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ユルヤカニ
緩やかな毒
この日がくると、思い出す
無音が怖い、と言っていた
彼は元気でいるだろうか
──真っ暗な中、ひたすら皆を探して歩いた
──無音が怖い
──水の中、歩いた
──無音が、怖い
笑いながら言っていた
賑やかなことが好きな人だった
人一倍、一人ぼっちが怖い人だった
「無音が怖いなら、耳を塞ぐといいよ」
そうすれば、無音ではなくなるから
きっと、あれは、緩やかな毒だった
──ありがとう
──あれから、無音が怖くなくなった
笑いながら言っていた
彼は元気でいるだろうか
今も、一人で耳を塞いでいるのだろうか
怖い言葉も
悲しい言葉も
届かない代わりに
優しい言葉も
届かない世界で
無音の中、たった一人で
取り残されてはいないだろうか
一人泣いては耳を塞ぐ
寂しがり屋の彼に
一人ぼっちではないと
抱きしめてあげる優しい腕は
あるのだろうか
お薬は用法用量を守って使いましょう。




