表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

3話 闇夜の襲撃者

 魔物強襲の知らせが砦内を駆け巡ったのは、夜間の見張りの兵士たち以外が寝静まった頃だった。



 カーンカーンという、鐘の音が、砦内に響き渡っている。

 びっくりして飛び起きて、何が起こったのかと部屋を出ようとしたところで、自分の服装に気が付く。

 セーラー服しか持ってないわたしに、マーレさんが、寝間着にと貸してくれた、マーレさんにとっては膝丈のワンピース型のネグリジェ。

 着てみると胸元の布が垂れ下がって悲しくなったけど、借り物だからそのまま使わせてもらった。

 危うくそんな素敵スタイルで廊下に出るところだった。


 椅子の上に畳んであったセーラー服に着替えていると、部屋のドアがノックされる。


「カナちゃん、起きてるか?」

「ビートさん!すみません、今着替えてて。」

「詳しいことはわかんねぇけど、魔物の強襲があったみたいだ。砦内がごたついてるから、今から一緒にミンスの旦那のとこに行ってくれるか?」


 魔物の強襲。

 ここに来るとき、平野に入ると、魔物はほとんど出ないって、ビートさんが言ってたはず。

 ここまで砦が大騒ぎするような魔物の出現に違和感を感じつつも、急いで着替えを終えてドアを開けた。


「お待たせしました!」


 勢いよくドアを開ける。

 ビートさんがちょっとびっくりした後に、ホッとした顔になる。


「無事だったな。」

「え?」

「悪いけど、急ぐから、ちょっち我慢してね。」

「は?え?ちょっ!」


 ビートさんは、返事を待たずに、わたしを肩に担ぎ上げた。

 あまりに軽々担ぎ上げられて、びっくり。

 こういう、力仕事系はだめだと思ってた。

 重たくて持てないって言われるよりいいけど、荷物みたい。

 こういう場合、普通はお姫様抱っことか。

 別にしてほしいとかじゃなくて!


 私がぐるぐる考えてるのをよそに、ビートさんは、わたしを抱えて廊下を走ってた。

 荷物担ぎされてる状態から、少し体を起こして、周りを見る。

 砦の中は、ビートさんのいうとおり、騒然としていて、兵士たちでごった返していた。

 中には、普通の服装をした人たちが、何があったのかとキョロキョロしている。

 わたしたち以外にここに泊まってた冒険者かもしれない。


 ビートさんは、そんな混み合った廊下を、人の間をすり抜けるように走っている。

 誰もビートさんを見ない。

 かなりのスピードで走ってるから、いくらみんな魔物襲撃の対応に忙しくても、誰かしらに見られそうなのに。

 曲がり角で、危うく人にぶつかりそうになった。

 思わず目をつぶる。

 衝撃はない。

 そっと目を開けると、目の前に人だかりがなくなっていた。

 さっきまで溢れかえっていた人は、今はビートさんの足元にいた。


「壁を走ってる。」

「怖いかもしれないけど、もう少し辛抱しててな。」


 ビートさんは、足元の人だかりを避けるように、廊下の側面の壁を走っていた。

 壁の僅かな突起(ほぼ視認できないレベル)に、足をかけながら、重力で落下する分、常に上向きに力をかけることで、落ちずに壁を走っているようだった。

 忍者みたい。

 

 天井が高い作りだから、人の上を走ってもまだ余裕がある。

 だからといって、この状況でも、やはり兵士たちは、こちらをみない。

 何かのスキルの力なのかもしれない。


 いつものおちゃらけたビートさんからは考えられないくらい、怖い顔して走ってるから、何も聞かずに、足元を行き交う兵士たちを見ていた。


 ゾワッ


 首筋の後ろから背中にかけて、何か冷たいものが走る。

 え、なに!?


「ビートさん、今、何か 」


 ビートさんを振り返ると、さっきよりも険しい顔で廊下の先を見つめている。


 『解析』が自動的に発動した。


 これは前にも経験がある。

 こちらに召喚された直後、命を狙われたあの瞬間にも、同じように、自分の意識外で『解析』が発動した。

 おそらく条件は“殺意”。

 命の危険を感じたわたしの本能が、スキルを発動させているんだろう。


 兵士たちに混じって、明らかに異質な雰囲気を漂わせている、目深に黒いローブを羽織った魔道士のような格好をした人に目が留まる。


「ビートさん」


 わたしは、魔物と違い、人に対して『解析』以外のスキルをむけたことがない。

 明らかに危険だとわかるけど、人に対して使うことに、ためらいを感じる。


 ビートさんは、わたしの方をチラッと見ると、安心させるように、目元を細めた。

 『いざというときは、オニーサンが護ってあげるから頼りにしてなさい。』

 船の中で言われた言葉が思い出される。


 ビートさんが、ひときわ強く壁を蹴った。

 気がする。

 今までより大きく跳躍したからそう思ったけど、衝撃も揺れもほとんどなかった。


 ビートさんが、ふわっと、黒いローブの人の後ろに降り立ったのと、黒いローブの人がその場に崩れ落ちるのは同時だった。


「殺したんですか?」

「いんや、ちょっと気絶してもらっただけだよ。こいつには聞きたいこともあるしね。」


 ビートさんが、わたしを床におろして、黒いローブの人に近づいた。

 さっきまでこちらを見もしなかった兵士たちが、何事かと集まってくる。

 ビートさんが、兵士たちを手で制して、黒のローブに手をかけようとした瞬間。


 『解析』が完了した。


 わたしの意思とは無関係に、左目が、その様を捉える。

 黒いローブの人間が『分解』を始め、そのエネルギーが中心に収束していく。


 ああ、これは、ダメなやつだ。


「ビートさん!離れてください!!!」


 わたしが叫んだ直後、黒いローブの人間だったものは、収束したエネルギーを一気に放出した。

 エネルギー体の中心が、ブラックホールのように周辺を飲み込みながら拡大していく。


 エネルギーが暴発したことによる、“時空の歪み”だった。

 

 兵士たちの叫び声が廊下に反響する。

 ゆっくりに見えて、一瞬の出来事だった。

 理解できても、凡人のわたしには反応する余裕がない。


 目の前に、時空の歪みが迫り、砦の壁や床、天井がその中心へと吸い込まれて、私の足元が崩落した。

 そして、落ちる寸前、誰かに抱き込まれた。

 ビートさんだった。

 私をかばうように、抱き込んで、でも、その後ろには真っ黒な闇が迫っていた。


 だめ。


 無意識に、歪み、黒く蠢くその空間へ手を伸ばした。
















 ガラガラと、壁の崩れる音がした。

 階下に落ちた割に、衝撃はあったけど痛みはなかった。

 ゆっくりと目を開ける。

 周りを見ようとしたけど、頭と腰をしっかり抱え込まれてて、身動きが取れなかった。

 だんだん意識がはっきりしてきて、ビートさんに抱きしめられていると分かった。

 耳元に吐息が聞こえる。

 大丈夫、生きてる。


「ビートさん、ビートさん!」


 呼びかけると、うー、と唸って、ビートさんが身をよじった。

 わたしの体から手を離して、ビートさんが起き上がる。


「いってえぇぇ!」


 あちこち擦り傷と打撲だらけのビートさんが、いてててて、と言いながら腕の傷を舐めた。

 私をかばったせいだ。

 きっと、ビートさん一人なら怪我をすることもなかったんだろう。


「はは、こういう体張るのはロンデのおっさんの仕事なんだけどな」


 わたしの視線に気づいたビートさんは、笑って、怪我をした方の手を振ってみせた。


「おっさんの筋肉なら、ぶつかった壁の方が粉々になるだろうからな」


 鋼より硬い筋肉という『解析』結果を思い出して、少しだけ顔の筋肉が緩む。


「ありがとうございます」


 謝ろうと思ったけど、やっぱり、謝罪の代わりにお礼を言った。

 ビートさんの怪我をした方の手をそっと持つと、スキルを発動する。


 指先から腕、肩、背中、そして全身へ。

 ついでに破れた服も。 

 『構築』を始めた瞬間、ビートさんの体が強張るのを感じたけど、気付かないフリをして、元通りに『構築』した。

 本当は、ビートさんはこの力を使われたくないんじゃないかな、って思ったから、了解を得ずに治してしまって、気まずくて顔が上げられなかった。


「ありがとな」


 少しうつむくように、ビートさんの腕を見つめたままのわたしに、ビートさんが言った。

 そのまま、わたしが掴んでいた手を逆につかまれて、引っ張り上げられる。


「御子さん、すげぇー!って感傷に浸りたいところだけど、まだお仕事が残ってるから、手伝ってくれるか?」


 ビートさんに言われて、改めて周りを見回した。

 わたしたちは、大した怪我はなかったけど、兵士の何人かは、時空の歪みに巻き込まれて、重症の人も居るようだった。

 怪我のない他の兵士たちが、怪我人に小瓶に入った液体を飲ませている。

 回復薬だった。

 飲まされた兵士の出血が止まる。

 しかし、時空に飲み込まれた手や足は生えてこなかった。


「せめてくっついてれば、上級の回復薬や回復魔法で治ったかもしれないけど、物がなくちゃな。とりあえず、死ぬことはないだろうから、先にこっちを片付けようか」


 わたしが兵士たちの傷を治すかどうか悩んでると、ビートさんに止められた。


「ここでこの人数にスキルを使うと、それこそ収集が付かなくなる。ここは何とか助かったけど、襲撃自体は終わったわけじゃない。混乱を招くだけだよ」


 怪我人を見捨てておけない、と思ったわたしの心を見透かすように、ビートさんが言った。

 早く治してあげたいなら、一刻も早くこの襲撃を収めることだ。

 わたしも思い直して、頷いた。


「それで、さっそくなんだけど。俺の見間違いでなければ、こいつはさっき、あの黒い球体みたいなのに飲み込まれたように見えたんだけど。カナちゃん、なにかした?」


 ビートさんのいう“こいつ”とは、エネルギー体になって消滅したはずの黒いローブの人だった。

 発生した歪みを間近で見ていたビートさんは、残った黒いローブが時空に飲み込まれたのを見たんだろう。


「あの時、このローブの人の生命エネルギーが暴発して、時空に歪みが生じました。あのままいけば、ビートさんまで飲み込まれてしまうと思ったので、咄嗟に、歪みの生成過程を逆行させました」

「“アレ“を巻き戻して人に戻したのか」


 ビートさんが軽く目を見開いてわたしと黒ローブの人を見比べる。


「こいつが、また同じようなことを引き起こす可能性は?」

「わたしの『解析』した限りではありません。暴発した原因になるものは取り除いたので、今はその人はただの人間です」

「そっか。あ、こいつ、他に自爆装置とか、自害用のものとか、他についてない?」

「ありません。あの暴発装置がそういったものだったみたいですね」

「助かる。これで、生きた情報が手元に残った。ついでに、しばるものとかないかな?」


 その後、黒いローブを着た侵入者は、わたしが『構築』した、鉄製の縄でこれでもかというほど、丁寧に縛りあげられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ