっ。


「なっ、なんでそんな風に言われないといけないのですかっ。

 失礼だわ! 私は、私は、王国にも認められた精霊に愛されているって存在なのにっ。

 そんな私にそんな高圧的に言うなんて、酷いわっ。

 もうすぐ来るアスター様に言いつけて、ちゃんと、処分をしてもらうんだからっ」


処分、こういうのってそう言うのよね。

全く躾のなってない騎士!

特別な存在、精霊に愛されている『ステラ』にあんな酷い態度を取るなんて。

許されない事だわ。

いいわ。

これを泣きながら訴えれば、『ステラ』の事をきっと信じてくれるわ。

あんな名も無きモブなんて、どこぞで寂しく暮らせばいいのよ。

……あら……いいわね。

何も言い返してこない。

効果があるってことね!

ふふん、今更ビビっても遅いのよー!




〇〇〇



「何だって。第一王子殿下の訪問が知られている!?」

「ええ。確かにそう言われていました」


薬草摘みの実習の監督をしていた女性騎士はそう報告した。

それに驚いたのは報告された上司であった。


「何故だ。これは秘匿されて、知っている者は騎士でも僅かだぞ。

 そんな事が、いくら特別な才を持つと言っても何故……!

 お、お前たち! 迂闊にも喋ったなんて事はないな!?

 いくら特別な才を持つと言っても、御令嬢が知るはずが……」


慌てた態度にそれが本当の事で、いかに大変な事態なのか周りも察する。

いくら精霊に愛されたと言う特別な才をもった令嬢であっても知るはずがない。

それなのに、彼女は知っていた。

あまりに不可解な事に、頭を抱えるしかない。


「しかし、慌てた事で第一王子殿下が訪問される予定は変えられない。

 今から連絡して、引き返してそこで何かあればそれも問題だ。

 ……その御令嬢は確か前日になって無理やり参加してきた子だったな。

 ガロイジュ男爵令嬢とは有名な子だ。

 その名と姿を借りた偽物で、第一王子を害そうとしている愚か者かもしれない。

 ……そんなあり得ない事も一応頭に入れ、考えてくれ。

 まずはその御令嬢と出会わせない様にその日の実習を入れ替えよう。

 第一王子殿下には野営の実習を見てもらう事にしよう。

 そして、女生徒たちはもう一度森の中での実習で毒性の植物やキノコの見分け方、それを受けてもらう事にしよう。万が一の為にも、顔を合わせるなんて事があってはならない。

 最悪の事態を常に頭にいれよ。

 こういう事は悪い事を想定しておいた方が良い。ありえなくともだ。

 私は一度、もう一度ガロイジュ男爵に確認してみよう。

 ありえない方を考えておいた方がいいからな」


少女の言った言葉はそれはそれは重く受け止められていた。

思った以上に重く受け止められたそれは、まさかの事態になるとは考えているはずがない。



〇〇〇



「全く失礼よね。『傲慢』だなんて」


『全くだわっ。ステラは特別な子よ。

 そんな可愛い子にああも上からアレコレいうなんてアイツこそが傲慢よ』

『本当だ。王国に仕える、なんてステラに失礼にも程がある』

『ああそうだ。ステラが王国に仕えるわけがない。 

 神にすら愛される特別な子だと言うのに。全く最近の人間は失礼だ』


そうよ。

そうよね。

その通りよねえ。


神にすら、愛される。

良い響き。

そうよ。

『ステラ』は皆に愛される存在なのよ。

なのに、あんな態度許される訳がないのよ。


「あなたもそう思うでしょ。セーラ」


びくり。

小さな体を震わせたセーラがこっちを見る。

最近はずっとああやって離れている事が多いのよね。

助けたい、助けたいってうるさいから丁度いいか。


『ステラ、さいきんなんだかこわいの……。あたち、ステラがこわい。

 まえみたいにやさしいステラがいいの……』


ハァ?

なに、それ。






がちゃん。





『す、ステラ…なに、するの…? どうしてっ』




自分が何を言ったか分からないなんて、いつからそんな悪い子になったのかしら。

人を助けたい、怪我をしている人がいるだとかうるさくてウザかったけど、ここまで馬鹿だとは思わなかったわ。最近はやたらと使えないし、特別な存在である『ステラ』にあの子、相応しくないわよね。本当に、でも、能力は使えるから。セーラは本当はお利口さんだもの。分かってくれるわよね。だって、だって、『ステラ』を愛する存在なんだから。

だから、しばらくそこで、反省するべきだわ。


「セーラ、しばらくそこで反省してなさいよ。

 私、とっても傷ついたわ。

 自分がどんなにひどい事をしたか、理解するのよ」


『ステラ……。そんな、どうして』


ああ、何か言ってる。

でも、しばらくは我慢よ。

癒しの力が使えないのは、面倒だけど仕方ないわ。

セーラの教育の為だもの。

他より小さいと大変だわ。

使えないのはなんとか誤魔化して、そうだわ。

酷い事言われて傷ついたから使えなくなったと言えばいいわ。

アスター王子に優しくされて、使える様になったと言えばドラマチックよね。

それまで大人しくしててね、セーラっ。



〇〇〇



「あれ……今日は刺繍じゃ……」


おかしいわ。

つまらない事を我慢してようやくその日がきたと言うのに。

今日は刺繍の実習をアスター王子と、引っ付いてきたツツジ様のなりすまし女が見にくるってイベントじゃないの? だから簡単に抜け出して、隠れて泣いて慰めて貰おうと思ったのに。

なのに、今日もまた朝から森の中。

それに今度は毒のある植物の見分け方ってそんなの『ステラ』がする事じゃないわ。

いずれ王国の王妃として皆に愛されるのに、そんな事、なんで。


「ガロイジュ男爵令嬢、聞いていますか。何か発見されましたか」

「えっ、いえ、なんでも」

「それでは解説を続けます。この痺れ草は確かに痺れると言う毒を持っていますが……」


えっうそ。

これじゃあ……会えない!?


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― 新着の感想 ―
面白いけど書くの大変そうだなと。
だいがえではなく、だいたいと読むので、 代替え品(だいがえひん)✕ 代替品(だいたいひん)◯
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