表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

4話 御子、自覚する(前編)

 ソマリの街に来て約3週間。

 街は相変わらず賑やかで、わたしはそんな街の様子を中央区にある建物の屋根裏部屋から見つめていた。

 

「平和だなー」

 

 ほんと、隣国が戦争を起こしそうだというのに、この街は緊張感なんてものは存在しないのか。

 いや、わたしが騒ぎを起こしたときはたしかに街に緊張が走ったし、いろんな噂が立ったみたいだけど。

 ミンスさんがわたしの事を周知し始めて一週間もすれば、通常運転に戻っていった。

 そういえばこちらの世界でも、一週間が7日間っていうのは変わらなかった。

 でも一ヶ月は月7週で一年間は7ヶ月らしい。

 1日は日本時間ではだいたい3時間刻みくらいに、0の刻、1の刻、2の刻、3の刻……7の刻、までの八分割。これは七分割じゃないのかと思った。

 その後、街のお店で時計が売られているのを見かけた。

 ものすごいざっくりしてて、盤面にそのときの時刻の数字が一文字だけ表示されて、時刻が変わると数字が変わるという単純なもの。数字は少し形が違ったけど、元の世界の数字に似てたからわかりやすかった。第7区画のお店だったから庶民向けだと思うけど、この非常に使いづらそうな作りなのに値段はそれなりにして銀貨5枚もした。日本円で約5千円くらいだと思う。

 後日、どこだったか忘れたけど、もっと中央に近い区画のお店でより精巧な時計を見つけた。

 元の世界の時計に似てて、盤面には均等に配置された1〜7の数字。

 0の刻があると聞いたのに、0がなかったからお店の人に聞いてみたら、0を刻むと、八角形になるため、売れないらしい。時間が経つと、中心から伸びた1本の針が盤面をゆっくり回っていくのだが、0を無くした代わりに7から1に掛けては、他の文字間の2倍の時間を掛けて進むように調整されているとか。数字を表示するだけの時計と違って、魔力操作の細工が難しくなるため、一番安いのでも値段はなんと20倍だった。ただの時計が10万円……。

 この世界の人達はほんとに七芒星や7というくくりが好きらしい。

 さて平和な街とは裏腹に、わたしの心中はあんまり穏やかじゃなかった。

 ソマリの街に来た初日に街の要所をぶっ壊してしまってからというもの、わたしが街に出れば御子様だ、御子様だとヒソヒソされる始末。

 わたしを御子として認識させることで、無用なトラブルを防ぐというミンスさんたちの目論見は成功している。

 確か王族と同等に扱うようにというお達しも出ているはずだけど、王族というより腫れ物のような扱いに少々辟易していた。

 自業自得だし、王族扱いされても困るけど、視線が痛すぎて最近では中央区に引きこもり生活である。

 わたしの作った石の腕は、わたしの懇願虚しく観光名所のモニュメントとして残されてしまったし。

 足場の頂きにわたしの銅像を作るって話だけは、なんとかミンスさんを拝み倒してやめてもらった。

 そのかわりに、わたしにボコられた3人の冒険者たちの石像が、わたしの作った石の腕の中にしっかりと鷲掴みにされることになったのだが……。

 タイトルは『御子様に仇なす者の末路』だって。

 モニュメントは開放型になり、建物の二階の屋根をゆうに超える高さにあるにもかかわらず、その足場に登って御子気分を味わう観光客が後を絶たないのだとか。

 足場と言っても、人一人がぎりぎり立っていられるくらいのスペースの絶壁の崖に囲まれたような場所に、よくもまあ頑張って登るな。

 ほんとにわたしあそこに登ってたのか、話を聞いた後でも未だに思い出せない。

 記憶が殆ど無いわたしの代わりに、周りにいた人たちはその光景をこれでもかというくらいにリアルに再現してくれた。

 

『アンタがわたしをここに置いてったのが悪い!!!』

 

 というデフォルトの台詞を元に、カップルが喧嘩した時に、彼女の方がこのモニュメントの上によじ登り、彼氏を断罪するのが流行っているのだそう。

『アンタが通りすがりの女を見てたのが悪い!』

『何回遅刻すれば気が済むの!』

『わたしとダンジョン攻略どっちが大事なの!』

 と、バリエーションは様々に展開しているようだ。

 大勢の前で断罪された彼氏の方は、周りからお前が悪い! と野次を飛ばされ、そのノリで彼氏が謝って仲直りする。なんて、仲直りスポットとしても人気になった。

 ああちなみに、ビートさんの方のデフォルトは、気を失って落ちる私を足場に駆け上がりながらお姫様抱っこで抱きとめるという離れ業だ。

 こちらは、何人か真似する人もいたが、挑戦者は皆、彼氏彼女諸共足場から落ちて大怪我をして診療所に運び込まれている。

 そのせいで一時的に診療所の施設が圧迫された。

 その後ミンスさんが、自由区なのでやるのは自由だが責任は取るようにと、モニュメント関連で怪我をした場合の医療費は十倍という規則を打ち立てた。

 そのおかげで今はそこそこ平和に楽しまれている。

 

「はあー」

 

 思わずため息が漏れる。

 わたしは屋根裏部屋に備え付けられたバルコニーにもたれかかりながら、はるか向こうに小さくもしっかりと見える、例のモニュメントを見つめた。

 今も誰かがよじ登ろうと、足場の半ばで苦戦している。

 あ、落ちた。

 

「はあー」

 

 憂鬱だ。はっきり言って、とっても憂鬱だ。

 それは華々しい建物が並ぶこの中央区において、質素な屋根裏部屋にいるから。

 ではない。

 中央区は、すごく高級感溢れる造りになっていて、それこそ宮殿さながらの建物が輪を描くように7つ並んでいた。

 それらのどれもが、公的な機関だと聞いて驚いた。

 商業ギルド、冒険者ギルド、職業斡旋所、教会、衛兵の詰め所、銀行なんかもあった。

 あ、あと一つは公的な機関じゃなく、ミンスさんたちのお屋敷だったけど。

 最初にできた区画で、他の区画よりも小さいとはいえ、もともとは1つの町だったところをこの7つの建物が専有しているのだ。その広大さが知れる。

 建物同士は、すべて中で繋がってて、関係者であれば自由に行き出来るようになっている。この建物に囲まれたところは、ものすごく広い中庭になってて、そこは関係者しか立ち入れないようになってて、ほぼミンスさんの家のお庭扱いだった。

 そんな公的機関の中に自宅を作って、職権乱用じゃないんですか? って聞いたら、私費で作った町に自宅を建てただけですよと笑顔で返された。

 どんだけ莫大なポケットマネーだよ! って心のなかで突っ込んでしまった。

 そんな私欲にまみれた、いや、素晴らしい手腕で作られたこの中央区の建物の屋根裏部屋をわたしにあてがわれたのは、日本で庶民の生活になれきっていたわたしでは、お屋敷の大きな部屋は馴染まなかったからだ。

 最初の数日こそ、高級ホテルに泊まったような感じでウキウキしたけど、使用人の人たちが常に部屋の隅に控えていたり、お風呂や着替えまで手伝われそうになるので、気疲れしてしまった。

 ミンスさんにお願いして、使用人はすべて外してもらい、部屋の掃除も自分でできるように小さな部屋を用意してもらうことにした。

 その中で見つけたのが使われてなかったこの屋根裏部屋。

 屋根裏部屋、とは言うものの、天井の高さも十分あり、実は部屋の中も広々としている。

 他の建物の屋根より高い位置に作られているため、窓を開けると風通しもよく、窓の外には部屋を囲むようにぐるりとバルコニーが続いていて、街の全体がここから見渡せるようになっていた。

 本当はミンスさんがこの街を見るために特別に作らせた部屋なのかもしれない。

 屋根裏部屋に続く階段は、部屋と部屋の間に巧妙に隠されてて、秘密基地のようになってたし。

 ここにしたいと言ったとき、ミンスさんを含めて、みんな微妙な表情をして御子をそんな部屋に住まわせるなんてと諌めてきたが、ここじゃないとストレスで死んでしまう! とゴネまくって手に入れた。

 エリオルくんが、本当にいいの? って聞きながら、部屋の中を新築のようにピカピカにしてくれた。さすが掃除夫。

 マーレさんは、せめて調度品だけでもと取り揃えてくれて、質素に見えていた屋根裏部屋は結局豪華に蘇ってしまった。

 シャワーやお風呂、トイレ、ついでに簡単なキッチンまで付けてもらった。

 そんなわけで、街の様子を眺めつつ引きこもるには万端の体制が整ったため、そこは問題ないんだけど。

 

「はあーあ」

 

 3度目になるため息が口から漏れたときだった。

 

「カナメ!」

 

 下からわたしを呼ぶ声がして見下ろすと、エリオルくんが中庭から手を振っていた。 

 

「今から街に行くんだけど、カナメも一緒に行かない?」

 

 退屈していた身としては嬉しい申し出。

 御子の噂の件がなければだけど。

 うーん、と、遠くのモニュメントを見つめて悩んでいると、エリオルくんが更に続けた。

 

「僕と一緒に行動するなら、変装していっても良いって、ミンス様とロンデさんから許可ももらったよ!」

 

 わたしの心を読んだかのように、エリオルくんが言った。

 12歳にして、この気の回し様。将来が楽しみなような、怖いような。

 最初は同い年くらいかと思ってたから、年齢を聞いたときはちょっと驚いたけど、発言や行動(気安く触れてきたり)なんかに、幼さのようなものを感じてたから、納得した。

 

「あと、ミンス様に頼まれて、ビートさんの酒場に行くつもりなんだけど」

 

 絶妙なもうひと押しだった。

 わたしが憂鬱な理由のまさにど真ん中だったからだ。

 

「い、行く!」

 

 わたしは、すぐに屋根裏部屋の出入り口に向かう、のではなく、先日入手したスキルを発動した。

『飛翔』を発動し、バルコニーから身を乗り出し、ふわりと外に舞った。

 砦で使用したときのような高速移動ではなく、浮遊するようにゆっくりとエリオルくんのもとに降りていく。

 退屈な引きこもり期間に、暇つぶしの一環で習得したコントロールだった。

 エリオルくんの傍まで降りると、エリオルくんがごく自然にわたしの腰を支えて地面におろしてくれた。

 ここに来てから、わたしが窓から飛び出るたびにエリオルくんが、それはもうごくごく自然にしてくれるものだから、最初はドギマギしたけど、今ではもう平常運転だ。

 慣れって怖い。

 

「ありがと」

「どういたしまして」

「ビートさんのところには、何しに行くの?」

「最近全然こっちに顔出さないから、様子見てきてってミンス様が。あと、カナメも連れてって、って言われたんだけど。ビートさんが中央に来ないことなんて珍しくもないのにね」

「そうなの?」

「基本的にビートさんは酒場や街での情報収集が仕事だからね。こっちに入り浸るより、街に馴染んでもらったほうが都合がいいもの。むしろ、こっちに戻ってきてから、毎日の様に顔を出してた方がおかしいよ。街中ではマーナガルムも小さくしてるから、ビートさんの酒場からここまで来るのも結構大変だし」

 

 エリオルくんが不思議そうに首をかしげた。

 この街に来て最初の頃は、ビートさんが何かと中央に顔を出して、街を案内してくれたりしてたから、いつもそんなものなんだと思ってた。

 それが一週間ほど前から、ぱったりと姿を見せなくなった。

 何かあったのかと言われると、有ったといえばあったし、無かったといえばなかった。

 平たく言うとあるには有ったが大したことではない。と思っていた。

 

 

 

 

 こちらに来てそれこそ入門直後に大暴れしてしまったけれど、この広い街では、まだ最初の頃は街に出てもそんなに注目を集めることはなかった。

 けど、噂が広まるにつれ、だんだんと通り過ぎざまに見られたり、ヒソヒソされたりすることが増えた。

 それとは別に、自由区なんかを歩いていると路地裏からこちらを見ている、見るからに怪しいグループもいた。

 この国の入国審査どうなってるんだ、と心の中でケチをつけつつも、実害はないため放っておいた。

 いつもビートさんが一緒に居るのと、私を見かけたら衛兵隊の人たちが必ず声をかけてくれたからかもしれない。

 王族扱いとすることというのは、確かに私を護ってくれているようではあった。王族にヒソヒソ噂話がこの世界での常識かどうかは知らないけどね!

 たまに広場でのさわぎを見ていたビートさんの知り合いから、痴話喧嘩、などとからかわれる事もあった。

 私に対してではなく、ビートさんに。

 毎日のように繰り返されるその流れに嫌気が差していたのは、わたしだけではなかったんだろう。

 ある日同じような流れでからかわれた時、ビートさんが言ったのだ。

 

『御子様相手にそんなわけないだろ』

 

 そのたった一言。

 ビートさんが笑いながら知り合いに答えて、ね? と同意を得るようにわたしの頭に手を置いた。

 頭に触れられた瞬間、わたしはその手を勢いよく振り払ってしまった。

 その時のビートさんの驚いた顔は、まだはっきり覚えている。

 冷やかしてきたビートさんの知り合いも、驚いて目を見開いて固まっているのを見て、冗談を流せない自分がとても子供ぽくて恥ずかしくなった。

 わたしはビートさんの顔をもう一度見ることが出来なくて、中央区まで送ってくれると言っていたビートさんを置いて一人で帰ってきてしまった。

 次の日、ビートさんは普通にまた中央区に顔を出した。

 わたしは、どんな顔をして会えばいいのかわからず、その日は具合が悪いからと言ってみんなのところに顔を出さなかった。

 ビートさんは次の日から中央区に来なくなった。それが約一週間前。

 わたしは、自分が原因かもしれないという気持ちと、偶然だという気持ちの狭間でモヤモヤして過ごした。

 二、三日しても顔を出さないから流石に気になって、一人でこっそりビートさんの酒場の辺りを見て回った。

 遠目に見かけたビートさんはいつもどおり、近くのお店の人と談笑してた。

 あまりに普段どおりで、なんだわたしの考えすぎだったのかと、ホッとしたのと同時にひどく落胆している自分に気付いた。

 わたしと同じように、ビートさんも憂鬱な時間を過ごしていると、ビートさんを見かける直前までは心のどこかで思っていたのかもしれない。

 わたしは結局、声をかけられなかった。

 そこからまた数日、わたしは完璧な引きこもり生活を続けた。

 

 

 

 

 

 

「カゴメ、どう?」

 

 部屋のドアが遠慮がちに叩かれ、エリオルくんが聞いてきた。

 変装しないと! と連れてこられたのはエリオルくんの部屋で、渡された服は明らかに。

 

「どう見ても男の子……」

 

 鏡に映るのは、フード付きのいわゆるパーカーみたいなのに半ズボンという、ザ・少年といった感じの服を着た自分だった。

 ショートカットの黒髪に、黒目の大きな二重の瞳。可愛らしいとよく言われたが、実年齢よりも幼く見えるその顔は、服装と相まって可愛い系の男の子を作り上げていた。

 

「えーと、エリオルくん。これってエリオルくんの、というか男の子の服だよね?」

 

 一応確認のため聞くと、入ってもいいかと聞かれたので了承した。

 

「うん、いい感じ!」

 

 私を見たエリオルくんが満足そうに頷いた。

 いい感じなの? これ。

 

「カナメと街に行くって話をしたときに、マーレ様が男の子の格好ならみんな御子様だなんて思わないだろうって助言してくれたんだ。確かに御子様は女の人って印象が強いから、まさかカナメが男の子の格好をして街を歩いてるなんて思わないだろうし」

「そうなんだ。いや、なんていうか、ほんとまんま男の子で……。」

 

 バレそうにないのはありがたいが、完璧に男の子になりきれる16歳女子というのも悲しいものがある。

 

「あとは、念の為これで髪と顔を隠してね。黒髪ってここでは割と珍しいから」

「そうなの? ビートさんも黒髪だったけど。でもそういえば、街の人たちで黒髪って見たことないかも」

「髪の色だけで御子様とはバレないと思うけど、目立つかもしれないしね」

 

 フードを被ったら、はい、ちょっとやんちゃそうな男の子ができました!

 仕方ないのでいっそ開き直って、パーカーのポケットに手を入れて、ちょっとだるそうな表情を作る。

 うん、完璧にこの年代の男の子だ。

 世間を斜めに見てる感じの。

 

「じゃあ行こうかカナメ」

「うん」

 

 二人の美少年が街に繰り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ