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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第5章 闘技場の都市へ!
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第七十六話 控え室にて

 ディオスク闘技場、控え室。

 弘が戻ったのは幾つかある控え室の一つで、人間と小型モンスターの共同部屋だった。小型と言ってもミノタウロス程度なら、普通に立って動けるぐらい天井が高く、扉等もそれに合わせて大きなものになっている。

 一方で、ヒドラなど大型のモンスターには別の大きな控え室……いや、鉄格子等で区切られた区画が設けられているとのこと。

 そうして、それぞれが専用の入場口から闘技場へ入場するのだ。


(試合前も思ったけど、マジで異世界って気がするぜ……)


 人間の戦士が男女同室なのはともかく、狼獣人や、竜人、リザードマンなどが居て、ミノタウロス等も居る。こういうカオスな状況こそが異世界であり、またファンタジーだと弘に印象づけるのだ。

 さて、控え室に戻った弘であったが、特にすることはない。

 荷物一式はアイテム欄収納しているから、持って帰るものも無いし、汗を拭きたくなったら、こっそりアイテム取り出ししたタオルで拭けば良いのだ。

 では、この控え室にいる理由は何なのか?

 闘技場から戻って控え室に戻らず素通りしたのでは不自然かな……と思っただけに過ぎない。だから、一息ついたらすぐに出ようとしたのだが……。


「おう、オメー。バイケンの牛野郎をボコボコにしたんだってな?」


 闘技者の1人に絡まれてしまった。

 ベンチに座っていた弘が見上げると……そこに居たのはミノタウロスほどではないが、人間の基準で言えばかなりの大男。


(俺より、頭三つ分ほどデカいな……)


 ただし、その頭部は人間のモノではなかった。

 一言で言えば、タコが肩の上に乗っている。


(タコ獣人? タコってケダモノだっけ?)


 海洋棲の軟体生物なのだが、弘にとっては『魚ではない海の生き物』程度の認識でしかない。


(食って美味けりゃ、それでいいしな)


 で、そのタコ獣人……もとい、タコ亜人が何の用なのだろうか?


「あ? ああ、なんてーか試合中に喧嘩売られちまった感じで。マズかったかな?」 


 タコの顔を見ても年齢が判断できないので、弘は当たり障りのない態度で応じた。するとタコ人が笑い出す。


「ばはははは! 喧嘩? あの口から血を吹かれたアレか? アレは怒っていいだろ? なあ、みんな?」


 タコ亜人が周囲を見回すと、室内に居る闘技者達は亜人も人も、皆が頷いた。


(ん~? よくもバイケンをボコボコにしてくれたなぁ! 的に絡まれてるんじゃないのか?)


 思ってた展開と違うので弘が不思議そうにしていると、タコ人が肩に手を置いた。と言っても、体格差から掌サイズも段違いなので、その大部分は肩からはみ出しているのだが。


「おっと名乗るのを忘れてたな。俺はオクト人のクラーク。この闘技場じゃあ古株だ。よろしくな?」


 その後、他の闘技者達も弘に挨拶してきたので、弘の戸惑いは大きくなる。


「ん? どうした?」


 タコ頭を揺らすクラークに、弘は先ほどの疑問を述べてみた。

 バイケンは人気選手のはずだが、その彼を倒した弘に文句はないのだろうか。

 するとクラーク達は一斉に笑い出す。


「いいんだよ。バイケンの奴は客受けは良かったが、闘技者を無駄に殺すんで俺らの間じゃ嫌われもんだし。それにまあ、死んだわけでもないしな」


(なるほど。鼻つまみ者ってわけか。まあ……あの性格じゃあなぁ)  


 弘自身、暴走族出身であり、相手を煽ったり馬鹿にしたりと言った言動は多い。バイケンの言動自体は、その辺のチンピラと変わりないと思うが……まあ、嫌味に感じたのも確かだ。


「しかし、お前さん。闘技場の人気選手を倒したとあっちゃあ、残りの9試合が大変だぜ?」


「え? なんかあるのか?」


 クラークによると、人気者に勝った闘技者は客から注目されるため、闘技場運営の意向でより強い相手と戦わされたりするらしい。 


「今までの傾向からすると、勝つたびに次の対戦相手が強くなっていったりするわけだな」 


「……強い奴と戦うってのは(経験値稼ぎの都合上)望むところなんだが……」


 気になるのは、人気闘技者であるバイケンよりも強い闘技者が、あと9人も存在するのか? ということ。

 そこをクラークに聞いたところ、彼は「そんなには居ない」と答えた。


「バイケンは確かに強いが、客受けするパフォーマンスが得意な奴なんだ。他にも似た奴タイプは居るが……純粋に奴より強いとなると」 


 巨大な蛇の頭部に人間女性の上半身が生えている、サーペンター。

 鋼鉄に近い硬度の皮膚で身を固めた、アーマーライノス。

 と、他に何体かの闘技者を挙げ、最後にクラークが言ったのが……。


「レッサードラゴンのクロム。この闘技場で最強と言えば奴だな。もちろん、無敗だ」


「おー、おう……ドラゴンかぁ……」


 ベンチに腰掛けたままの弘は、さすがに呻いた。

 ファンタジーな異世界に来たのだから、そのうちドラゴンについても見聞きすると思っていたが、まさか戦うかも知れないとは……。


(レッサードラゴン。レッサー……ってのはゲームじゃあ『劣る』とか、そんな意味だっけ?)


 どちらかと言えば『小型の種の』という意味合いである。そこまで知らない弘は、ドラゴンの中でも比較的弱い部類だろうと考えた。


(ゲームや小説じゃあ口が利けないっぽいが、そのクロムって奴はどうなんだろうな? イメージ的には飛べないドラゴンって感じだけどよ)


 クラークに確認してみると、翼のないドラゴンで、主に四足歩行。火を吹く上に人語を解するとのこと。

やはり強敵のようだと、弘は思う。

 オオトッケイヤモリなんかと同じように考えていては駄目だ。試合する場合、最初から全力で戦うしかないだろう。


「なるほどなぁ。勉強になったぜ! ありがとうな!」


 人気者を倒せば注目されるし、組まれる試合カードも厳しくなる。

 それがわかっただけでも収穫だし、そういうことを教えてくれる闘技者が居ること自体が嬉しい。

 この異世界で、またイイ奴に出会えた! と、上機嫌になった弘は、クラーク達に手を振ると闘技者控え室を出た。向かう先は、闘技所総務課。闘技者に対する賞金の支払いを担当する課室である。



◇◇◇◇



「行ったか?」


 クラークが触椀を揺らしながら言うと、扉近くにいた人族の闘技者が頷く。


「行ったみたいだ。あの若い奴、嬉しそうに出て行ったけど。あの様子じゃ、わかってないんだろうな?」


「ああ。大番狂わせをやらかした新人は、運営から睨まれる。さっきの話に嘘はないが、明日から第一試合が続くだろうな……」 


 つまり人気闘技者の引き立て役として、第一試合の出場ばかりになるのだ。

 こうなると得をするのが、クラーク達、その他の闘技者である。

 弘は別にして、大抵の闘技者はわざわざ強い相手と戦いたいと思わない。できれば同じくらいか、より弱い相手と当たって勝ちを収め、賞金を手にしたいのだ。


「あのヒロシって奴が、第一試合の生け贄を務めてくれれば、俺達は例え一日でも楽できるってもんさ」


 クラークがそう言って話をしめると、他の者達は「そだそだ!」と声をあげて同意を示す。そうして弘の話題が終わろうとしたところで、別の闘技者……リザードマンが発言した。


「でもよ? ヒロシって奴、残りの9試合を連勝しちまうってことは……ないよな?」


 それを聞いて皆の視線がリザードマンに集中したが、一呼吸置いてから控え室が爆笑で満たされる。

 皆が言うには、まずあり得ないとのこと。

 明日以降の試合を連勝で勝ち進んだとしたら、クラークが弘に言った3強と何処かで試合が組まれるはず。サーペーンターやアーマーライノス。この2者が負ける姿が、室内の闘技者らには思い浮かばないのだ。もちろんレッサードラゴンのクロムが負けることもあり得ない。


「それになぁ……」


 リザードマンを振り返ったクラークが、肩をすくめながら言う。


「この闘技場。オーナーの『取っておき』が居るらしいんだ」


 オーナーの取っておき。 

 それは噂で知られるだけで、闘技実績どころか誰も姿を見たことすらないというものだ。

 今日では存在自体が疑われているが、クラークは『取っておき』の存在を信じている。


「いや、前にオーナーがな? 『いざというときには奴が居るから』って言ったんだ」


 そのとき、クラークは「奴って誰です?」と聞いたが、オーナーは笑って答えてくれなかった。


「まかり間違ってクロムに勝ったりしたら、その『取っておき』が出てくるかもな」


 そう言ってクラークは荷物をまとめだしたが、他の闘技者は半信半疑だった。



◇◇◇◇



 クラーク達の思惑など知るよしもない弘。

 彼は賞金を手にすると、ホクホク顔で闘技場を後にした。

 手にした賞金は、なんと銀貨で30枚。

 沼地の巨人を倒すギルド依頼、あれで得た報酬と同額である。


(ミノ公一匹にヤキ入れただけで、この大金かよ。聞いた話じゃあ、闘技者が自分に賭けてもいいってことだ。明日の試合からは、自分に全額賭けていくぜ!)


 そうして10試合目まで勝ったら、大した金額になること疑いない。

 負けたらたいがいは死ぬのだが、その辺の心配を弘はしていなかった。

命を賭する覚悟があるのか? いや、違う。


(まあ、なんとかなるだろ?)


 程度にしか考えていないのである。

 一歩間違えば命を落とすというのに、軽薄この上ないが……異世界へ飛ばされてから今日まで、モンスターに襲われたり、村人を殲滅したり、幾つかの依頼を遂行したりいるうち、弘にはある種の度胸が備わったらしい。

 言うなれば、この世界の人間として、冒険者として生きて死ぬ……という覚悟のようなものだ。

 もっとも、これは本人が自覚しているわけではなく、あらためて他人から覚悟を問われたとき、弘は「いやいやいや、そんな御大層な覚悟とか、俺にはねーから!」と否定することだろう。

 これをギルド本部の魔法使いジュードや、クロニウス支部長のアランあたりが聞けば「身体で覚えた覚悟というのは、得てしてそういったものだ」と言った……かも知れない。

 ともあれ、再びやってきました金持ち気分。

 弘は闘技場近くの飲食店に入ると、価格の高い料理を昼食として選ぶのだった。


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