第5話 討伐作戦
俺がこの世界に来て、ちょうど1ヶ月が経とうとしていたころ、俺とエリシアはEランクに昇格していた。
そして今、俺たちパーティー〔鐵〕は、大規模な討伐依頼に参加している。
依頼の内容は、町の近郊に出現した魔物の巣の掃討。かなりの規模で、Eランクの俺たちが参加するには場違いかとも思ったが、冒険者ギルドの判断で、経験を積ませるために下位ランクも招集されたとのこと。
今回は四つのパーティーによる合同作戦だ。その中でもひときわ注目を集めていたのが――
オレンジの街唯一のBランクパーティー『轟脚』のレイヴン率いる〔英傑の集い〕。
レイヴンは、金色の長い髪を後ろで束ね、整った甘い顔立ちの男だった。だがその容姿以上に、人を惹きつける何か――言葉にできない存在感があった。
「――〔英傑の集い〕のリーダー、レイヴンだ。よろしく頼む」
そう名乗る彼の声は、よく通る低音で、それでいて優しさと力強さを兼ね備えていた。
「今回は皆、俺の指示に従ってもらう。……安心してほしい。誰一人死なせはしない。みんなの命は俺が預かる。任せてくれ。」
その一言に、周囲の空気が引き締まった。
聞くところによると、レイヴンはわずか三年ででBランクに昇格した天才冒険者らしい。容姿も実力も人間性も兼ね備えた、まさに”天才”。
だが、不思議と悔しさはなかった。
どこか、見惚れるというよりは、尊敬に近い感情が湧いていた。
「あの男、意外とやるわね」
エリシアに同感だ。レイヴンとかいう男、中々やる。
さすがはBランク冒険者ってところだ。見た目だけじゃなく、力量も確かだ。その発言や立ち居振る舞いからも、それがよくわかる。
「ちょっと待ってくださいよ、レイヴンさん。今から魔物の巣を掃討しに行くってのに、なんでEランクのパーティが混じってるんですかい?」
声の主は、Cランクの三人組パーティ〔月下の弓矢〕のリーダー、トーマス。
その顔は苦々しさよりも、あからさまな嘲笑で歪んでいた。
どこにでもこういう奴はいる。
人を見下し、見くびり、自分が上に立っていると錯覚しているやつ。
確かに、戦場では足を引っ張られるのを恐れて、警戒するのも無理はない。
けれど――それにしたって言い方ってもんがあるだろうが。
「兄ちゃん、隣の姉ちゃんのこと……守れんのかよ?」
舐めるような視線がエリシアに注がれる。
下卑た笑いを浮かべるトーマスに、双子のギギとググも加わり、場の空気はどこか不快なものへと変わっていった。
Cランクパーティ〔月下の弓矢〕。
見た目はいかにも小悪党という風情だが、腕は立つ。
特にリーダーのトーマスは、強いだけでなく狡猾で、悪い噂も絶えない。だが、決定的な証拠を掴ませず、ギルド側も手を出せずにいる厄介な存在だ。
「お前ら、やめとけ」
レイヴンが低く静かな声で割り込む。
「そいつらに手出そうとすると、痛い目見るぞ。」
……この人は、俺たちの実力を見抜いている。このままやり合えば、俺が負けることはない。それに、、、、隣からの殺気が物凄いことになっている。
だが、トーマスはレイヴンの忠告を鼻で笑った。
「俺らがこんな雑魚に負けるって?たかがEランクに?ありえねぇな」
レイヴンの視線にトーマスは気まずさを感じつつも、体裁を保とうと見栄を張り続けた。
「まあいい。せいぜい死ぬなよ、兄ちゃん」
再び下品な笑みを浮かべながら、トーマスは背を向けた。
「お前ら、死ぬなよ」
「死ぬなよ、お前ら」
ひょろりとした体格の双子、ギギとググが、口を揃えてくすくすと笑いながら、エリシアの全身を舐め回すように見つめた後、トーマスの後に続く。
異世界転生といえば、こういう展開だよな。
実力は、立ち位置では決まらない。
本当に力のある人間は、いずれ自分に相応しい場所へと辿り着く。俺たちは、まだその途中だ。
だからこそ。そちらがくるなら、真の実力者がどういうことか、完膚なきまでに叩きのめし、実力でわからす。……”ロマン”だねえ。
そう思った、その時。肩に、そっと手が置かれた。
怒っているとでも思われたのかもしれない。
振り向くとそこには、レイヴンの落ち着いた瞳があった。
「悪いな。ヤクモとエリシアって言ったかな? 最速でEランクに昇格したらしいな。俺の記録を破られて、ちょっと悔しいが……正直、期待してる」
わざと周囲に聞こえるような声で言ったその言葉は、明らかなフォローだった。
周囲に広がりかけていた冷ややかな空気が、ほんのわずかに和らぐ。
その一言だけで、場の空気を整えてみせる――
これが、Bランク冒険者・レイヴンの器なのだろう。
「……出発するぞ」
そのタイミングを見計らったかのように、レイヴンは全体に向けて声をかけた。
静かに、だが確かな口調で。何事もなかったかのように指揮を執るその姿は、まさにリーダーそのものだ。
俺たちを乗せた馬車隊と徒歩組がゆっくりと街門を出る。
風の向こうに、うっすらと血の匂いが混じっていた。
魔物の巣は、すぐそこだ。




