↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から来た不良召喚術士  作者: 平位太郎
第4章 他パーティーにて研修中!
53/197

第五十三話 ギルドの偉い人

 

 夜明けた頃に、2人はクロニウスへ到着している。

 自転車移動であることを考えてもかなり早いが、途中で見かけたモンスターは全てスルーし、一度小休止した以外はずっと走り続けた結果だ。


「と、到着したか……」


 さすがに疲れ果てた弘はハンドル上に突っ伏するが、荷台から飛び降りたジュディスも尻が痛いのか手で擦っている。途中で取り乱されたときはどうなるかと思ったが、今は落ち着いているようだ。 


「座席じゃなくて荷台だそうだけど、お尻が痛いったらないわねぇ……」


(うむ。女子高生ぐらいの女が、自分でケツ揉んでる姿ってな見てていいもんだぜ)


 弘の疲労やジュディスの尻痛は、自転車の乗り心地補正(?)の限度を超えて乗車を続けたせいだと、弘は睨んでいた。


(俺に関しちゃ、体力切れもあるだろーけどな。上昇したステータス値でも無理があったってことか……しかし、ケツ柔らかそーだな)


「なに見てんのよ?」


 暫く両手で尻を揉んでいたジュディスは、弘が横目で見ているのに気づき軽く睨む。

 さっきみたいに怒りだすか!? と身構えた弘であったが、ジュディスから飛んできたのは怒声ではなく、鼻を鳴らす音だった。


「まったくもう……これから冒険者ギルドへ行って、レクト村のことを説明するんだから。鼻の下……いえ、まあいいわ。早く行きましょ」


「え? あ、おい、待てよ」


 言うなりジュディスが歩き出すので、弘は彼女に着いて歩き出した。

 この時、ジュディスは大いに赤面していたが、まだ薄暗いので顔色までは判別できない。


(あ~う~……頬が熱いのマズいわ。ギルドに着くまでに冷まさないと。さっき取り乱しちゃったけど……ヒロシ、どう思ってるのかしら?)


 どう思ってるもなにも、尻揉んでる姿を見てニヤニヤしていたぐらいなので、大して気にはとめていない。

 ちなみにママチャリは、数歩離れた時点で自動消滅している。奇怪な物体が瞬時に消滅したのを見て門兵が驚いているが、そんなことを気にしている場合ではない。

 さて、ジュディスから報告を受けた冒険者ギルド・クロニウス支部は、文字どおり上を下への大騒ぎとなった。

 何しろギルド依頼を受注した冒険者が、村を一つ壊滅させたのである。

 これが冒険者の悪事によって引き起こされたのなら、ギルドにとっては重大な信用失墜行為だ。その場合、冒険者達……ムーンとジュディスのパーティーを吊し上げることとなる。

 そうすることで、ギルドへの風当たりを少しでも和らげようという狙いもあるだろう。

 ただし、報告によれば派遣冒険者らは事件に巻き込まれただけであり、正体不明の蜘蛛により村人が支配されていたとのこと。

 これだけなら「なんだ? うちに落ち度はないじゃないか?」と思う、あるいは思いたいところだが、その情報が問題をややこしくしているのだ。

 レクト村の事件で件の蜘蛛が全滅していれば、それでいい。

 しかし、全滅していない場合。当初、八本足のヒグマが出没したとされる他村にも蜘蛛が居るかもしれない。出没時に、小蜘蛛をバラまいている可能性があるからだ。そうなると連想されるのは、類似事件の発生である。

 いったい何処から手をつければ良いものか?

 そうだ。まずは蜘蛛云々の話が本当かどうか、そこを調べよう……という話になり、原因究明の動きは、王都のギルド本部にまで波及することとなる。

 ここまでの大事件になると、クロニウス支部だけでは裁ききれないからだ。


「で、王都ギルドから精霊通信で返事がくるまで、俺達は軟禁されてるってわけか……」


 クロニウス支部2階の宿泊室、その室内寝台で仰向けになりながら弘がぼやく。

 軟禁と言うより支部待機を強く要請されて、それに大人しく従った……というのが実際のところだ。男女別に一室ずつあてがう程度の気遣いはしてくれたようで、ジュディスは隣の部屋にいる。


「……一服やりたいなぁ……」


 こういう時にこそニコチン補給をしたいが、この世界でのタバコは貴族の占有物だ。


(いや! この国だけの話かもしれんから、別な国じゃ普通に流通してるかもだけどな……)


 例えばサイードの祖国あたりはどうだろう? この次にサイードと会ったら聞いてみてもいいかもしれない。


(でも、遠い国だって言ってたし。手に入っても、この国では吸えないんだよな~。学生じゃあるまいし、隠れて吸うとか……いや、それはそれでタバコが美味いかも?) 


 ならば、とにかく入手してしまえば、あとは吸うだけだ。

 今もゴメス山賊団が存続していたなら、貴族関係の荷を運ぶ商隊を襲撃し、タバコを入手していたかもしれないが……。


「まあ、もしも……な話だよなぁ。はあ……ウルスラ達、どうしてるかな……」


 とりとめもない考えを中断した弘は、硬い木製寝台上で寝返りを打ち、レクト村で帰りを待っている仲間達を思い浮かべた。

 和風美人で商益優先な尼僧のウルスラ。

 気が弱いくせに、魔法の話題になると食いつきの良いターニャ。

 クールな元盗賊の偵察士ノーマ。

 ちゃらくて軟派野郎だが、やるときはやる戦士ラス。

 気さくで陽気な、アラブ系っぽい僧侶サイード。

 博識で冷静沈着、両パーティーで最年長の魔法使いメル。

 ムーンパーティーのリーダーで、実力経験共に豊富な戦士ムーン。

 そして現在、行動を共にしている女戦士ジュディスだ。

 両パーティーのメンバーらとは長い付き合いではないが、共に戦った今では大切な人々という認識になっている。


(山賊時代の仲間は誰1人として助けられなかったけど、今度は上手くやらなくちゃなぁ)


 だが、何をどう具体的に上手くやるべきなのだろうか?

 さっぱりわからない。

 わからないまま睡魔にとらわれた弘は、そのまま眠りにつくのだった。



◇◇◇



 そして夕方になった頃。

 宿泊室の扉を叩かれたことで弘は目を覚ました。


「ヒロシ~? 寝てるの~?」  


 どうやらノックしているのはジュディスらしい。

 弘は寝台から下りて立ち上がると、腕を伸ばしながら背伸びをした。

 

 ばきぼきばき。


 肩や腰、背中で関節の鳴る音がする。やはり木製寝台は身体に良くないようだ。


(寝具も敷かずに寝ちまったものなぁ)


「ヒロシ~?」


「ああ、悪いな。いま行くから」 


 頭をボリボリ掻きながら扉を開けると、そこにジュディスが居た。

 そのすぐ後ろに完全武装の男性戦士が2人と、口髭を生やした中年男性……こちらも板金鎧装着で、剣を腰に下げているから戦士なのだろう。ただし、他の2人と比べて『強そうオーラ』が凄い。


(難しく言うと威圧感ってやつだな)


 そして、中年戦士の斜め後ろに老人男性が立っていた。

 ローブ着用で、上部が歪んだフック状になった杖を持っている。見たままの印象だが、魔法使いのようだ。


「あのね? この人達がね、お話があるんだって」


 ジュディスが借りてきた猫のように大人しくなっている。

 それを見た弘が「俺の知らないジュディスだ」などと思っていると、中年戦士が口を開いた。


「ヒロシ・サワタリだったな? 俺は冒険者ギルド、クロニウス支部の長……アラン・リッチマンだ。今回の一件についてはジュディスから聞いているが、王都本部の方が現地調査をしたいとのことだ」


「え? じゃあ、現地調査すればいいじゃん?」


 ジュディスが「ヒロシ、相手を見て話をして! 怒らせたら怖いのよ!」と小声で言うが、それを相手の目の前でやるものだから丸聞こえである。

 言われてアランを見ると、疲れ気味の管理職と言った雰囲気だが、その肉体は鍛え上げられたものだ。素人目にも強そうなのは理解できるが、例えばムーンと比べた場合、どちらの方が強いのかが弘にはわからない。


(レベルを上げていけば、そういうのが解るようになるか?)


 弘が考え込んでいると、アランの隣りに居た老魔法使いが笑う。


「うむ。その現地調査をするので、君らにもついて来て欲しいのじゃよ」


 腰までの白髪をオールバック風にし、首の後で縛った老魔法使いは実に人の良さそうな笑顔だ。彼は冒険者ギルド王都本部の課長であるとのこと。

 それがどれほど偉いのか? アランが言うには、支部長程度では太刀打ちできないほどだとか。


「このジュード・ロオさんはな、各支部への予算配当を決める会計課の課長さんなんだ。怒らせたら、来年度の予算を減らされるから気をつけてくれよ?」


 ジュディスの次は、アランが弘にささやきかけてきた。彼の場合は弘の脇へ移動し、耳元でささやくという念の入れっぷりだが、これまたジュードの前なので丸聞こえである。


「人聞きが悪いのぉ。儂ゃ、気分で予算を決めたことは一度もないわい。ただし、無駄遣いしたり、ろくでもないことをしでかした支部には……貧しい思いをして貰うかもしれんがのぉ」


 ホッホッホッと笑いながら、言い終わる頃には目が笑っていない。

 その視線を受けて縮こまるアランをよそに、ジュードはこの後の行動予定を説明した。

 まずジュードとアランに、弘とジュディスを加えた4人でレクト村へ移動する。無論、普通に陸路を使うのでは時間がもったいないので、ジュードの転移魔法により瞬間的に移動をするのだ。


「王都勤務の儂がのぉ、精霊通信を受けるなりクロニウス支部に来ておるのも、この転移魔法のおかげなのじゃよ。ほっほっほっ」


 自慢げに笑うのが鬱陶しい。言い方を変えれば、ウザい。

 しかし同時に、弘は「自慢もしたくなるだろうな」と思っていた。


(転移魔法ってのは、ゲームなんかだと高レベル魔法使いの使う呪文なんだけど。この爺さん、見た目どおりの高レベルってことか)


 そして彼の地位から考えると、転移魔法を使える実力者あたりが、この世界でのトップクラスと思って良さそうだ。


(強さイコール地位ってのが前提だけどな。でもまあ、上には上が居るもんだし。もうちょい斜め上ぐらいがトップクラスと思ってた方がいいのかもな)


 弘に値踏みされていると気づいているかは定かでないが、ジュードは変わらぬ態度で話し続けている。


「アランを連れて行くのは、クロニウス支部が関係する事件……それも大事件じゃからしてな。支部長が自ら確認する必要があると、そう思うたからじゃよ。そして君らを連れて行くのは、こう言ってはなんじゃが逃げられないように……じゃなぁ」 


 早い話が、容疑者を一纏めにしておきたいらしい。


「……それじゃ、あたし達が犯罪者みたいじゃない。なんだか凄く納得いかない……」


 ジュディスは、容疑者呼ばわりされて気分を害しているようだ。一方、弘は「そんなもんだろうな」と考えている。以前、警察署で似たような扱いを受けたときは、怒りゲージが瞬時に振り切って激昂したものだ。しかし、今の彼は暴走族を卒業している。そして、各企業の採用面接で蹴られ続けて培った忍耐力もあって、この程度は何てことないのだ。


(……いや、俺も我慢してるだけで気分は悪いけどな)


 ともあれ立場上、上の上のそのまた上の人物に無闇に噛みついても仕方ない……と考える程度の分別はあるので、弘は要求だけを述べることにした。


「ああ、そう。じゃあ、さっそく転移ってやつをして貰いたいな。村に残してきた仲間が心配だからよ」


 ふてぶてしく言う弘と、それを聞いて何度も頷くジュディス。

 その2人を見て眼を細めたジュードは弘を指差し、胃のあたりを擦っているアランに話しかけた。


「このヒロシ君の言うとおりじゃ。すぐに転移するとしよう。いいかね?」


「は、はい。問題ありません。お供します……」


 背筋を伸ばして言うアランの言葉に「あたし、荷物を取ってこなくちゃ!」とジュディスが駆け出す。残った3人の男性(アランと一緒に来た戦士2名を加えると5名)はジュディスの背を見送ったが、弘以外の4名が顔ごと視線を弘に向けた。  

 ……。


「……俺の荷物? そういや、そうか。ちょっと取ってくるっす」


 面白くもない話が一段落したので、少し敬語寄りの口調で言いつつ宿泊室へ駆け出す。

 そして木製寝台脇に置いてあった背負い袋や剣等を拾い上げ、ササッと装備してから弘は宿泊室を後にしようとした。


(手荷物か……今度から寝泊まりするときは、荷物一式をアイテム収納しておくか?)


 その方が身軽だし、寝入ってる最中に盗まれることもないだろう。

 問題点は、今のような状況になったとき「俺の荷物? ああ、俺なら気にしなくていいから」などと言って手ぶらで行動すると、変に注目されるということだ。


(寝る前にアイテム収納。目が覚めたらアイテム取り出し。そんな習慣を身につけた方がいいな……)


 そんなことを考えながら宿泊部屋を出ると、そこにはジュードとアラン、そして走って戻ってきたのか肩で息をしているジュディスの姿があった。

 そんな彼女をニコニコしながら見ていたジュードが、弘を見て言う。


「準備は終わったようじゃな? では行くとするかの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。