そうだよ
来た時のように小学校の東門を通って、校庭を突っ切って正門に置いた私の自転車を取りに行こうとしているところへ、中庭からちょうどわらわらと子どもたちが出て来た。
来た時に遊んでいた小学生たちだ。
まだいたのか…
私たちを見つけたとたんに、また来たぞ~~~、みたいな顔をして駆け寄って来て聞く子どもたち。来ると思った。
「どうだった?ちゃんと告白出来たん?」
「「…」」一瞬顔を見合わせて即座に恥ずかしくなり目を反らす私たち。
それでもメチャクチャ目をキラキラさせて返事を待つ子どもたちにキタガワが答えた。
「まぁ…ギリギリな」
「なんだよ、ギリギリって~~~」という子どもたち。
そうだよ、ギリギリって何って話だよ。
「なぁなぁ、中庭の池に黒い牛ガエルがいるの知ってる?」と急に話を変える別の子。「ビイって名前の」
一緒にうなずく私とキタガワ。
私はもちろん、キタガワがビーズのネックレスをその池のそばでくれた時の事を思い出している。キタガワも思い出してるかな…
「誰もちゃんと見た事ねえって言われてんのに」とまた別の子。
「オレら、今ビイ、一瞬見たし!」口々に自慢する子どもたち。「マジで!これマジで!なぁ?」
「メチャクチャでけぇ…。マジ、ドッジボールみたいな…」
が、他の子がまたすぐに私たちに矛先を向けて「じゃあチュウもしてきたん?」と聞く。
それを聞いてゲラゲラ笑う子どもたちだ。
クソガキだな!
「それはまだ出来ねえけどな、」とキタガワが普通のトーンで言うのでドキリとする。「明後日は一緒に学校に行く」
なんでそれを子どもたちに言う?しかもちょっと自慢げに言うので私が恥ずかしくなる。
「それだけ?」と子どもたちの一人が聞いた。
「今はな!」とキタガワ。「それでもすげえ嬉しいからいいんだよ」
そう言いながらキタガワが私の手を握った。
胸が鳴る。
急に繋がれてビクッとした私の手を逃がさないように、さらにキタガワがぎゅっと握ってくる。
でも私は恥ずかしいからなかなか握り返せない。手が汗ばんできそうだ。
「なぁ、それで嬉しいん?」さっきの子が私にも聞いてきた。
思わずキタガワを見るとキタガワはちょっと目を反らすがまた私の手をぎゅっと握る。
「…嬉しいよ」と私は赤くなりながら子どもたちに答えた。
「じゃあ好きって言われてドキドキした?」とさらに私に聞く子ども。
「…え、と…」
小学生相手に何こんなにしどろもどろになってんだ私。
私が答えないので、余計面白がって聞く子どもたち。
「なぁって~。好きって言われた時どうだった?どんな気持ちだった?」
うん。
…アレ?
私、好きだとは言われてないよね!?
キタガワの顔をチラッと見るが、キタガワは「ふん?」て顔をしている。
「なぁ~~」と子どもたち。「どんな風に言われたん?」
「…いや、」キタガワの反応を気にしながら答えた。「…あのね…好きだとは言われてはいないんだけど」
「へ!?」と子どもたち。
「は?」とキタガワ。
だって実際言われてないもんね。
そんな私の顔をまじまじと見つめ「もう…バカじゃねえの」と呆れたように言うキタガワ。
「さっきの話でわかったろ?…ずっと気にしてたって言ったじゃん!え!?わかんねえのお前!」
「…いや、わかったけど」
が、「好きって言えてねえの?」少し残念そうな顔でキタガワを見る子どもたち。
「さっきギリギリなっつったろ」キタガワが面倒くさそうに答える。「もうお前らいい加減帰れ。飯食いに帰れよ」
「「「「「「「だっせ!」」」」」」」
全員で突っ込んで来る子どもたち。
「家まで連れてって言えてねぇって…」とまで言うませた子どもたち。
…いや、そんな残念そうな顔で見られても…
「でも手は繋いでるよな」と一人の子。
「でもチュウはしてねえの?」と別の子。
「さっきしてねえつったろ!」とキタガワ。
小学生にそんな言い方…
「そんないきなりできるかよ」と舌打ちするように言うキタガワ。
「でもどっちも好きなんだろ?」と子どもたちは私とキタガワを交互に指差しながら、私に聞いてくる。「なぁ、好きなん?」
なぜ私に聞いてくる!
「…」
恥ずかしい。
だって。隣にその好きな相手がいるからね!
言わない私にキタガワがまた手をぎゅっと握ってきた。そして子どもたちの期待する目にも負けて答える私だ。
「…うん…うんそうだよ」
うわ~~~~~と言って走って行く子どもたち。私もうわ~~~~って感じだ。取り残される私とキタガワ。
キタガワが不意に、私と手を繋いでいない方の手で私の頬をつまんで引っ張ってきた。痛い…
「…なぁ…オレも」今度は私の目を真っ直ぐに見て言う。
でもハハハ、と笑うのだ。頬を引っ張られた私の顔を見て。そしてそのまま笑いながら言った。
「オレも好きだから」
キタガワが小学生の時みたいな顔で笑っている。
私はやっと今、キタガワの手をぎゅっと握り返した。




