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ゾンビ先生は美脚がお好き  作者: 改 鋭一
二日目 「再会」
21/44

黄色い防護服

ん!?


その時、俺の視界を予想外のものが横切った。


建物の陰に誰か立っていた。


ゾンビではない。まっ黄色の感染防護服を着てた。あれは外から、壁の外から入ってきた人間だ。


良かった。ようやっと生存者の救出作戦が始まった、あれは救助隊だな。


そう思って俺はホッとした。


しかしこれまで『壁の外』の連中の、俺たちに対する振る舞いは決してフレンドリーなものではなかった。それを思うと一抹の不安も感じた。


「葵、ちょっと停めてくれ」


「え、何?」


トラックはキキーッと音を立てて急停車した。


「どうしたの? 忘れ物?」


「いや、違う。防護服姿の人間が見えたんだ。救助隊かもしれないから行って話をしてくる」


「はあ!? バカじゃないの? そんな奴ら信用できないわよ。銃でも持ってたら、あなたゾンビだしすぐに撃たれてしまうわよ」


「これだけベラベラ言葉しゃべってる奴をすぐに撃ちゃしないだろ。それに俺は撃たれても生きてる人間ほどダメージは大きくない。奴らが撃って来たら逃げて来るよ」


「蜂の巣みたいにされたらどうすんのよ!?」


「そうなったら君達だけで逃げてくれ」


「何て無責任なこと言うのよ! そんなこと言うんだったら私が行くわ」


葵はオープナーに手をかけて運転席のドアを開けようとする。


「や、止めてくれ。俺が行く、俺が行く。お前が撃たれたら元も子もない」


そんな内輪もめをしてるうちに、トラックの後方から二人の男達がこちらに向かって歩いて来るのがドアミラーに映った。


「ほら、どっちにしても奴らの方からこっち来るよ。とりあえず話してくる」


そう言い捨て、葵が止める間を与えず助手席のドアをパッと開けて路面に飛び降りた。


「気をつけてね! 危ないと思ったらすぐに戻ってくるのよ! エンジンかけたままにしとくから!」


葵が叫んでいるのを背中で受けて、俺はトラックの後方200メートルほどにいる黄色い防護服姿の二人に近づいて行った。




俺がトラックから下りて来たのを見て男達は立ち止まった。


まっ黄色の感染防護服に防毒マスクまで着けている。N95マスクで十分なのに大層な格好してるな。


そして肩から提げているのは……葵の懸念した通り、ライフル銃だった。軍用の、アサルトライフルって奴かな。詳しくは分からないが。


男達はまだ銃こそ構えていないものの、両足を肩幅ほどに開いて少し腰を落とし、いつでも戦闘態勢に入れるような緊張感を漂わせている。


念のため両手を挙げ、こちらに攻撃の意思はないことを示しておこう。その上で、一定の速度でゆっくり歩く。


声が届くほどの距離になった。とりあえずこちらから挨拶しておこう。


「お疲れ様です! 私はこの大学の教員で山野といいます!」


両手を挙げたまま、少し腰を折って頭を下げる。珍妙な格好だ。


だが防護服の男達はジッとこちらを見据えたまま、笑いもしないし言葉も発しない。


この距離だとどうしても大声になってしまうため、もう少し近づこうと思って、二三歩足を進めたところで、


「動くな!!」


マスク越しに怒鳴られてしまった。


しかももう一方の男が、どこから出したのか拳銃を両手で構えてこちらに向けている。この距離で頭を撃ち抜かれたら、さすがの俺も一発で成仏だろうな。立ち止まらざるを得ない。




男が問いかける。


「お前は……ゾンビか!?」


おお、そう来たか。さあ、どう答える?


いろいろな考えが頭の中をわーっと駆け巡るが、どう見たってゾンビ顔してる俺が「違います」って言っても信じてもらえないだろうし、そうなるとよけいに話がややこしくなる。ここは正直に言った方がいいだろう。


「そうです、ゾンビです。ただし……」


すぐに続ける。


「他のゾンビとは種類が違うようで、生きてる人間を襲ったり食べたりはしません。理性も残ってますし、こうやって普通に話すこともできます」


俺の返事に男達は驚いたようだ。え? そんなゾンビがいるのか、聞いてねえぞ、みたいな困惑の表情を浮かべ、二人で顔を見合わせている。


「だからとりあえずその銃を下ろして下さい。それじゃ落ち着いてしゃべれない」


二人はまた顔を見合わせ、俺に向けて拳銃を構えていた男は、いったんそれを下ろした。


「ありがとうございます。あなた方は救助隊の方ですか?」


俺は再びゆっくり近づきながら男達に尋ねた。


「いや、違う……おい! 近づくな! それ以上近づくな!」


えらいビビりようだな。


「救助隊じゃないなら、何故あなた達、こんな危険な所に入って来てるんです?」


距離にして3~4メートル、普通の声量で会話できるぐらいの距離を保って俺は尋ねた。屋外でこのぐらいの距離なら俺のウイルスが感染することもないだろう。


「俺たちは……生存者を探している」


男はそう答えた。


何だ。やっぱりそうか。それなら救助隊と同じじゃないか。そうならそうと言ってくれたらいいのに。


俺は思い切り笑顔になり


「ああ良かった。生存者が2名います。ぜひ保護してやって下さい」


そう伝えた。


しかしそれを聞いた男達は、全く俺が思ってもみなかった反応を見せた。


「なに? 生存者がいるのか。あのトラックに乗ってるのか」


そう言うなり拳銃をトラックに向けたのだ。


「お、おい! 何するんだ!」


うろたえる俺に、男は確かにこう言った。


「生存者がいると、困るんだよ」



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