エピローグ?
小学校から帰ってきた娘とそれを家で迎える母。
「ただいま〜」
「おかえり。早かったわね」
「うん。終業式が短かったから、早く帰ってこられたの」
「そう。今日で一学期も終わりね。明日から夏休みよ」
「うん、楽しみ! ……でも友だちに会えなくなるから、ちょっとさみしいかも」
「いつでも遊びにいけばいいじゃない。それより宿題、何が出たの」
「国語は読書感想文でしょ。算数はドリル、理科は自由研究、社会は、新聞の記事を集めるの。あ、日記もかかなきゃ」
「たくさんあるわね。また夏休みの終わりに残したりしちゃいけないわよ」
「そんなことしないもん。去年だって二十日くらいにもう全部終わってたもん」
「そうね。裕子はえらいわ。今年もその調子でね」
「はーい」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……どうしたの、裕子」
「えっ。なに、ママ」
「今日は気分でも悪いの……?」
「ううん、悪くないよ。どうして?」
「いつもの裕子なら、ここで『でも……休むための期間なのに、なぜ勉強をしなければいけないのかしら。メリハリのない生活は、かえって非生産的だわ』とか言うのに……」
「? そんなこと言わないよ」
「無理しなくていいのよ裕子。『働き詰めることが当たり前、休むことに罪悪感を感じる日本人の性質は、こういうところから形成されるのじゃないかしら』って言いたいんじゃないの? ママ、全部受けとめる準備、できてるから。さあ、言って!」
「……あの、ママ。勘違いしてると思うんだけど――」
「あ、あなた! 裕子がいつもと違うのよ、あなた!」
父を呼びにいく母。
「…………」
(せっかく気をつかってだまっていたのに……逆効果ね)
母の走り去った廊下を、裕子はじっとながめる。
ながめつつ、裕子は思った。
(……まあ、いいか)
なぜか、裕子はフッと笑う。
(さ、夏休みはどうやって過ごそう。ドストエフスキーの長編でも読もうかしら。それとも、素粒子理論について一から勉強してみようかしら。小学生は時間だけはたっぷりあるから、どう使うか迷うわ……)
裕子は考えながら、自分の部屋に戻っていく。少しだけ、胸のわだかまりが薄らいでいるのを感じながら。
→夏休みへ
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。
私生活の影響で本編の小説の方がなかなか書きあがらないため、生活の合間に携帯で何か書けないかなと思い、書いたのがこのお話です。
小説、と呼ぶにはおこがましい代物です。携帯を打つのが遅い私でも気楽に書けるような超短編にしようとこういう形にしました。シュールさ「だけ」を狙って書いたつもりですが……いかがでしたでしょうか。
裕子さん――なぜか「さん」付けしたくなります――は、十歳なのに落ち着き具合がハンパじゃない、大人びたというかすでに大人な小学生。その態度に母親が毎回戸惑うという、ある種コント的な雰囲気で進めました。
じつをいうと、このお話、最終話を書くのに一ヶ月ほど間があいてしまっています。私自身が多忙だったせいもありますが、どちらかというと、うまい終わらせ方を思いつけなかったのがその理由です。思いつきだけで書き始めると、やっぱり後が怖いですね。これがうまいラストなのかどうか分かりませんが、あまり引っ張りすぎて投稿する機会を逸するのもアレだったので、ほどほどで書き切りました。
この作品の次回作はまだ全く考えていませんが、携帯で書けるメリットは大きいと感じたので、前向きに検討したいと思います。
「前向きに検討するなんて、政治家的な発言はいかがなものかしら。やるともやらないとも言わない日本人特有のあいまいな態度があなたにも染み付いてるわね。でもそんなことで、読者は本当に納得するのかしら」
……すみません、裕子さん。