第七話 仲間の死と能力調査
「……ん?」
弘は考え事を中断した。
正面の草むらがガサリと鳴ったのだ。
粗末ではあるが、そこそこ実用に耐える槍を構え……弘は誰何する。
「誰だ?」
「おお、いい感じだぜ。感心感心」
言いつつ出てきたのはゴメスだった。同行していた仲間達も、次々に姿を現す。
どうやら出稼ぎから戻ってきたらしい。
ゴメスは、不意の物音に素早く反応し、成すべき事を成そうとした弘の行動を褒めているのだ。その点については嬉しく思うし、面はゆい気持ちであったが、弘はあることに気づいた。
ゴメスと出かけた仲間が、2人足らないのである。
弘がゴメスや他の者に視線を向けると、皆が気まずそうに目を逸らした。
そして、ゴメスが口を開く。
「商隊の護衛が強くてな。モリソンとラッドが殺られた。いい奴らだったが……俺ら、山賊だものな」
そういう死に方で普通。捕縛されれば、なぶり殺しにされるか公開処刑。
ゴメスは弘の肩を叩くと、そのまま洞窟の奥へと入って行った。同行した者達も疲れた表情で後に続く。
「死んだ……のか」
この世界で生きていくことを思い立ち、決意をしたばかりの弘にとって、まさに冷水を浴びせかけられるようなできごとだった。
モリソンは大柄な力自慢で、気の優しい男だった。雇われていた牧場の主にいびられ、刺し殺した末に逃げ出して山賊になったと言う。ラッドは細身のキザな男で、弘は最初は気に入らなかったが、キザぶるのが好きなだけのイイ奴だと理解してからは、何かと話すことが多かった。
「力仕事なら任せてくれ。俺の取り柄は、それくらいだからよ」
「俺はな、いつか大金を手にして、町の奴らを見返してやるんだ。女だって選り取り見取り……ってな」
モリソンとラッドの声が、頭の中で再生される。
彼らとは、もう会えない。
暴走族時代、仲間がバイク事故で死んだことがあったが、そのときも同じように「もう会えない」と思った。
そして泣いた。声を出すことなく、ただひたすらに涙を流した。
今の自分はどうだろうか? モリソンもラッドも、ほんの一ヶ月と少しの付き合いだ。
弘は自分の頬に、空いてる手を当てた。
頬は……涙で濡れていた。
モリソンとラッドの死から数日が経過した。
夕方まで小一時間ほどの休憩を貰った弘は、ステータス画面等の調査を続けている。
2人の死は悲しいことだが、いつまでも塞ぎ込んではいられない。
この世界で上手く立ち回っていくため、自分には何ができるのか? そこを把握する必要があるのだ。「ん? こいつは……」
新たな収穫は、ヘルプ画面のようなものを発見したこと。
その画面を利用して召喚画面にある鉄のメリケンサックを調べたところ、次のように説明文が表示された。
鉄のメリケンサック
鉄製のメリケンサック。両手に自動装着することでパンチ力を増幅させる。
とのことだ。
さらに、召喚についても説明文を発見した。
<召喚>
・貴方が愛好した物(あるいは、よく知った物)を、擬似的に実体化できる能力。
・実際に所持使用した経験については関係がない。
・機械類はある程度の分解が可能だが、召喚可能時間を過ぎると消滅する。
・召喚品目によっては、身体から離すと即座に消滅するものがある。
・召喚時間はレベルアップと共に長くなり、消費MPは低減する。ただし個体差がある。
・召喚物によっては、実在品に特殊能力が加わることがある。
・召喚品目をに連続タッチすると、別窓が開き、過去に召喚可能となった同系列品目を閲覧できる。
・過去の同系列品目も召喚は可能であるが、消費MPは最新品目と同じ。
・複数品目をグループ登録することにより、1回の召喚で同時装着が可能。消費MPは若干低減される。
ものは試しと「鉄のメリケンサック」を連打したところ、確かに別窓が開き、ヒノキのメリケンサック、樫の木のメリケンサック、プラスチックのメリケンサックなどが表示された。
「ああ、マジでゲームだ」
この世界に来てから何度となく抱いた感想を、弘は呟く。
アイテム所持能力だけでも便利に思うのだが、この召喚能力も便利が過ぎる。
(万能って程じゃあないけどな。丸腰状態から瞬時に完全武装状態……ってことも将来的に可能なら、やっぱし便利だわ)
ただ、これら能力を見ていると、ふと思うこともあった。
なぜ、普通の魔法とかではないのだろうか?
山賊仲間に聞くと、王国では高い授業料の魔法学校があって、魔法使いの養成が進められている。魔法使い達は優れた知識もさることながら、火の球や電撃を放ち、戦闘でも大きな力となるのだ。
MP、マジックポイントがステータス画面にあるのなら、そういう魔法が使えても良いのではないだろうか?
そういったことを考えていると、仲間の1人が声を掛けてきた。
「よう、ヒロシ。晩飯のモンスターでも狩りに行こうぜ?」
「うっす! 了解っす。お付き合います!」
そう返事をしたヒロシはステータス画面を消すと、手に馴染んできた槍を持って洞窟を出るのだった。
更に数日が経過する。
狩りに出だした頃の弘は、お世辞にも使い物になるとは言えなかった。
向かってくる狸のようなモンスターを取り逃がしたり、数メートル先の鹿っぽい動物に槍を投じて、ものの見事に外したことがある。それも何回もだ。
が、それを継続すること数日。弘は、早くもモンスター達の動きについて行けるようになっていた。
(俺って、そんなに運動神経が良かったっけ?)
悪くはない方だとは自分でも思うが、このところの上達速度は異常だ。いや、急に超人化したわけではなく、自分で気がつく程度に少しずつ上達しているのだ。
その日の狩りからの帰り、そういえば……と、弘はステータス画面を開いてみた。
名前:沢渡 弘
レベル:5
職業 :不良
力:28
知力:13
賢明度:24
素早さ:28
耐久力:30
魅力:16
MP:20
レベルが2つ上昇していた。
(一昨日ぐらいにファンファーレを聞いてた気がするけど、2もレベルが上がってたのか)
忙しさと疲労により、ねぐらへ戻るなり眠りこけることが多かったので、つい確認を怠っていたのだ。
(うまく狩りができるようになったのは、素早さの上昇が影響してるのか? 昔のRPGだと『素早さ』と『器用さ』が兼用してるのがあった……っけ?)
何にせよ、戦うなり何かするなりしてレベルが上がれば、数値確認できる形で身体能力が向上するというのは大変よろしい。ゲーム的に面白いというのもあるが、鍛えがいもある。なぜなら、今のところは……であるが、レベルアップの概念があるのは弘だけらしいからだ。
そうなると、鍛えたら鍛えただけ強くなるというのは、この世界を生き抜くことにおいては大きなアドバンテージではないだろうか?
(……怠けてダラダラしてたら、レベルが下がったりする仕様だと嫌だなぁ……)
と、ここで洞窟通路の前から仲間が歩いてきた。
「おう、ヒロシ! 今日は狩りで獲物を仕留めたんだってな! この調子で頼むぜ!」
「うっす、先輩! 頑張ります!」
親ほどの歳の男に、弘は元気よく挨拶をする。
こう見えて弘は礼儀正しい。と言うよりも上下関係に割と忠実だ。
前にも述べたが、暴走族時代に先輩後輩の上下関係を叩き込まれているため、その心構えは社会に出て……もとい、出ようとしている間も役に立ち続けていた。
(もっともツラの刃物傷のせいで、何処も長続きしなかったんだけどな)
ヘッと、自嘲気味に笑う。
だがしかし、山賊集団の中では顔傷が問題にならないため、弘の体育会系的な礼儀正しさは有効に働いていた。見慣れない顔つきに、見慣れない服装(葬儀場の警備員服)。
そして、この世界の常識に疎い様子の弘を、最初は皆が胡散臭そうに見ていたのだが、今ではすっかり仲間として馴染んでいたのである。
「どっこらせ……と」
洞窟内であてがわれた一画(まだ個室的な窪みや横穴を使わせて貰えない)に座り込むと、弘は通りすがる仲間に挨拶などしながら召喚画面をチェックした。
(召喚できる品目が増えてる!)
その内訳は、こうだ。
・ヒノキの警棒 攻撃力+3 消費MP5
(あん? MP消費は鉄のメリケンサックと同じなのに、攻撃力は下がってんのか?)
暫く考え込んだ弘は、ああ……と納得した。
素材的には鉄より劣るヒノキだが、そのリーチにおいてメリケンサックより有利なのだろう。だから威力は下なのに、消費MPは同じなのだ。
(射程距離の性能も消費MPに反映するとか、中々やるな……)
ゲームシステムの細かさに感心する。
が、自分の知ってるゲーム知識は古いからな……と付け加えることも忘れない。
今時のゲームなら、これぐらいのシステムは普通にあるのだろう。
普通、モリソンとラッドのようなエピソードをやるには、その前に弘と死亡予定キャラを絡ませるべきだと思うのですが。展開がダレそうなので割愛しました。結果的に、付き合いの短い山賊の死にも涙できる弘……が表現できた気がするのですが……。そういうのを、もっと上手に書けるように頑張りたいと思います。




