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異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第4章 他パーティーにて研修中!
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第五十九話 気になるあいつ

「なぁに? ヒロシのことが気になるの?」


 ウルスラが隣で座るジュディスの肩を、自分の肩でつつく。

 ジュディスは弘が階段を上っていく様子を目で追っていたのだが、それをウルスラに目撃されたらしい。


「き、気になるって言うか、その……ヒロシ、気分が優れないのかなぁ~……って」


「なるほど、なるほど。初めて顔を合わせた頃は、カレン様に付きまとう野良犬みたいに扱ってたのに。そういう風に気遣えるようになるなんて……男女の仲って不思議~♪」


 顔横で手を組みながらクネクネ身をよじる姿は、傍目にかなり色っぽい。色っぽいのだが、絡まれてるジュディスにしてみればイラッと来るものでしかなかった。


「また、そうやって……う、ウルスラの方はどうなのよ?」


「どうって、なにがぁ?」


 エール酒の入ったジョッキを片手に、ウルスラはニヤニヤしている。


(……本当に僧職者なのか、疑いたくなるわ)


 付き合いの長い仲間に対し、そんな疑問を感じるジュディスであったが、隣のテーブルで居るサイードが苦虫を噛み潰したような顔でウルスラを見ているので、思わず吹きだした。


「サイードが睨んでるわよ? やっぱり僧職としては羽目を外しすぎじゃないの?」


「い~の、い~の。商いの神は仰ったわ。汝、酒を商うには酒を楽しむべし……と」


「あんた……お酒で金儲けする気?」


 商いの神の僧侶には、個人的に商売をすることが許されている。

 ウルスラが言うと冗談に聞こえないが、「や~だ。冗談よぉ」と本人が言うので冗談なのだろう。


「だって僧職のまま商いしたら、儲けの何割かは寄進しなくちゃいけないんだもの。本当は進んでやるものなんだけど、教義上決まっちゃってるのよね~……嫌になっちゃう」


「うわ、酒の場とはいえ自分とこの教義に文句言ってるし……いや、そうじゃなくてヒロシの話よ」


 コトン。


 ウルスラがジョッキーを置き、テーブル上で頬杖を突いた。


「パーティー内で惚れた腫れたの話ってどうかと思うんだけど……ヒロシねぇ?」


 いつの間にか、他のメンバーもウルスラに注目している。

 ラスはニヤニヤしているし、ターニャはハラハラ顔。

 サイードとメルについては、そこそこ興味があるようだ。

 ノーマは無関心を装っているように見えて、チラチラ視線を送ってきているのをジュディスは見逃さなかった。

 当然ながらウルスラも気がついているはずだが、彼女は気にすることなく言う。


「うん。なかなかイイ感じだと思うわよ? 付き合うのも悪くないかも」 


「えっ?」


 目が点になったジュディスは、おお! と声をあげるラスを一睨みして黙らせ、左隣のウルスラに顔を寄せた。


「ヒロシの何処が良いわけ?」


「妙に義理堅くて、けっこう強くて、頼りになるところ。あと武器を召喚する能力とか面白いし~……敢えて理由を付けるなら、そんなところかしらね」


 よどみなく言うのでジュディスは口をパクパクさせる。


(ぐ~……文句をつけられない~)


 ウルスラが言ったことは、ジュディスもまったく同感だったからだ。

 敢えて理由を付けるなら……とウルスラは言ったが、この『敢えて理由を付ける』の部分もジュディスには感じるものがある。


(人を気に入るとか好きになるとかに、理由は要らないってことかしら……ま、当たり前のことなんだけど) 


「でもぉ~」


 考え込むジュディスにウルスラが微笑みかけた。


「私なんかより、ジュディスの方が御執心じゃないの?」


「べ、別にアタシは……」


そこで言葉が詰まり、ジュディスは黙り込むのだった。

 


◇◇◇◇



「うちの支部に連絡に来た男? ああ、ヒロシとか言う……」


 支部長室でジュードと話すアランは、それまでの話題……レクト村壊滅事件とはまるで違う話を振られて首を傾げる。


「あの若者、何もないところから電撃付与の棍棒を出しておった。魔法効果を付与した武器というのは、まあ珍しくはあるが……」


「私も持っているくらいですから。大騒ぎするほどではないですね」


 アランが所持しているのは、炎の精霊を宿したバスタードソードだ。

 ある程度の昔から、そこそこ広い地域で知られた武器……という意味では伝説の剣と言っていい。だが、格やレベルで言うなら勇者武具には大きく劣る。また、金銭価値で言えば砦一つの建設費用ぐらいのものだ。

 アランの場合、この剣に関しては冒険者稼業で得た財宝類で購入している。目が飛び出るほどの大金ではあったが、何とか費用捻出したのだった。


「とある金持ちが死蔵しかけてた魔法剣でして。少し強引だったかもしれませんが……まあ、とにかく無理して買ったんですよ。でも、今の話しぶりだと彼の武器って、そういうのじゃなさそうですね?」 


「当人から詳しく聞いたわけではないが、儂が見たところ……召喚魔法に似た雰囲気であったな……」


「召喚って言ったらアレですか? 杖の先でゴリゴリ削って地面に魔方陣を描いて、魔獣とかを呼び出す……」


 アランは腕を組んで暫し考え込み、それからジュードを見た。


「凄腕の召喚術士は、魔力で空中に魔方陣を描くこともできるそうですが。彼……ヒロシは、そういうことをしてた様には見えませんでしたね」


「それも別所から獣や精霊を呼び出すのではなく、武具召喚じゃからな。……あるいは、ああいった武具をどうにか隠し持っていて、必要に応じて取り出しておるのかも……」


 ジュードが推察するが、微妙にズレている。

 しかし、武具類を見えないように持ち歩き、必要に応じて取り出すというのなら、弘には『アイテム欄収納』という能力があるのだ。

 推察自体は外れたものの、別の能力にはジュードは行き着いたのである。


「考えれば考えるほど興味深いのぉ。……そう言えば、彼の冒険者登録申請書。アレを見れば何かわかるかもしれんな? ここには登録一覧とか回ってきておるんじゃろ?」


「そうですね。確か彼は、この支部で登録したはず……受付の娘達は勤務明けで帰っていますが。夜勤で誰か残ってるでしょう。ちょっと書棚を探してきましょう」


 そう言って席を立ったアランを、ジュードは呆れ顔で見た。


「なんじゃい? 自分のとこの登録冒険者じゃったのか。なんで支部長のお主が詳しく知らんのじゃ?」


「総務課長決裁なので、私のところまで書類が回ってこないんですよ」


 暫くたって渡されるのは登録後の一覧表だし、日頃は忙しすぎるから、あんまり目を通せないし……等、愚痴を言い残して支部長室を出たアランは、数分ほどで書類を一枚持って戻ってきた。

 ソファに腰を下ろした彼が差し出した書類……冒険者登録申請書を見て、ジュードは唸る。


「召喚戦士? 聞いたことがない肩書きじゃの?」


「ええ、何か変わったことでも書いてないかと思ったんですが。いきなり気になるのが出てきましたね」


 召喚戦士。

 字面からすると何かを呼び出すことのできる戦士なのか?

 あるいは誰かに召喚された事実をもって肩書きにしているのか?

 魔法使いのジュードと戦士のアランがいて、2人共が冒険者ギルドの関係者と来れば、戦闘獣を呼び出したりするタイプの術士を連想するのだが……。


「彼の場合、例の妙な魔法武器を呼び出す能力者……と思って良さそうですね」


「うむ。これは修行して身につく類の……例えば魔法などとは別物と思った方が良いのぉ」


 この場に弘が同席していたとしたら、登録職種を『召喚戦士』にしたことを激しく後悔したはずだ。そして、手の内が明かされていくことに驚き、2人の洞察力や観察力について感心したに違いない。ついでに言えば、異世界転移者……すなわち国籍不詳の不法入国者であるから、2人の立場を考えたところで顔から血の気が引いたことだろう。

 幸いにしてジュード達は、弘の『異世界転移事情』まで想像が及ばなかったため、現時点、彼らにとっての弘は『ちょっと珍しい能力者』でしかなかった。


「件の魔法生物については早急に対処すべきで、油断ならぬ事件じゃが……それとは別に面白いことに出会えたのぉ。ホッホッホッ」


 笑うジュードを見て、アランは渋い顔になる。

 見込みのあるギルド構成員が、面倒な人に目を着けられた……と思ったのだ。


(俺も若手時代は、この爺様から無茶振りされて酷い目にあったものなぁ)


 ヒロシ・サワタリが何者かは定かではないが、ジュードに関わって苦労するであろう点について、アランは深く同情するのであった。


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