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2話 砦の食堂にて

 今日はもう遅いから、この砦で一泊させてもらって、明日出発することになったと、マーレさんから教えてもらった。

 ミンスさん、ロンデさんは、これからリーベルトさんと話があるから、他の四人でご飯を食べよう、と誘われて、砦の食堂に来たのはいいんだけど。


 …視線が痛い。


 夜遅い時間帯とあって、混み合っているわけではないものの、24時間体制で砦の警備をしている兵士たちのために、食堂は常に開かれている。

そして、一定数の兵士たちがそこに集まっていた。


「あの子が、ミンスさんが拾ってきたっていう?」

「そうそう、聞いた話によると、16歳で無職だって。」

「訳ありなんだろ。」

「妙な服装してるし、人型のマジックアイテムとかじゃないよな?」

「バチルダン小国でミンスさんが孤児を拾ってきたって聞いたけど。」

「孤児って年齢か?孤児だったら尚更、10歳過ぎたら、何かしらの職業登録して、働きに出るだろ?」

「変わった人だし、訳ありの女の子を拾ってきて妾にでもするのかね。」

「そりゃないだろ。あの人あんな感じだけど、好みは普通にボン・キュッ・ボンだって聞いたぜ。」

「どこ情報だよそれ。」

「忘れたけど、少なくとも、あのまな板じゃ無理だろ。」


 って、オイイイイ!!!!

 誰だ最後の言ったやつ!!!!!!

 まな板に反応して、ギラついた目で周りを見回すと、それまでのひそひそ話が止んで、食堂がしんと静まり返った。


 そして、静かになった分、よく響く。


「ビートさん、笑いすぎですよ。」


 低い声で非難して、じとりと睨むけど、余計にツボにハマったらしい。

 ぶっくっく。って、肩を震わせて涙目になってる。


 くそぅ、私のスレンダー体型を笑ったやつ、『分解&構築』して、お前らの大事な筋肉と✖✖✖を、もやしに変えてやろうか!!!


「カ、カナメちゃん。顔がすごいことになってるわよ。女の子なんだから、笑って笑って。」


 マーレさんが、両手の人差し指で口角を上げる仕草をする。

 でも、私の視線は、そのきれいな笑顔じゃなく、その下の豊かなアレに注がれる。

 いいよなぁ、持ってる奴は。持ってない奴の気持ちなんてわかんないよなぁ。

 ヨッパライのセクハラオヤジのごとく、無遠慮に眺めてたら、


「カナメは優しいし、可愛いよ!」


 エリオルくんが、悩殺スマイルで励ましてくれた。

 ヤサグレた心に染みて涙が出そう。


「そーそ、カナちゃんはそのままで十分可愛いよー。」

『うっせぇ、おっぱい魔人』


 ビートさんの嘘くさい慰めに、ぼそっと毒を吐く。

 なんか呼び方も変わってるし。

 ビートさんが、『なんて言ったの?』って聞いてくるけど、『べーーーつぅーーーーにぃぃぃーーーーー』って、全然別にじゃない返事をしておいた。


「それに、職業は、ソマリの街についたら、すぐに職業斡旋所に行けば、登録できるし。カナメなら、きっとすごい職業があるよ!」


 エリオルくんが、更に笑顔で勧めてくる。

 職業斡旋所。

 なんか、他にもっといい名前なかったのかな!?って思わず内心でツッコんでしまった。

 ニートが母親に、いい加減自分で稼いできなさい!って連れて行かれる様を想像してしまう。

 むうぅ、元の世界なら、職業:高校生で十分だったのに。

 むしろ、それ以外の方が、奇異な目で見られてた。

 この世界には高校生なんて、ないだろうし。


「職業といえば、マーレさんとビートさんの職業は冒険者なんですか?」


 『解析』を使えば簡単に分かるけど、何でもかんでもスキルで覗き見したら失礼だよね。って思って、人のことは出来るだけ『解析』しないことにした。

 人と人は言葉で通じ合うものだと思うから。


「私は、今は調香師を登録してるわ。その前は、舞って闘う方の舞闘家ね。レベルが上限になったから、転職したの。」

「俺は今は料理人だねー。前のは、まあ、大した職じゃなかったし。カナちゃんの言う冒険者は、職業ってわけじゃないよ。」

「冒険者は職業じゃないんだ。料理人も、冒険者も、同じ枠組みというか、どちらも職業=仕事だと思ってた。」


 調香師でも料理人でも、冒険者になれるのか。あ、でも、自己紹介のときに、今回はって言ってたってことは、お忍びで冒険者のふりをしてただけで、本職が別にあるってこと?

 よく分からなくなってきた。

 分かりませんって感じで、ちらっとビートさんを見ると、続きを説明してくれた。


「カナちゃんとこではどうだったか分かんないけど、ここでの職業は、仕事って言うよりも、仕事をするための適正スキルの選択、みたいな感じかな。」

「適正スキル」

「職業は色々あるけど、登録できるのは自分に適正他諸々の条件に合致するものだけ。例えば、料理人の職業を登録すれば、料理系のスキルが習得できたり、料理に関する技量が上がったりするわけ。職業レベルを上げればもちろん、料理に関する事柄もレベルアップする。ここまではいい?」


 ビートさんに聞かれて頷く。

 ビートさんも、うんうん、って頷き返して続けた。


 「ただし、ここで重要なのが、職業の料理人を選んだからって、必ずしも料理の仕事をしないといけない訳じゃない、ってこと。」

「え、料理人なのに、お店を開いたり、料理を提供する仕事をしなくてもいいってことですか?」

「そ。逆に、料理人の職業が選べなくても、料理をする仕事は選べる。まあ、料理人に比べると腕が落ちることは多々あるけどね。さっき言った、冒険者が職業じゃないってのは、単に今まで登録可能な職業として出現したことがないってだけ。もしあれば、探索系や感知系スキルが習得・向上出来たりしそうだね。」


 はぁー、なんかちょっと複雑。

 職業料理人でも、料理人にならなくていいなんてややこしい。

 うーん、って唸ってると、ビートさんが苦笑した。


「難しく考えなくていいさ。才能は選べなくても、やりたいことは選べるって程度のことだよ。」


 やりたいこと。

 ビートさん、ちょっと良いこと言った!

 株価が少しだけ上昇したぞ!


「まあ、選べる職業は人それぞれで、何でその人にその職業が登録可能なのかは、分かってないけどな。どれだけ適性があるように見えても、職業欄に出なかったり、一つの職業の適性がずば抜け過ぎてる故に、他の選択肢が消されたりってのも、あるみたいだし。」


 ビートさんは、誰かを思い浮かべているのか、その瞳にかすかに憂いが見て取れた。

 気付けば、マーレさんとエリオルくんも同じような表情をしていた。

 誰のことか気になったけど、聞かないでおいた。


「そういえば、エリオルくんは、御者をしてたけど、職業は何になるの?」

「僕は掃除夫だよ。」

「…え?」

「掃除系のスキルが向上するんだ。おかげで収納スキルもかなり拡張されたし、ミンス様が集めたゴミの片付けもかなり楽になったよ。」

「………え?」

「10歳の時の登録は“剣聖”で、剣技の腕を買われてミンス様の側仕えに選ばれたんだけど、ミンス様の部屋のあまりの汚さに、思わず“掃除夫”に転職しちゃったよ。」

「……………え??」

「職業は、レベルが上限に達する前に転職すると、レベル10ごとの能力しか引き継げない上に、始めるときはまた最初からになっちゃうから、今の職業は掃除夫だけだよ。」


 『ミンス様のゴミ集めはどうかと思うけど、今では天職だと思ってるんだ』って、可愛い笑顔で笑うエリオルくん。

 本当にそれでいいのー!? 



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