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『おかあさま、おとうさま。ごめんなさい、わたし…どうしても、
お母様の言葉が嘘だなんて、信じたくなくて、それでモモナ様を巻き込んだのです』
『いいえ! 違いますわ、わたくしが! わたくしが、巻き込んだのです!
我が家の利になると思い、わたくしが!』
行方不明、そんな驚きの一報が入った後に少し泥や葉っぱをつけながらも二人は無事だった。時間にしてみればほんの僅かな事だが、時間はとてもゆっくりで遠くでどうすることもできなかった『私』はとても長い時間に感じた。
リリアとモモナ嬢は不思議なお告げの真偽を確かめるべく、森を探索していたそうだ。
あの時、たまたま迷って全く違う方向に進んでいた為に騎士見習いらに発見されて保護されていた為、大事にならず済んだが、下手をすれば広い森の中を彷徨い、本当に行方不明になっていたかと思うと背筋が凍った。なにも出来ずに行方不明でリセットも出来ない世界で、離れ離れなんて。なんて。
「……はあ。ひとまず安心だな……ハイド子爵には心配をかけてしまった。
すぐに謝りに行こう。転移はできないから、馬車になるがいいかな、ええと…。
いはら、嬢。あ、そうだな、どうしようか」
「いいのです。『私』はパンジーではありません。
でも、本当にどうしましょう。呼びづらい、ですよね……」
「まあ、いい。これは当面私と君の秘密という事で、今まで通りパンジーとして
振る舞ってくれ。理解してもらえるとは思わないからな。
君には辛いだろうが、何かいい方法があるか調べよう。
君も知っているだろうが、ここ最近魔術の進歩が目覚ましくて、きっと」
「その事なんですが、あの、移動しながらでもいいので、聞いてもらえますか」
〇〇〇
「………つまり、この世界は本来ならば魔法も魔術もそこまで発展していない。
それがここでは何故か魔法が発展している、そう言う事かな」
「はい。大変失礼に聞こえると思うんですが、そうなんです。
『私』が知っているこの世界は、魔法はこんなにも便利に使われていませんでした」
ようやく話せた疑問。
それはこの世界が『私』の知っている物語の世界とは大きく違う発展をしていた事。
魔法や魔術が想像以上に便利に、生活になくてはならない存在として溶け込み始めている所だ。
魔法は適性があっても血の滲む努力をしなければ使う事は難しい。
全てはヒロインの『精霊に愛された存在』という特別感の為に。
「……ふむ……その、ひろいん、と言うのは、
子供の頃に聞いたおとぎ話の人物とよく似ているよ。
魔法を自由に使える神の子孫、なんだったかな……。
天使さま、女神の生まれ変わり、色々と呼ばれていたからなあ…」
「まあ……有名なお話なのですね」
「しかし、不思議な事だ。そんな神や精霊に愛された方と
高貴な身分の子息が恋に落ちる、私には理解できないな。
伊原嬢、君なら仕方がないと思うがこのおとぎ話は
特に私くらいの世代ではとても有名なものなんだよ。
魔法を自在に使える特別な才を持つ存在、いずれ神の元に帰るというのに」
「え……?」
なにか聞いたことのない言葉が聞こえたような。
この世界は、物語の『花言葉は愛を紡ぐ』で。
難易度は優しめで、そこまで難しくも無くて、ライバルキャラだって。
何もかも主人公の『ヒロイン』に都合の良い世界。
それが、神に、神の元に帰る。
結ばれて、幸せになる、そんな結末ではない?
「ああ。少なくとも私が子供の頃読んだ結末はそうだった。
地方によって違うらしいが、調べてはいないから確かな情報ではないけれど。
……教会に入り生涯神に仕えたり、可愛らしい冒険譚となったものもあると聞いた。
確かに多少魔法が使えたりする者の事を特別視してそう呼ぶ事もあったけれど、
まさか生きているうちに存在を知れるなんて何度聞いても夢の様だよ。
それもリリアの同級生。初めて聞いた時は驚いたなあ」
ここでも、ヒロインとして愛されているのはなんだか嬉しくなる。
そう。ヒロインはとてもいい子で頑張り屋でルートによってまた違う魅力もあった。
まあ、『私』はリリア推しですが。
どうしても視点としての感情移入はしてしまっていた。
でも、そうすると魔法の発展著しい『ここ』ではヒロインの立ち位置ってどうなるの?
もしかしたら、魔法の存在が消えぬ様に、使える存在の特別さを知らしめる為に
神が派遣して、精霊に手伝ってもらう為、人間として活動してる天使さまなんて。
もし、そう言う立場なら、魔法が発展して便利に使える世界になりつつある『ここ』でのヒロインの立場って結構難しいというか、厳しい立場なのではないだろうか。
特別な立場そのものが危ういというか。
あれ、ヒロインに厳しい世界になっているのではないか?
ここで考えても仕方がないが、もし神に仕える為に帰るのならば、恋なんて。
恋なんて御法度では?
それともそういう立場がその恋を燃え上がらせたの?
いや、でも今そんな事考えても仕方がない。
「……魔法がここまで発展したのは、ここ最近なんですよね。
なら、もしかしたらその発展に関わっている人も『私』と同じかも」
「『転生』をした人間ということかな。
子供ながら神に通じているかと思われていた方だから、そう言われると
何故だか納得してしまうな。当初は彼の方が精霊に愛された存在ではと
言われていたのだから、何もおかしくはないな」
「こども…? あの衣服乾かす装置を作ったのが…? 彼…?」
「リクを書記に推薦した侯爵令息、その人だよ。
バダゴ侯爵家のトアル様、『とある侯爵令息』となんて
隠す気があるのかないのか。
有名な話だが、彼は作るのに夢中でそう言った功績には無頓着で
資金と研究する時間を欲しがるがそれ以外は本当に興味がないそうだ」
「へ……え……え!?」
〇〇〇
「そう言われましても、あちらが望んでなかったですし、
何より秘密の制作者と言われていますが、皆知っている事ですし…」
恥ずかしい。
ああいった便利な装置はそう言った世界だから、そう思っていた。
もっと注意してみていれば、違和感だと気づいただろうに。
そしてここが物語とは異なる世界だと。
いや、それは『私』も同じか。
不幸になる子を『私』のエゴで捻じ曲げて。
世界に貢献する知らない転生者の爪の垢、煎じて飲まないと……でも。
でも、やっぱり、見て見ぬ振りはできない。
不幸になる子を知らん顔するなんて。
そんなの。
でも、いまは、そんな事より。
「お、おかあさま…。おとうさま…」
「リリア」
ぶるぶる震えたおんなのこ。
申し訳なさそうに俯いて、しゅんとした姿も可愛い。
「リリア。モモナ嬢も、無事でよかったわ。
でももう二度とこんな事をしてはいけないわ」
「お、おかあさま。ごめんなさい、ごめんなさい…」
震える体を抱きしめると、ほたほたと涙が伝ってくる。
ちいさな涙がこぼれている。
「わ、わたし、わたし…」
「いいの。いいのよ。リリアが誰かを困らせたくて
わざと迷子になったなんて思ったりしません。
素敵な事ね。
そんな泉があるならば、是非見て見たいわ。
でも、まずは調べておかないといけないわ。
おかあさまもね、とても興味がある事を知ったの。
なんにも知らなくて、おかあさまも驚いてしまったの。
だから、これからあなたとおなじ様に勉強しなくてはね」
「おかあさまも、ですか? わたしも、わたしも勉強します。
だって、わたしも見て見たいですもの」
「それがいいわ。
きっとリンドゥーラ義姉さまも、素敵な景色があって、
リリアに観てもらいたくて仕方なくて、
うっかり場所を伝え忘れたのかもしれませんわ」
涙を拭い、いつもの愛らしい顔に戻ったリリア。
また強く抱きしめて、無事を喜ぶ。
ただ、まだもう少しだけ『私』の事は伝えないでおこう。
いつか、必ず話さなければいけない事なのかもしれない。
このままなんて良いわけがない。
だけど、この立場とこの関係はとてもとても素敵で。
幸せにするなんて、曖昧な事の大変さを『私』は再確認した。
いつまでもこうして居られるわけではない。
けれど、まだ、もう少しだけ。
この立場で甘えさせてほしい。




