第四十九話 追い込まれる冒険者達
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・蜘蛛。サイズ小
・解析が阻害されています
(解析阻害……って、なんだそりゃ?)
どうやら弘の能力でも正体を調べることはできないらしい。この小蜘蛛、よほど特殊な生物なのだろうか?
弘は一瞬「調べてわからなかったことだし、対象物解析の能力まで知られたくないな……」と思ったものの、事態が事態なのでメルに説明することにした。
ある程度ぼかして説明したので、「何を馬鹿なことを言ってるんだ君は?」的なことを言われるかと不安だったが、メルはアッサリと聞き入れてくれる。
「にわかには信じがたい。だが、その武器を出す能力を見ればだ。君には他にも何かあるのだろう? ここは、ひとまず判断材料に組み込むべきだ」
メルは何度も頷くと、弘の肩に手を置いた。
「君は実に興味深い。今度色々と実験させてくれ」
「なんか人体実験されるみたいで嫌だな。てゆうか、今はジュディス達を助けなきゃ!」
「おお? おお、そうだな。よし……」
なにやら仲間達のことを忘れていたっぽいメルであったが、彼は予定どおりに通りを見回せるところまで行こうと提案する。それに同意した弘は、なるべく物音を立てないように家々の裏手を進むのだった。
◇ ◇
場面変わって村長宅。
ジュディス達は村人に押されていた。
1階だけでも正面玄関に、裏口。他には居間と厨房もあって、厨房には勝手口まである。
これらを破られまいとするのに、冒険者側は7人しかいないのだ。
ばき! バリバリバリ!
アチコチで窓や扉の破れる音が発生する。
そして破った隙間から差し込まれる、腕、腕、腕。
もしも弘が中に居たら、この光景を見て『ゾンビ映画』を連想したことだろう。
「くそ、この! 入ってくんな、馬鹿!」
悪態をつきながら剣を振り回しているのはラスだ。
彼が守っているのは裏口扉だったが、扉は既に引きはがされており、ソファなども押しのけられようとしている。
「んもう! 人間相手ってのは気分が悪くて……えっ?」
ラスの隣でいたジュディスは、ソファの隙間から頭を突っこんできた村人に斬りつけたが、そこで発生した光景に言葉をなくす。
叩き割られた額。そこから大量の小蜘蛛が涌きだしたのである。
じっくり観察する余裕があった弘とメルならば、それら湧き出た小蜘蛛は放置して問題ないと思うだろう。湧き出た直後に死滅する様を目撃しているからだ。だが、事情を知らないジュディスは悲鳴をあげて後退した。
「ひゃあああ!? 蜘蛛! 頭から蜘蛛がぁああ!」
「おい何やってんだ! 蜘蛛だってぇ? って、うわわ! ほんとだ!」
ラスも慌てて後退してくる。
そうして2人が同時に離れたことによって、裏口のバリケードは崩壊寸前となった。
ア~ウ~言いながら押し入ろうとする村人達を見て、2人は顔を見合わせる。
「なぁおい? ここはもう無理だと思うんだが~」
「同感。ウルスラとサイードを連れて広間へ戻りましょ!」
そう決めるなり、ジュディスとラスは踵を返して駆け出した。
途中に居間と厨房があるので、そこに居るであろうウルスラとサイードに声をかけ……。
ドバン!
勢いよく厨房の扉が開く。
出てきたのは……サイードだった。
「うぉわ! なんだ君らか!」
そこかしこを負傷しているようだが戦闘に支障はなさそうである。
「厨房は、もう駄目だ! 勝手口を破られて危うく殺されるところだった! ムーンのところへ行こう!」
言うなりサイードが駆け出す。
元々移動中だったジュディスとラスもすぐさま駆けだしたが、その左前方の扉が開くと今度はウルスラが飛び出してきた。
と言ってもサイードのように駆けだしてきたわけではない。
転がるように出てきた彼女は、そのまま転倒して廊下の壁に激突する。そこへ、続いて姿を現した村人男性が襲いかかり……。
「うちの子に手ぇ出すな! 変態野郎!」
どげしっ!
駆け寄りざまジュディスが跳び蹴りをくらわせ、村人は広間方向へと吹っ飛んでいく。
そんなものには目もくれず、ジュディスはウルスラの腕を取った。
「大丈夫!? 広間に行くわよ!」
「え、ええ! でも、うちの子って……私の方が年上なのに……」
その声に誰も反応することなく、広間へなだれ込む。
広間は、もう少しなら頑張れそうな状況にあった。
何しろ玄関扉が破壊されていない。
ムーンは広間中を駆け回ってグレードソードを振り回し、窓や扉から伸びてくる腕を叩き斬っていた。そして、彼の手に余る村人に対しターニャが魔法の矢を飛ばしている。
「せいっ! でやぁ! ……むっ? ジュディス達か! どうした!」
ジュディスは受け持った場所はことごとく破られたことを報告した。なお、先程蹴飛ばした村人は、広間に入ると同時に始末している。
ムーンは頷くや「よし! 予定どおり2階に移動するぞ! 俺とジュディスは階段で時間を稼ぐ! 他のみんなは、先に上がってノーマと一緒にバリケードの準備をしてくれ!」と指示を出す。
それにより皆が階段へと殺到した。
後方で駆け上がっていく音が聞こえる中、ムーンは階段に陣取り、隣のジュディスに話しかける。
「十数人ほど、腕を使えなくしたと思うんだが……」
「あたしは、ラスと2人で7~8人やっつけたってとこかな?」
階段中程で居る2人の足元では、村人達が群れをなして呻き声をあげていた。先程、玄関扉の破られる音が聞こえたので、通りに居た者達も集まっているのだろう。
「ところで、村人の頭から蜘蛛が出てくるのを見たか? ヌン!」
飛びかかってきた村人をムーンが斬って捨てた。
その脇から手を伸ばしてきた村人女性の眉間に、ジュディスが剣を突き込む。
「見たわ。アレを見る限り、単なる村人の暴走じゃないみたいだけど……」
「今は生き残るのが先決か……って、うわっ!」
這いずって進んできた村人に足を掴まれ、ムーンが転倒した。すかさずジュディスがムーンに迫ろうとした数人に斬りつけて追い散らし、彼を引っ張り起こす。
「すまん助かった!」
「どういたしまして。それより準備した部屋に非難する?」
ここまで、階段中程で10人近く倒しているが、長く戦い続けるのは無理だろう。
「そうだな。そうしよう!」
そう言いながら振り向きざまに村人2人に斬りつけ、ムーンはジュディスと共に奥の部屋へと駆け出すのだった。
◇ ◇
「お~、けっこう居るな……」
村長宅の右方2軒隣の路地から顔を出した弘は、村長宅が村人によって囲まれているのを見て呆れ顔で呟いた。
仲間達は、2階の窓から魔法や弓で攻撃しているようだが、散発的に1人か2人倒せているのみで、効果は薄いように見える。
この時、松明に照らし出された中にナクラや村長が混じっていたのだが、夜である上、群衆の中とあっては判別できない。
弘はいったん顔を引っ込め、メルに報告した。
「村人のほとんどが出てきてるみたいっすよ? 1階には踏み込まれた後で、ムーン達は今は2階に居る……のかな? 窓から通りの奴らを攻撃してる~」
「そうか。では、村全体が蜘蛛に支配されていると見るべきだな。そうなると……どう戦うべきか」
メルが考え込む。
「別に全部相手しなくても、他のみんなと合流して逃げる……ってのは?」
「それができれば一番いいが。生き残った連中が人間のフリをして、領主に対し『冒険者の襲撃を受けて、村人に多数の死傷者が出ました』なんて申し出られたら目も当てられんぞ?」
その場合、弘はもちろんのこと、ジュディスやムーンのパーティーは揃ってお尋ね者となる。
「じゃあ、戦って全滅させたほうがいいのか……。全滅……ねぇ。そうだ!」
弘は思いついた作戦を、身振り手振りを交えてメルに説明した。
その内容とは、村人全員に弘のスタン効果がある武器を使用し、一気に電撃攻撃を加えるというものだ。
「こうザザーッて大量の水を被せるんだよ。水ってのは電気が流れるから、まとめて感電させられるぜ!」
「ほう、電気? 君の電撃を発するナックルを使うのだな? しかし、その大量の水はどうする? 手頃な貯水設備はないし、せいぜい飼い牛用の水飲み桶ぐらいだろう? そんなモノを担いでここまで来るのは無理だな」
仮に精霊魔法の使い手が居たとしても、あの村人全員を水浸しにするような水の精霊魔法は、行使するのに相応の実力が必要なのだ。
「井戸くらいはあるだろうが、いちいち汲み上げるわけにもいかん」
メルに論破されて弘は肩を落とした。
(昔、ゾンビ系映画の続編で、似たような作戦で一網打尽にしてハッピーエンド……ってのがあったんだが、現実は上手くいかないもんだ)




