鹿島の幻影を追っかけて
『やあ、久しぶり。』
『嬉しいよ、こうやって真島と飯来れるなんて。』
俺にとって目の前のコイツはただの性欲発散の道具でしかない。高校時代から一度は相手をしたかった相手なのだ。
『しかし、こんなおしゃれなところどこで知ったん?』
『まあ、仕事柄こんなところによく来るからね。』
仕事?仕事って・・・・。まあいい。
『それよりさ、ワイン飲もうぜ。このメニューのこれがいいなあ。年代物は美味いからなあ。』
『真島は舌が肥えているね。さすが、有名弁護士の御子息。』
『よせやい、めんどくさいだよな。親父の後継がないといけないし、いろいろ難儀してんのよ。』
『そうか。真島、勉強はよくできたもんなあ。』
『勉強は、って。なんか他はポンコツみてえじゃねえかw』
『ああ、ごめん。ごめん。勉強だけじゃなくて、かっこよくなったよね。ほら、スーツの上からわかる筋肉の張りとか。すごいボク好みだな。』
違和感を感じた。こいつ、自分のことをボクなんて、呼んでいたことあるか?
その違和感以上に俺の胸板をなぞる指先に俺はすでに激っていたのだがな。
『おっと、まだ早かったね。食事を今は楽しもうか。』
『ああ、だな。ここは、肉が美味いんだってな。』
『そうだね。だから赤ワインをよく取り揃えているんだ。ほら。』
給仕が運ばれてきたワインを注ぐ。
『ほら、肉に混ざり合うような血のように赤いワインだよ。』
『真っ赤なワインだな。ああ確かに肉にあいそうだ。とりあえず肉の盛り合わせを頂こうか。』
肉の盛り合わせはすぐ来た。
『いただきまーーーー』
『真島様。』
給仕に呼ばれる。
『ん?なんだ?』
『真島様宛にお電話が入ってます。』
『なんだ?ここに来ることは、誰にも伝えてないんだが。。』
『行ってきたら?これを楽しむのはそのあとでもいいだろうよ。』
『んーーーまあ、そうだな。』
席を立ち上がり、店のレジ横の電話に向かう。
『はい?もしもし?』
『・・・・・。』
『もしもーし。』
ツーツー。
『あれ?切れてるじゃねえか。ったく、いたずらか?』
受話器を置く。
水を刺されてしまった。
『ワリィなんか、いたずら電話だったっぽい。』
『そうかい。』
『じゃあ、飲むか。今宵のこの時間に乾杯!』
『ああ・・・・乾杯。』
妖艶な笑みを浮かべてこちらを見てくる。ああゾクゾクする。早く組み敷きたい。俺が便器のように扱ってやる。
ワインに口をつける。なあに、コイツも酒を飲めばボルテージは上がるさ。すぐにな。
ここはどこだ?
携帯を見る。
朝7時。
日付が変わっている。
あたりを見渡す。
ここはいつも使っているラブホの部屋だ。
全く記憶がないが、ラブホにいるということは
アイツと一晩過ごしたという事だろう。
記憶がないのが残念だ。
『今日は・・・・。』
授業はない。今日も飲み会だ。
アイツとのベッドの記憶がないのが悔やまれる。
『はあ、また芋臭い女子大生を抱くしかないのか。』
記憶がない分少し苛立ちを感じる。その分は今日うめなければならない。
『頭痛えなあ。』
あのワイン、かなりアルコールきつかったんかなあ。飲んで秒で記憶飛んだわ。
『飲み会は15時からか・・・。』
まだ時間はある。少しこのホテルで寝るか。
夢を見た。
『あいつを?またなんで。』
『・・・・。』
『アンタも強欲だな。そうまでして手に入れたいかよ。』
『・・・・。』
『まあ、金はもらったしな。後押しすりゃいいのか?』
『・・・・。』
『本当に鬼だな。』
『なあ、鹿島。有島のこと好きなんだろ?』
『うん。』
『思いはさ、伝わらないと意味ないんだぜ。』
『だけど、、、』
『だめでもさ。後悔しない方がいいぜ。』
『わかったよ。』
『おい、鹿島。てめえ、有島さんに何しやがった。』
『何てめえ、女の子泣かせてんだよ、糞やろうがあっ!!』
『はっはっはっはー!!バーカ!バーカ!』
まさかな。
あそこまでやる必要があったかはわかんねえけどよ。
まあ、若気の至りさ。
場面が切り替わる。
紅い夕陽が窓から差し込まれる。
まるで血のように紅い。
教室にいる。
前の席が鹿島の席だ。
『ねえ、真島?』
『あん、なんだ・・・デブか・・・・!?』
首が180度後ろに向いて、目から血の涙を流した鹿島が口角をあげて話しかけてくる。
『うわっ、うわあああっ!!』
『ねえ、真島?人を吊るってどんな感じ?』
口からダラダラと垂れる血。
立ち上がって逃げる。
教室から出ても追っかけてくる。
『はっははっははっははっははっは!!』
ごぽごぽ溢れる血。
『ねえねえ、吊るって吊るってどんな感じぃぃ!?』
『く、来るなあっ!!』
逃げ惑う。
『ああああ!!!』
家庭科調理室に逃げ込む。
『殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ!!』
戸棚の包丁を取り出す。
『ち、近寄るなあっ!!!』
『ねえねえねえっ!!!』
何人も鹿島がいる。
包丁を振り回す。
『痛いっ痛いよおっ!!』
鹿島の1人が首から血を噴き出す。
『ああっ!!内臓がっ!』
包丁が腹を裂き、内臓が飛び出す鹿島。
もっともっともっと!!
逃げ惑う鹿島たち。
『逃げんじゃねえっ!!皆殺しだっ!!』
『いやだあっ!!』
躓いた鹿島の背中を何度も刺す。
『痛いよお・・・・・。』
『はっははっははっははっは!死ね!死ね!みんな死んじゃえよおおおお!!!』
あっさり死んでいく鹿島たち。弱い、弱すぎる!俺を舐めるとこうなるんだっ!!
血の海に映る自分の姿をふと見てみる。
そこに映るのは鹿島の顔だ。
『はっははっははっははっははっは!!!てめっ、そこにもいたのかよっ!』
包丁を振り上げる。
そしてそれは俺の腹を掻っ捌いた。
『あれ?』
血の海に映る鹿島が倒れていく。
これは・・・・
俺???
痛いなあ。めちゃくちゃ痛い。
寒いなあ。体温が急激に下がる。
リアルな夢だなあ。
夢なのだ。
夢から覚めたら、今日はサークルの芋臭い女を抱くのだから。
こんな悪夢ーーー
は、やく、、さ、メテクレルヨネ??