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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第1章 異世界転移で山賊に再就職!
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第九話 崖の上(下)

「へ~……凄いんっすね」


「お前も挑戦したくなったか?」


 ニヤリと笑いながら言われて、弘は首を大きく横に振った。

 その場その場で誰かの助っ人に入ることはあるだろうが、世界や国家のために(相手は魔族だが)軍隊を相手に戦うほど、自分は『勇者』ではない。


 弘の反応を見たゴメスは、グハハハハと豪快に笑う。


「そうだ、それが普通ってもんだ。誰も彼も勇者みたいに勇気があるってわけじゃねぇ。……たまたま剣が抜けただけの勇者に、世界の何もかも背負わせるってなぁ、どうかと思うがな……。だいたい、よその国に攻められて、それを何とかするのは国の仕事だろ?」


「そうっすね……」


 そりゃそうだと弘は思う。

 おお! 選ばれし勇者よ!

 このセリフを国王が発することで始まり、何もかも勇者に丸投げするゲームがあったけれど、それはそれで為政者の力不足だということだ。

 転移前、元の世界の創作物では勇者になるには複雑な理由があったり、異世界から呼びつけたりすること自体に策謀があったりするストーリーが見受けられていたが……。


(ゲームの『お話』でも、なんか生々しいリアリティがないと最近は売れないからな)


 そうなると気になるのは、実際に異世界転移してしまった自分についてだ。

 ステータス画面上では『職業:不良』だとかナメた表示になっているが、その辺に裏があって、実は勇者でした……ってことなのだろうか?


(漫画とかじゃ、ヤンキー武具召喚みたいな訳のわからん特集能力を持ってると、そいつは特別な存在だ……ってことになりそうなんだが)


 その辺に期待しつつ、ノリノリで行動してみるのも面白そうではある。が、それで見当違いだったら恥ずかしいことこの上ない。

 有象無象登場する特殊能力者の1人にすぎない可能性もあるのだ。

 弘が思うに、自分は後者にあてはまるっぽい。

 そう思った根拠は「俺みてーな、何処にでも居る半端もんが、選ばれた勇者とか……ないわー。ましてや主人公とか、ないない」というものだった。


「あれ? でも今の話って変じゃないっすか?」


「なにがだ?」


 三百年前の勇者が剣を抜いたのなら、今王都で魔像に刺さってる剣というのは誰が刺したものなのか? まさか、勇者の死体から回収して、わざわざ刺しなおしたのか?


「ああ、もっともな質問だな。勇者武具ってのは、ずうっと昔の偉い魔法使いが作ったもので、剣と魔像はセット品なんだとさ。使ってる勇者が死ぬと、剣が自動的に魔像まで戻ってくるって寸法だ」


 鎧や盾と言った他の勇者武具も似たようなことになっている……らしいが、こちらは三百年以上前に散逸しているので、よくわかっていないらしい。

 少し会話が途切れた……。

 弘は空行く雲を見ていたが、ふとゴメスに聞いてみた。 


「ゴメスさんは……なんで山賊になったんすか?」


「俺か? そうさなぁ……皆知ってることだし、別にいいか……」


 ゴメスは先程言ったとおり、元々はタルシア王国の騎士団所属で、騎士随伴歩兵の1人だった。


「騎士様付きの従者ってのは別に居てな。俺の役割は、騎士様周りの歩兵を仕切ることだった。敵弓兵の邪魔をしたり、仕える騎士様が敵に囲まれないように動いたり、けっこう頭を使うんだぜ?」


 そして普段は騎士の警護をしたり、兵達の訓練をしたりもする。


「普通の歩兵よりは位が上だったっけ。でまあ、そのままなら、ちょっとした小部隊の隊長にでもなって、年取ったら報奨金を貰って城下で暮らしてたかもな」


 だが、仕えた騎士が大臣の派閥争いに巻き込まれ失脚した。

 その煽りをくってゴメスらも失職。城下に居づらくなったため、近隣の町に移り、職を探したが悪い噂がつきまとって……と、最終的には山賊になってしまったわけだ。


「仕えた騎士様は左遷されただけだから、ついて行くって手もあったんだが。どうも流行り病で、従者と一緒に亡くなったらしくてよ……」


 そういうのって、対向派閥の追い打ちで暗殺されてたりするんだよな……と思う弘であったが、ここは敢えて黙っておくことにした。済んだことであるし、ここでゴメスが激昂しても困るからだ。


「城を出た頃からの仲間は、今じゃ5人。残りは似たような経緯で職を無くした元兵士や、元商人に、学者……死んだモリソンは、大牧場の元牧童だったか」


 ゴメスが悲しげに眼を細める。


「モリソンやラッドみたいな死に様が、俺達の行き着く先なんだろ~なぁ。山賊なんて、いつまでも続けられるわけないんだしよ」


 無論、明日のことなんかどうでも良くて、その日その日を略奪品に囲まれて贅沢に過ごせればいい……という山賊団もある。と言うより、ほとんどの山賊団はそのタイプだ。


「ゴメスさんは、違うんすね?」


「たりめーだ。こちとら本当なら真人間に戻りたいんだからな? まあ、お前と違って、俺らはもう無理かもしれんが……」


 山賊頭の身の上話を聞いていたのに、突然、自分のことが出てきたので弘は自分の顔を指差した。


「俺?」


「ああ、そうだ。お前、まだ人は殺してないだろ? この先はどうか知らんが、少なくとも悪事の上での人殺しはまだだ。てことは、まだ汚れてないってことになる」


 それはどうかな……と弘は思った。

 元の世界基準で言えば、弘は暴走族上がりで顔面に傷はあるわ、そのせいでまともに就職できないわと、正直ろくなものじゃなかった。

 今現在で言うと、山賊団の一員として悪事の片棒を担いでいる。

 ゴメスが言うような、お綺麗な身でないことは確かだ。

 殺人経験の有無が、ゴメスが言うほどの差をもたらすのだろうか?

弘がピンと来ないままで居ると、ゴメスは立ち上がってズボンの尻をパンパン叩いた。


「ま、要するにだ。お前のことは気まぐれで拾っただけなんだから、足を洗える機会があるなら、そいつを見逃すなよ……ってことだ」


 そして「けど、抜けるんなら事前に一言くらい言ってくれよ? 送別会ぐらいはしてやる。飲んで騒ぐ口実が欲しいだけだったりもするがな!」と付け加える。

 そうして洞窟へ向けて歩き出すゴメスに、弘は聞いてみた。

 なんで、身の上話を聞かせてくれたのか?

 その質問を受けて立ち止まると、ゴメスは肩越しに振り返る。


「お前が聞いたんだろ? て答えじゃあ、意地が悪いか。……強いて言うなら俺もいい加減疲れてきたし、誰かに話を聞いて欲しかったのかもな。お前を選んだのは……付き合いが浅いから、逆に話しやすかったから……かな」


 そう言って照れ臭そうに笑うと、ゴメスはズカズカと藪の向こうに姿を消した。


「真人間に戻る……か」


 崖から吹き込む風に晒されながら、弘は1人呟くのだった。





 その後、夕飯当番に呼ばれて夕食……焼いたイノブタモンスターの肉を何切れかと、野草の入ったスープ……を受け取った弘は、それを美味しく平らげ、わざわざ外まで行って見張り番に「お疲れ様っす! 見張り、お願いします!」と言ってから寝床まで戻った。

 見張り番が驚きの表情を浮かべていたが、弘としては当たり前のことをしているだけなので、特に気にはならない。

 あてがわれた寝場所は通路の奥。普段、倉庫に使っている部分の手前にあり、通路灯の明かりも不十分にしか届かない悪所だ。不便極まりないが、新入りとしては当たり前だと認識しているので、弘は不満には思っていない。

 ゴロンと横になると、むしろをかけて目を綴じた。 


(フウ……なんだかんだ言って、山賊生活も慣れてきたな……)


 暴走族を出て暴力団に入る。

 学生時代は冗談にしていたことであり、入る気もなかったが、いざ犯罪集団に加わってみると、思っていたほど特別な感情が湧かない。

 商隊への襲撃にはまだ参加していないし、人を殺すこともしていないからだろうか?


(人を殺す……か。俺にできるかな?)


 この世界に来てゴブリンを殺したときは、人間を殺したと勘違いして大いに動揺したものだが、あらためて人を殺すとなると本当にできるかどうか。

 しかし、戦闘になって人を殺せないなら、自分が殺される可能性が高くなる。

 ゴメスはああ言っていたが、人殺しをするぐらいなら自分が死ぬ……と言えるほど善人にもなれないのだから、殺すしかないのだろう。

 殺すしかない……。


(そのときになったら、ちゃんと動いてくれよ? 俺の躰……)


 祈るように手の平を眼前に移動させると、握り拳を作ったり開いたりしてみる。

 届く明かりは微かなので、ほとんど見えないが、手指は思うように動いてくれた。あとは『そのとき』を待つだけだ。


(それにしても……)


 俺って何なんだろうな……と、弘は改めて思う。

 漫画やラノベなら、こうやって異世界に飛ばされた奴は『勇者』とかになるんじゃないか?

 しかし、弘のステータス画面では『職業:不良』と表示されている。また、ゴメスの話では、この世界には勇者武具を基準とした『勇者選定システム』があるらしい。


(じゃあ、俺がこの世界に飛ばされた意味ってなんだ?)


 なにか役割でもあるのか? その役割があったとして自分は、それに従わなければならないのだろうか? 


(勝手に呼びつけられて、相手の言うがままに動くってのは、どうにも業腹だな)


 だとしたら正義っぽい勇者とは逆な方向で動いてみるか? 例えば、この能力を鍛え上げて悪の限りを尽くすとか……。


(好き放題して、金も女も食い物も……へへへ)


 贅沢三昧、酒池肉林。

 あこがれる展開ではあったが、そういう悪事を働く者が、こういったゲームみたいな世界で、どういう役割を最終的に演じることになるか。

 弘は、よく理解していた。


(この世界の勇者って奴が居たら、イベント戦みたいな感じでやられて終わっちまいそうだしな)


 う~……む。

 暫く考えてみたが、やはり悪人稼業は割に合わないと弘は判断した。

 そもそも、こっちの世界では悪事を働いて捕まったら高い確率で死亡エンドなのだ。


(山賊なんてのが居るぐらいだから、治安の程度が知れてるし、そうそう捕まるこたないと思うけどなぁ……)


 やはり、現在の肩書き『職業:不良』とは別な方向で行動した方が良いだろう。


(な~に、村の用心棒とか、どっかの役場の警備隊とか。仕事なら幾らでもあるさ。なにせ俺は、族を出たら真っ当に働くつもりだったんだからな)


 まずは悪事から足を洗おう。ゴメスの言うことは正しい。

 ならば、ゴメスらに酒を飲む口実ってのを提供してもいいかもな……などと考えているうちに、弘は眠気を覚えて目を綴じた。


(ふあ……あふ、もう寝るか。なあに考える時間は幾らだってあるさ。明日や明後日だって……)


 グウ……。

 弘は寝入ってしまった。

 考える時間は明日や明後日だってある。

 しかし、山賊団構成員としての弘の生活は、この翌日で終了するのだった。


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