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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第5章 闘技場の都市へ!
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第九十一話 怒声

 階段を上がった弘は、両開き式の鉄扉に遭遇している。

 前に案内されたときは、完全開放状態でそれぞれが壁に接していたため、気がつかなかったのだ。


「防火扉みてぇだな……いや、そんな気の利いたもんが、この世界にあるはずねーか。じゃあ防犯扉って奴だな」


 この鉄扉のせいで階段が密閉状態となって、バックドラフトを浴びる羽目になったのだが、そこに思い当たらない弘は強引に鉄扉を蹴破った。

 ごわぁああん!

 寺の鐘でも突いたかのような音がし、鉄扉が吹き飛んでいく。


「ぬ? 爆発しねーな?」


 今度はバックドラフトが発生しない。扉の向こうへ踏み込むと、そこは1階と変わらぬ火の海だ。奥へ続く通路の両脇には扉が並んでいた……はずだが、ほとんどの扉が焼け落ちて中へ入れるようになっている。

 そのおかげで密閉状態とならなかったのだ。代わりに床や壁、それに天井が炎で装飾されている。


「水をまきながら進むしかないか……」


 アイテム欄に残る水樽は1つのみ。弘は、アイテム取り出しした樽から水を振りまきながら奥へと進んだ。このような行動を取ると、普通は移動速度が落ちる。しかし、弘は強化された腕力により、大きな水樽を軽々と担いでいた。なので、壁や天井の炎に気をつけながらではあったが、スタスタと奥へ歩を進めたのである。

 途中、幾つかの部屋を覗いてみたが、すべての部屋がもぬけの空だった。


(案内係のオッサンが言ってたっけな。引き抜きにあって自分の意志でついて行ったって。まあ、ここで焼け死ぬよりはいいよな)


 そうしてグレースの部屋前に辿り着いた弘は、豪奢な扉に向かって叫んでいる。


「おう! まだ中に居るか! 返事をしろ!」


 炎を寄せ付けず綺麗なままの扉を見ていると、中から女性の声が聞こえてきた。


「けほ……こほっ、誰だ? 聞き慣れぬ声だが……はやく逃げぬと助からぬぞ?」


 グレースの声である。

 声だけで誰だか解って欲しいものだが、考えてみれば、暫く前に1時間ほど抱いただけ。しかも、弘は単なる客だった上に名乗ってすらいない。


(俺だと聞き分けろってのは無理すぎるか)


 自嘲気味に笑った弘は、一応名乗りつつグレースに呼びかける。


「俺は沢渡弘ってもんだ! 助けに来たから扉をブチ破るぞ!」


「助けに来た? 亜人のこの我をか? サワタリ? 知らぬ名だが……いや、店員達が噂をしていたな。昨日、闘技場で大活躍したという、あのサワタリか?」


「大活躍かは知らんが、昨日……もう日が変わってるのか……確かに試合はした。てか、何だよ、この扉! こんなに力入れてるってのに! 開か……どりゃああ!」


 返事をしつつ扉を押したり引いたり、最後には蹴り飛ばしまでしたがビクともしない。先程は鉄扉さえ蹴り破ったというのに、この扉の頑強さは明らかに異常だった。


「無駄だ! この扉……いや、部屋全体に結界が張られている! 早く逃げろ!」


「案内係のオッサンが言ってたアレか。闘技場の結界と同じって奴。……そんなのどう破れってんだ? ……くっ!」


 トカレフを召喚し、至近距離からドアの取っ手付近を狙って数発撃ってみる。


 ガウン! ガウン! ドギュン!


 しかし、すべて弾かれてしまった。


「くっそー……。考えてみりゃ、鍵かけて閉めてるんじゃないんだよな。何考えてんだ、俺はよぅ」


 続いて鉄警棒でスタンを試したが、これも効果なし。弘は舌打ちすると、トカレフ及び警棒を消した。


「おい、今の音は何だ!? 何があった!」


 中からグレースが叫んでいる。まだ元気そうだが、聞こえる声は少し苦しげだ。


「いや、ちょっと試してみたんだが。それより、部屋の中はどうなってる? 娼館が燃え尽きるまで、放っておいても大丈夫そうか?」


 現状、部屋に侵入する手立てがない弘は、火災が鎮火するまで放置することを考えてグレースに聞いてみた。


(息苦しそうってこたぁ、煙とか部屋まで入ってきてるってことか……けど結界がある分、他の部屋よりマシなはずだぜ)


 だが、グレースの返答は弘の期待を裏切る。


「無理だ。煙が濃くなってきている。今だって、座り込んで話しているしな……鎮火まで到底もたん。ふふふっ、エルフの燻製が出来あがるかもな」


「悪い冗談だぜ。おい! あんたエルフだろ? 精霊魔法とかで……」


「隷属の首輪がな……今は精霊魔法を使わぬよう、オーナーから命令を受けている。どのみち、我が使役できる精霊では、この結界をどうすることもできん。それより、サッサと逃げろ!」


 このグレースの言葉を聞いて、弘はカチンと来た。

 自分は炎の中を通り、バックドラフトの爆発まで受けながら、ここに到達したのだ。それを、この女エルフときたら『逃げろ逃げろ』と……。


「うるっせぇんだよ! わざわざ燃えてる娼館に飛び込んだんだ! 意地でも助けてやるからな!」


「な、何を言ってるんだ!?」


 扉向こうのグレースが戸惑いの声をあげる。


「我はエルフだぞ? 亜人だぞ? なぜ、そうまでして助けようとする!」


「なぜって、そりゃあ……」


 言われて弘は理由を考えた。

 かつて客として彼女を抱いたことで情が移ったのだろうか?

 短く考えてたものの結局答えが出なかった弘は、やけくそ気味に怒鳴る。


「し、知るかよ! こんな時に、ややこしい話するな! とにかく、この扉を開ける方法を考えろ! 助ける理由は……ええと、助けた後で考えてやる!」


 そう言った後、数秒間ほど室内からの返事が途切れた。

 弘が「げっ!? いよいよ一酸化炭素中毒とか、そんな感じになっちまったか!?」と扉に耳を近づけたとき。中から、女性の笑い声が聞こえてきた。


「ぷっ、ア……ハハハハハッ! なんだ、それはっ!? お前は人間だろう? わけもわからず、命がけで亜人を助けようと言うのかっ?」


「そうだ、文句あるか! 言っとくけど、亜人がどうのこうので助けないとか、俺にはあり得ねー話だからな! なめんなよ!」


「本気で言ってるのか……」 


 グレースの笑い声が止む。そして彼女は言った。


「私はな……お前達、人間が忌み嫌う……亜人だ」


「ああ、そうだってな」


「身内の裏切りで氏族間抗争に敗れ、奴隷として売られた身だ」


「それはもう知ってる。ちょい前、客として来たときに聞いたからな」


「そうだったのか? ……なるほど、あのときの男か?」


 ようやく思い出してくれたらしい。弘は少し嬉しくなったが、続くグレースの言葉を聞いて顔をしかめる。 


「ならば、二度同じことを聞くまでもなかろう? 私は、敵氏族から辱めを受けた上に晒し者とされ……売られて以後は、数多くの男に身体を開いてきた」


「……首輪のこともあるし、自分の意思でどうにもならなかったんだろ? とにかく、今は部屋から出なきゃ」


「いい加減にしろ、貴様! 私は汚れ物の! 性奴隷なんだぞ!」


「それがどうしたぁ! こっちは元山賊だ!」


 絞り出すようなグレースの絶叫に、弘は怒声で答えた。

 ……再び、グレースの声が途絶え、弘は「むう。勢いで山賊だ……とか言ったけど、引かれたか?」などと考えている。そこへ幾分ではあるが、落ち着きを取り戻したらしいグレースの声が聞こえてきた。


「『薄汚い性奴隷』に対する文句が、『自分は元山賊』……か? それな、そっちの方が酷いとか、そういう風には思えないんだが……」


「いやまあ、他に言いようがなかったもんだから。で? この結界を破る方法は?」


 冷静に突っ込まれると実に気まずい。弘がゴニョゴニョ言い訳しながら、なおも結界破りの方法を問うと、グレースはクスクス笑いながら説明した。


「……良いか? この結界を力だけで破るのは至難の業だ。何しろ、下位とはいえドラゴンの攻撃に耐える性能があるのだから。そこで『力』に、もう一つ加えることにする」


「『力』に加えるもの? 魔法とかか?」


「あるいは、僧侶の法術だな。ことは単純だ。あらん限りの魔力ないしは法力を取り出し、全身の力を込めて扉に叩きつける」


 つまり、魔力等で結界術式を揺さぶり、同時に打撃でもって扉自体に損傷を与えるのだ。グレースが言うには、この結界は術式を練り込んだ水晶石を、壁や扉の構造材に埋め込むことによって維持されている。


「維持し続けるには、一定期間ごとに魔力と法力を込める必要があるが……。ともかく、魔法等と打撃の同時攻撃だ。同時に行ってこそ結界がほころび、水晶石にも影響が出る! だが……」


 それまで解説に熱の入っていたグレースが、ここでトーンダウンする。


「どうやって実行する? 同時性が必須である以上、複数人で行うのは現実的ではない……つまり、1人で行わなければならないのだぞ? 魔法使いでは打撃面が問題だ。僧侶を呼んできても、やはり打撃力が足りない。格闘が得意な修道士……モンクならば、あるいは……と思うが」


 どのみち高水準の法術を使えるモンクは少ないはずだ。居たとしても、捜して連れてくる頃には手遅れになっているだろう。

要するに無理だ。と、グレースが結論づけたところで、弘は考え込む。


(魔法と打撃の同時攻撃か……くそ、俺は腕力に自信あるんだが、魔法が使えねーんだよなぁ。召喚術士ったって、道具を呼び出すだけで……)


 ……。

 そこまで考えた弘は、ふと自身の召喚術について思い当たることがあった。

 メリケンサックを召喚したり、特攻服を召喚したりするのを、自分はMP……マジックポイントを消費して行っている。そして、召喚品はある程度の分解は可能だが、召喚時間を超過すると消滅するのだ。すなわち現物ではない。


(思ったんだけどよ。召喚術の召喚品って……MPの塊なんじゃねーの?)


 この理屈が通るとすれば、グレースが言う『魔力等と打撃の同時攻撃』。やりようによっては弘にも可能となるのだ。


「おい、どうした?」


 中から問いかけてくるグレースに「今から一つ試してみる」とだけ答え、弘は長巻を召喚した。手持ちの召喚武具では一番の大物だが……。


「うりゃああ! でええい! けりゃあああ!」


 気合いを込めて扉に斬りつけるも、扉はビクともしない。いや、斬りつけた際、ノイズが走るかのように扉がブレたような気がする。


(手応えあったぜ!)


 やはり召喚品はMP……魔力の塊なのだ。

 問題は、長巻で攻撃したにもかかわらず扉自体に損傷を負わせられないこと。


「どうする? このまま続けるか? ……今のは、かなり思い切りやったんだぜ?」


 アイスピック1本で巨大な氷塊を粉々にする。そんなイメージを感じ、弘の闘志が萎えかけた。


(駄目なのかよ? 魔力が足りねーのか? よく考えろ……グレースが言ったことを、もう一度……。……魔力と打撃。魔力と……打撃!?)


 弘は手に持った長巻を見た。それはアーマーライノスの外皮をも貫いた強武器である。しかし、長巻で行われる攻撃とは『突き』や『斬撃』であって、『打撃』ではないのでは? と弘は思った。


(ゲームみたいに、斬撃武器と打撃武器でダメージの種類が線引きされてるってのか? いや、今わかってるのは、打撃が必要だって言われてるのに俺が刃物で斬りつけてることだ)


 ここは頭を切り換え、打撃主体で行動するべきだ。

 長巻の刃峰で叩くのも打撃だろうが……それでは、いまいち力が載らない気がする。

 では、木刀にするか? それとも鉄メリケンサックか?


(どっちも初期の召喚品で、消費MPは少ねぇ。MPを召喚品に追加投入する方法があればいいんだが、それがわからん以上は見込みないな。何か……叩きつけられる道具で、MP消費のデカいやつがあれば……)


 一番MPを消費する召喚品と言えば、今のところ召喚タバコである。しかし、これで殴りつけて魔力が結界に伝わるだろうか? 多大なMP消費の後で失敗したら、他を試すのにも支障が出るだろう。


(後は……そうか、原付か!)


 闘技場でも活躍したスーパーカブの存在を、弘は思い出していた。 

 確かに、カブ召喚時の消費MPは20もある。中身がどうなってるかは不明だが、その重量は実物並みに重い。


「走らせて突っ込むか? けど、この通路は……」


 今来た通路を振り返るが、距離が足りていないようだ。階段口まで戻ってカブで走り出しても、充分な加速は得られないだろう。

 となれば、残る手段は一つ。


「グレース! 今から思いっきりブチかますから、扉から離れとけ! いいな!」


「わ、わかった!」


 戸惑いながらの返事を聞き、弘は周囲を見回した。

 通路内は煙が立ちこめ、再び勢いを取り戻した炎により熱気も凄いことになっている。

 弘自身は、強化された耐久力で今のところ平気だが、室内のグレースは限界が近いだろう。先ほどの声も、それまで聞いていたものより力がなかった。


「原付、出ろ」


 一声発すると、すぐ脇にスーパーカブが出現する。

 それに手を伸ばそうとして弘は、一瞬であるが躊躇した。

 召喚品とはいえ、これから愛車にしようとすることは……。


「バイク乗りとしちゃあ、クソな使い方しちまうな。けど……人助けのためだぜ!」


 言うなりハンドルと座席後部を掴み、軽々と頭上に持ち上げた。

 そして……。


「ぬわあああああああっ!」


 絶叫と共に、扉へカブを叩きつける。


 ゴガシャアアアア!


 走行中に電信柱へ突っ込んだような破砕音が鳴り響き、扉表面にノイズが走る……と同時に、先ほどまでビクともしなかった扉が破損した。

 それは長さ数十センチほどの擦過傷だったが、初めて扉に与えた損傷に弘は表情を明るくしている。


「よ、よーし! どんどん行くぞ! うぉらぁああああ!」


 原動機付自転車を両手で持って振り回す……そんな奇天烈な姿であるが、今は気にしていられないし、見ている者も居ない。

 そして、叩きつけること数回目にして扉が変形……合わせ目に隙間が生じた。


「ひょっとして! 今ならいけるんじゃね!?」


 汗だくの弘は、原形をとどめないほどグシャグシャになったカブを放り出す。そして、新たにバールを召喚した。この先端を隙間に突っ込み、こじ開けるのだ。


 ガッ!


 幾ばくかの抵抗を感じたものの、バールのL字に曲がった先端は隙間に潜り込んでいく。


「考えてりゃバールもMPの塊だしな。……いけそーか? せぇの……」


 弘は両手でバールを持つと、渾身の力を込めて押し込んでいった。


「ぬがぁあああああああっ! こん畜生があああああ!」


 バチ、バリバリ……ごぎぎぎぎぎっ!


 まず最初に、緑色の火花がノイズとなって扉表面を走り、次いで扉が不気味な金属音をたてだす。これがカブ殴打の前で、ドラゴン等の巨大物体の衝突や、大魔法の直撃ならもう少し耐えたかもしれない。だが、テコによって加えられる局所的な力。それによって、扉は徐々に変形していった。


「ぎぎぎぎ、だああああああああっ!」


 喉も裂けんばかりの絶叫。 

 その瞬間、バシーーーンという破裂音が聞こえ、バールが大きく押し込まれた。


「うお!? っと、おおおお!?」


 扉の左側が大きく内側に開け放たれたことで、弘は室内へと転がり込んだ。なんとも締まらない入室だが、それだけ作業に集中していたのである。


「いててて! って、うわ……ほんとに煙が入ってきてるな」


 なるほど、室内は結界の効果により焼損部がない。その代わり、頭の高さぐらいまで煙がきているので、それを見た弘は呻いた。


「やはり主であったか」


 グレースの声がしたので、どこかと見回せば、扉の脇の方で座り込んでいる彼女を発見する。前に見たのとほぼ同じ、透過性の高い寝間着姿であり、怪我はしていないようだが表情には疲労の色が濃い。


「煙を吸っちまったのか?」


「ああ、少しな。で? 元山賊の闘技者よ。これからどうするのだ? 通路の様子を見るに、この娼館が焼け落ちるのは時間の問題のようだが?」


 そう言うグレースには諦めたような様子がない。弘はバールを肩に掛けると、ニヤニヤ笑いながらツッコミを入れた。


「なんだよ? さっきまで俺に逃げろとか言ってたくせに」


「助かる見込みがあるのなら、敢えて死を選ぼうとはせぬ」


(もっとも……ここで焼け死ぬことで、我が贖罪も完遂できると思っていたのだが……)


 後半を声に出さず呟いたので、弘は聞き取ることができなかった。

 ともあれ、グレース本人が逃げる気になってくれたのはありがたい。これからの脱出で、無理矢理に手を引いていくような展開がないだけでも大助かりだ。


「じゃあ、さっそく外に出るぜ?」


「うむ。しかし、どうやって? 通路の状況からすると、階段などは焼け落ちているだろう?」


 問われた弘は、左肩にバールを載せたまま、右手の親指で一方の壁を指し示す。 


「壁を破るつもりか? この向こうは路地だが、娼館は頑丈な造りで……」


 グレースが言ってる間に弘はバールを放り出し、長巻を召喚した。突然現れた長刀を目の当たりにしてグレースが息をのむが、弘はかまわず壁に斬りかかっていく。


「うおらぁ!」


 ゴカァ!


 ボウリングボールがピンを吹き飛ばすのに似た音がしたかと思うと、長巻の一撃で石壁が破壊された。最初にできた破孔は上下斜めに走る……人が通れるほどのものだったが、火災で脆くなっていたのか、周辺の壁も遅れて崩壊しだしている。  


「おう。いい感じで崩れてくれたな。ここから外に出るとしようぜ?」


「さ、サワタリ……主は、いったい……」


 長巻が刀剣類であることを考えれば、普通は不可能な破壊っぷり。それを目の当たりにして驚いたのか、グレースが片言になっていた。

 極上のイイ女を前にしているので、自慢げに説明したいところだが、今は火災現場から脱出するのが先決だ。


「それは後だ。飛び降りるぞ」


 そう言って弘は、相手の返事を待たずに手を掴むと、壁の大破孔から路地裏へと飛び出していく。



◇◇◇◇



 路地裏へ降り立つと同時に、グレースの部屋で大きな崩壊音が聞こえた。

 なかなか劇的なタイミングと展開である。


(火事で周りが脆くなってるのに、結界を破って壁ブチ壊したからな。そりゃ崩れもするか……)


 降ってくる瓦礫が危ないので、弘は煙渦巻く路地裏を走り、表通りへと飛び出した。そこには大勢の野次馬が居たが……。


(そういやカレン達が来てたっけな? もう帰っちまったかな?)


 弘は、グレースとお互いに怪我がないかを改めて確認すると、野次馬の輪の外側から入って行った。

 カレンとシルビアに関しては、すぐ発見できている。最後に見た位置から幾分後退して、娼館火災を見守っていたからだ。


(なんだ、まだ居たのか……)


 そう思いつつ接近していくと、カレン達の会話が聞こえてきた。


「く、崩れちゃった! サワタリさんを助けに行かなくちゃ! やっぱり見てるだけじゃ駄目だったのよぉ!」


「カレン様、落ち着いてください! すぐに駐留兵が来ます! 水系の魔法や精霊魔法の使い手だっているでしょうから! それを待ちましょう!」


 パニック状態になっているカレンをシルビアが宥めているが、カレンは聞き入れようとしない。


「そんなこと言って! 軍隊なんて、いつまで待っても来ないじゃない!」


「ほんとにな。俺の世界で消防隊が遅着とかしたら、消防署に抗議電話が殺到するぜ。まあ、消防の人も頑張ってるんだけどな」


「えっ?」


 背後から掛かった声にカレンが目を丸くした。

 とはいえ、弘の位置からでは彼女の顔が見えない。肩がビクリと動いたのが確認できただけだ。

 そのカレンが振り向くなり弘を発見し、目を丸くする。


「さ、サ……」


 すぐには言葉が出ないようだったが、次第に表情が不服そうなもの……膨れっ面へと移行していき、最後に大声で怒鳴りつけてきた。


「なんで後ろから来るんですか! 無事なら無事って言ってください! あと、そっちのエルフ? の女性についても説明して貰いますからね! わかりましたか!?」


つまり、ホ○ダのスーパーカブは鈍器。

バックドラフトについては気合い入れて考証してません、ごめんなさい。

あと「それがどうした! 俺は元山賊だ!」は、前々から言わせたかったセリフです。他にも書きたいシーンがあるので、頑張って書かなくちゃ。


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