月明かりに照らされて
ふ、と目が覚める。
あのままソファで寝てしまったのか。肌寒さで目が覚めてしまった様だ。
しかしそこまで寒くないのは恐らくキールが帰ってきたときに掛けてくれたのだろう、薄手の毛布のおかげか。
流石いい感じのソファだ、寝落ちても体が痛くない。
部屋を見渡すと、キールのベッドがこんもりとしている。いつ帰ってきたのだろう。
こんな起き方をするなら、一声かけて起こしてくれても良かったのでは、と少々理不尽な怒りを募らせる。
でもいざベッドまで行くと、キールの見るからにわかるほどの疲れた雰囲気を出す寝顔を見たらどこかへ行ってしまった。
あの後大変だったんだろうな…仕方ないか…と、自分のベッドに向かおうと体を反転させた。
数歩進むと、カーテンの隙間から月の光が差し込んで、俺の身体を照らす。
窓側へ行きカーテンを少し開いて空を眺めると、街全体の光が少ないからか、星が空に綺麗に輝いていた。
「………………」
先ほどから続く、このなんともいえないようなこの感覚。
ぎゅう、と胸の奥が締め付けられる。
いざ、学校への入学が近づいているからのこのなんとも言えない感情なのか。
寂しいのだろうか…違う、結構楽しみでもある
怖い…いや、恐怖感ではない
じゃあ、なんだろう
自分に、問い掛ける
「―…………」
自然と視線が下がる。
つきん、と胸が痛む。
「ん、胸…?」
場所的に、石が埋もれている、左胸。
「魔石……か」
服の上から魔石に触れる。
触れている魔石の部分がドクンと波打つような感覚。
するととたんに胸が熱くなる。若干呼吸も苦しい。
「…っ、キール寝てて良かった、かも…」
ぐ、と胸を抑えて、大きく深呼吸する。
原因は、わかる。…………おそらく。
「………マクスウェル、暴れるな」
胸に当てた手が熱くなる。
…あ、出るかも…
そう思った時には、俺に覆いかぶさるように影ができていた。
暗いはずの部屋、しかしそれよりも暗い黒。
『大丈夫か、セラン』
「……そう思うなら、頭の中に話し掛けるな、それとその出方、やめて」
『む………すまない」
だから、と言う前に耳に入ってきた声は言い終わる頃には頭の中ではなく、すぐ隣から聞こえていた。
俺は大きくため息をつく。声のした方を向くと、そこには長身の男。
腰よりも長い銀色の髪。その長身を覆う黒い服…ローブと言った方がわかるか。
長髪である為か前髪も頬ほどまで長く垂れ下がっていて、その隙間から覗く顔は見た目に合わないほどの整った顔。
「……どうしたんだよ、マクスウェル」
「いや…セランが何かもやもやして居るようだったから、癒してやろうかと」
「…そんな大きな体して本当に俺が癒されるとでも思ったのか…」
そして、見た目に似合わず結構な頭の中。
こいつはマクスウェル。
俺の、………守護聖霊、なのかな?
実際のところよくわからない存在だ。
だって知ったのはつい数年前、出会いも…まぁそれはおいおい話すとして。
まず、聖霊と云えば属性がある。
産まれてすぐ、主語聖霊をおろす儀式により、聖霊の恩恵・加護として子となる精霊を宿される。
それは主だって使える基本的な属性魔法と、他相性の良い属性の基礎的魔法を使うための魔力へと変換される為のものとなる。
相性の悪い属性は全然使えなかったりということもあるのだが。
最初マクスウェルと聞いて、全然聞いたこともない名前で首を傾げた記憶がある。
しかし属性と聞いて、彼は変な事を言った。
『ん…属性?…そんなもの、あったかな』
『……………えっ?』
そう、"無い"そうだ。
マクスウェルと話が出来るようになって、後々確認してわかったのだが。
基本的な属性魔法を一通り行ってみたのだが、すべてしっかり使える。
例えば火の聖霊イフリートの恩恵を受けているものは、相性が悪いといわれている水の魔法はほぼ使えない人が多い。
そして、属性の中ですこし特別な光と闇。それは恩恵を受けたものしか使えないといわれているのだが…。
それすら、使えたのだ。
その後、ギルドに登録する際に、この間使用した測定器のようなもので自分の属性適正も調べてみたのだが、無しと出てきたのだ。
色での検査も受けてみたが、火なら赤、水なら青と変化するはずのものは何も色が出ず無色。
ギルドとつながっている魔術研究所も加わり俺のことをいろいろ調べてもらったが、不明。
そして、固定された属性を持たない"無"属性ということに落ち着き、新しく発表された。
しかし、聖霊名が分かるはずもなく、そのまま俺についている本人(?)がいうのだ、マクスウェルと称された。
マクスウェルにいろいろ聞いてもみたのだが、自分のことなのによくわからないのか、自ら詳しくは語ってくれないようで。
よって確認も出来ず、ここまで至るのだが…
あともう一つ、先程も言ったが大体守護聖霊というのは、聖霊(親)が精霊(子)を人間へ宿すもの。
だがしかしマクスウェルは子供とは思えない。そもそもこんな人間同様な容姿になれるものではない。はず。
―…まぁ、発言等は子供の如く無知なところもあるくらいだが…
彼は単体での魔力が多く、人体への負担が大きく俺も最初死にかけた。
それほど、マクスウェルの魔力が大きいということだ。
しかし幸いにも俺には訳のわからん魔石があった。しかも後から知ったが、中身は何も宿していない、魔力が入っているわけでもない空っぽな状態だということ。
マクスウェルを宿す分には申し分ない容量の魔石。ということが分かり俺はその大きな魔力を魔石を媒体に宿した。
……魔石に宿るとは思わなかったけど、悪いモノではないのかすんなり宿って俺もビックリ。
宿してから、研究所の人たちとも普通に話もするくらいだし。
俺とも時折こうやって人型になり交流のようなものもする。しっかり感情もある。
こうやって見てると少し異様な容姿以外なんら普通の人間と変わりない。一体、なんなのかなコイツも。
むーんと唸る俺、を同じくむんと見つめるマクスウェル。
「大丈夫なのか?」
「え?」
「先程、こっちにまで来る妙な感情を感じたから出てきたのだが」
「あ、そうだったのか。ありがとな」
お礼を言うと、マクスウェルは端正な顔に似合わないようなヘラッとした顔で笑う。
イケメンはどんな表情でもイケメンなんだなと嫌そうな顔をしていたようで、俺の顔を見てショックを受けた顔を浮かべた。
それには笑えて、俺は笑みを浮かべる。
「俺そんなひどい顔してた? そんな顔するなよ、仮にも聖霊様がさ。…まあおかげで結構癒されたかも。流石に俺もそろそろ寝るからさ」
「そ、そうか!それは良かった」
おやすみ、と言うとまた先ほどのように微笑み、そして消えていった。
ベッドに潜り込み、息を落ち着かせる。
色々な思いを胸に、俺は目を閉じた。
…今は何も、どうしようもできないのだ。色々考えたとしても、変わらないし変えられない。
とりあえず俺は学校に通わないといけない。そういう制度なのだ、仕方ない。
フランの事も、会うとわかってから考えよう。今考えても仕方ない。
今はただ、おやすみなさい。




